生駒 忍

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ふぐを最初に食べた人の発想と「トンスタン」

きょう、マイナビウーマンに、最初に食べようと思った人の勇気を称えたい世界の珍味1位「フグ(日本)」という記事が出ました。

「最初に食べようと思った人の勇気を称えたい世界の珍味」をたずねたのに、ふぐがダブルスコアどころでない1位なのは、私には違和感があります。特別にグロテスクな外見であったり、不衛生なものと強く関連していたりする食べものではないはずです。誰も食べたことがない時点ですでに、食べると死ぬおそれがあると知られていたとは、考えにくいです。ですので、「最初に食べようと思った人」は、変わった魚だけど食べてみようというくらいの発想で、「クリエイティブ職」の人が言う「死の危険をおかしても食べるなんて、すごい勇気」というほどのことはなかったように、私には感じられます。自分が知っていることと、ほかの人が知っていることとが別々だということが、年齢が上がってもうまく理解できない人がいることは知っていますが、こんなに多いわけはありません。ふぐという魚は知られていて、なのにまだ誰も食べたことがない時代に、たとえば浜辺に打ちあげられたふぐを、犬が危険部位をふくめて食べて、しばらくして呼吸困難を起こして死ぬようなことがあって、だから人も死ぬと広く類推されていたというイメージがあるのでしょうか。

2位がバロットというのも、かなりおどろきました。バロットを知っていて、珍味といわれて頭にうかぶ人が、少なくとも2割近くはいなければ、この結果は出せません。ですが、「昨日、TVで見て吐きそうになった」、これで理由が見えました。ひょっとすると、その放送のタイミングをねらった、記事にインパクトのある1位を打つシナリオでのアンケートだったのかもしれません。そういえば、BLOGOSにきょう出た記事、慰安婦問題はフェミニズムで脱線したには、松井やよりが「問題の火付け役になった1992年のアジア連帯会議を福島みずほ氏とともに主催し、「元慰安婦に(シナリオ通りに)言わせるのは大変なのよね」といい、インドに住むタイ人女性が「インドに来た英国兵はもっと悪いことをした」というと「黙りなさい。余計なことをいうな!」とどなりつけた」お話がありました。

3位、「読み方は「トンスタン」です。」でよいでしょうか。私ならこうは書かないように思いますが、マクルーハンの表記の記事でも書いたように、カタカナのあてはめに正解はないともいえます。もちろん、最近ではベストカー 9月10日号(講談社)で、「サイゼリア」と2回続けて出てくるのは、どちらも誤りであるといえるように、はじめからカタカナの名前には、正解があります。

珍味は、値段の問題もふくめて、食べるために勇気を要するところを、本質にもつのかもしれません。「逆考」のすすめ ありきたりな人生から脱け出そう(山﨑武也著、PHP研究所)には、「実際には、安い食材で珍味よりおいしいものは沢山ある。たとえば、玉ねぎだ。」とあります。

「楽天田中」からのメールと山本彩の留意点

きょう、ロケットニュース24に、「楽天田中」になりすました迷惑メールがヤンキースの田中将大投手に着弾 / 迷惑メール評論家・GO羽鳥のコメントありという記事が出ました。

田中将大のところに、「楽天田中」からの迷惑メールが届いたそうです。「猛威を奮った」という誤字はともかくとしても、あれが確信犯のにせ者なのか、まぎらわしい別人という設定なのかは、はっきりはわかりません。そういえば、自転車日和 vol.30(辰巳出版)には、三崎館本店にいしいしんじと「イシイシンジ」とが泊まり、芸人のほうが逮捕されたお話がありました。まぎらわしい名前といえば、同じくロケットニュース24にきょう出た記事、【疑問再燃】iPhoneは「アイフォン」なのか「アイフォーン」なのか? アップルストアに尋ねてところ意外な回答が!?にも、気になるところがありました。「アップルストア、スタッフの回答」は、後半が危うげで、本社がこのスタッフの割りだしを急いでいるかもしれません。イノベーションズアイの記事、iPhoneはなぜ「アイフォーン」か?をご覧ください。海外では、米アップル、「iPhone」商標訴訟で「iFone」に敗訴 メキシコというできごともありました。

本文の大部分は、「迷惑メール評論家に聞いてみた」という節です。ですが、その評論家とはここの編集長、つまり内輪で、「すさまじく真面目な顔してコメント」などと、不まじめな書き方をされています。尺かせぎも、ちょうど1年前にトゥギャッチに出た記事、ネットの進化とともに増加する”繊細チンピラ”とは?くらいに、メタ的に尺かせぎと明言させながら、あまりかせがず、きちんと笑いをとれば、きちんと明言があるのに、尺かせぎには見えにくくなります。もちろん、あの記事は、その後たくさんのアクセスをかせぎました。GO羽鳥のほうは、おもしろいウェブサイトのトップがあえて、知識の足りないしろうとががんばっておもしろく考えたコメントをまねた雰囲気で笑いをねらう、かなり高度なやり方なのでしょうか。私はついていけず、かえって尺かせぎの色あいが目だって見えました。

ですが、最後の節に、「GO羽鳥によると「この業者は野球シリーズだけではなく、芸能人だと『みのもんた』や『滝川クリステル』で送ってくる」」とあって、ちらりと評論家らしい知識が見えます。すると、先ほどのところは、「心理」を「真意」と聞きまちがえたようなやり取りもありましたし、質問や質問者がよくなかったのでしょうか。そういえば、TV LIFE 首都圏版 9月12日号(学研パブリッシング)に、NMB48の山本彩が、アーティストへの質問に気をつけているというお話がありました。

光通信の経費と言い負かすコミュニケーション

きょう、OKWaveに、光通信の経費節約方法についてという質問記事が出ました。

「光通信」と聞いて、私はつい、タイ代理出産事件で注目を集めたところを、頭にうかべてしまいました。ネガティブな意味あいのものへの、認知的なバイアスでしょうか。あいうえおみせ(安野光雅作、福音館書店)で、「ねずみとり」が文字どおりの意味の絵だったので、ほっとしたことを思い出しました。

自宅のことのようなのに「経費」で書いているのも、やや気になりますが、「おられましたら教えていただくようにお願いいたします。」も、ふしぎな表現です。私は若くないためでしょうか、「おられます」も落ちつきませんが、この書き方ですと、話者本人に対して教えてほしい感じが、あまりしません。「教えていただけますよう」にすると、改善されそうですが、どうでしょうか。敬語の感覚のむずかしさを感じると、一転して、まだまだ自分は若造だと感じてしまいます。

敬語の感覚で思い出したのが、誠 Biz.IDにきょう出た記事、「教えてもらったけど、できません」です。結論はこれでよさそうですし、よくない例は、中の「やった」も、以前に書いた不適切発言の抑制法の記事で触れたお話とも関連しますが、不適切でしょう。ですが、「「教わってません」「聞いてません」なども、相手を否定することになるのでNG」、これは教えても意味がないような気がします。「教えてもらったけど、できません」の場面で、水かけ論へとすりかえて引きわけに持ちこむ戦術を使う人も、いるとは思います。就活のコノヤロー ネット就活の限界。その先は?(石渡嶺司著、光文社)によれば、2010年代の勉強しない学生にとって、コミュニケーションとはSNSでののしったり、言い負かしたりするものなのだそうです。そういう人は、NGだと言われてやめることは、なさそうに思います。

インスタントラーメンの定義とジェンダー差

きょう、JOLonlineに、約40%のティーンは月に1、2回はインスタントラーメンを食べる…!?という記事が出ました。

「お手軽フードの代表格、お湯入れて数分待てば食べる事のできるインスタントラーメン。」と書き出されます。カップラーメンだけか、煮る必要のないチキンラーメンのようなタイプのものまでを、インスタントラーメンと呼んでいるようです。ですが、これは一般的な定義だけでなく、調査結果ともずれます。4位、マルちゃん正麺は、カップ化はされていませんし、ためしたことはありませんが、チキンラーメン方式の調理は適さないはずです。また、7位は、さまざまなバリエーションがつくられてきたシリーズですが、ラーメンは見たことがありません。2位も、ラーメンとはまた別と考えるほうが自然なように思います。もちろん、1位も、「ヌードル」がラーメンかという問題をはらみます。

その2位は、「王道のソース味から明太マヨ、シーフードに塩味とそのバリエーションが増えているのも人気を反映した証。」という説明の文末を、「人気の証」か「人気を反映しています」かにしたいところですが、ここだけ固有名詞ではないカテゴリなのも特徴的です。それで思い出したのが、はぐ(佐々木マキ作、福音館書店)です。こちらは逆に、毎回同じパターンに見えて、「きのこちゃーん」だけが固有名詞なのです。

月あたり0~2回が8割という調査結果、少なく見えるかもしれません。ですが、昨年の暮れにマクドナルド不振の記事で触れた、若者の献血離れのような解釈の前に、調査の性質を考えたほうがよさそうです。真夏の調査であることはもちろん、ジェンダー差もありそうなテーマですので、これでおかしくはないように思いますが、どうでしょうか。

ミルグラム服従実験の再解釈と「操作人間」

きょう、AFPBB NEWSに、「悪は凡庸」ではない?有名実験を新たに研究という記事が出ました。

「1961年に米エール大学(Yale University)の心理学者スタンリー・ミルグラム(Stanley Milgram)氏が実施した伝説的な実験」に関する研究のひとつの紹介です。もちろん、「アイヒマン実験」の論文としての公刊は1963年ですが、実施は1961年7月からです。「この実験での発見は、ナチス・ドイツ(Nazi)のホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)に関与したナチス親衛隊のアドルフ・アイヒマン(Adolf Eichmann)の1961年の裁判を扱った政治哲学者ハンナ・アーレント(Hannah Arendt)の画期的な著書と一致」とありますが、その裁判の報道を見てから設計された実験です。そして、Behind the Shock Machine: The Untold Story of the Notorious Milgram Psychology Experiments(G. Perry著、Scribe Publications)によれば、アイヒマンの事例と一致させやすいように解釈したようでもあります。なお、この本のAmazon.co.jpのページの紹介文は、以前に知的なイルカの登場作の記事で触れた本のものと思われる「おうむ返し」で、こわれていますので気をつけてください。

「「ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・サイコロジー(British Journal of Social Psychology)」に発表された新たな研究」とあるのは、「ソーシャル」が落ちていますが、全文が公開されている‘Happy to have been of service’: The Yale archive as a window into the engaged followership of participants in Milgram's ‘obedience’ experimentsのことだと思います。誰の論文なのかが記事に直接には書かれず、職業上気になってしまいましたが、記事中に発言のある2名が、第1・第2著者です。そういえば、宮古毎日新聞のウェブサイトにきょう出た記事、「操作人間」(行雲流水)には、「そのことで生活が便利になる反面、それが高じると人は「操作人間」になると現代の社会心理学は警告する。」とありますが、「現代の」、しかも社会心理学者に小此木啓吾を入れるのは苦しいので、別の誰かのはずなのですが、社会心理学者の誰の警告なのでしょうか。

みちびかれた知見は、「異常なほどの実害を及ぼす行動」が、権威への服従という消極的なかたちよりも、むしろ積極的な「大義」にささえられるということのようです。ふと、そだちの科学20号 思春期のそだち(日本評論社)に登場した、「世界平和のために免許は取りません」を思い出しました。