生駒 忍

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不適切発言を悪口で抑制する心理学的方法

きょう、アメーバニュースに、相手にとって言ってはいけないことを言った時の対処法―同じような悪口や悪態を続けて連発するという記事が出ました。失言をカバーする斬新な方法の提案です。

かなりむちゃな提案であるように思えますが、とても古典的な記憶研究に根拠をおいた着想です。ポップ心理学的な文脈で、B.J. Underwoodが登場するのは異例ですし、Skaggs-Robinsonにいたっては、今の心理学者には聞いたことのない人もいそうです。なお、前者はWikipediaに単独記事があるすぐれた心理学者ですが、Wikipediaのinterference theoryでは、"The next major advancement came from American psychologist Benton J. Underwood in 1915."とあって、さすがに早熟がすぎると思います。

提案のベースにある現象は、「逆行抑制」です。どちらかというと、「逆向抑制」と表記することが多いようにも思いますが、その表記ですと、記憶現象では新近性効果とならぶ、日本語変換がしにくい用語となります。ですが、意外に古い文献でも、「逆行抑制」も見かけます。たとえば、1971年の心理学辞典(ミネルヴァ書房)では、「順行抑制」「逆行抑制」がならびますし、1970年に出た講座心理学 4 知覚(大山正編、東京大学出版会)では、「順向抑制」「逆行抑制」です。

「しかし、やってしまったことはもう仕方がありません。」とあるのを読んで、実験レポート等では、やる/やらせると表現するときちんとしたことばづかいではないと添削が入りがちですが、「しまった」ものならば意味あいが変わると思いました。ですが、きちんとした科学研究機関も、使ってしまうことはあります。理化学研究所による理研ブログ2014にきょう出た記事、認知心理学の実験にご協力いただける方(20歳~30歳)を募集しています!には、「どなたでもできる簡単なゲームのような課題をやっていただく」とあり、ていねいなことばづかいと同居したかたちです。

困ったときについ取りたがる方向とは反対にあえて進ませて、何らかのよい効果をねらうのは、心理療法ではよくあります。森田療法の恐怖突入、行動療法のフラッディング、認知行動療法の反応妨害法、ブリーフセラピーのパラドキシカルアプローチ、いろいろあります。この記事での提案にも、軽減どまりではなく、「最後はお互いに吹き出してしまって丸くおさまる」ところまで反転させるためには、抑制以外のメカニズムを考えることになるでしょう。

見方によっては、冷静に考えればよくないはずの要素で、あえて突きぬけて効果をねらう奇策、そうなのか! ランチェスター戦略がマンガで3時間でマスターできる本(田岡佳子著、明日香出版社)でいう八方破れに近いようにも思います。それでも、ふつうは破れかぶれどまりで、よけいに迷惑ですし、さらに首がしまる可能性が高いでしょう。かなわぬ想い 惨劇で祝う五つの記念日(角川書店)所収の「正月女」が、不幸に追いこまれた主人公が、ほかの女性も巻きこもうとしてさらに不幸に落ちる落ちだったのを思い出します。その作者の坂東眞砂子が、きょう亡くなりました。ご冥福をいのります。