生駒 忍

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見えないスクールカーストと「ほんとうの私」

きょう、BizLadyに、ウソ私って最下層!? 会社にもある「見えないカースト」あなたの位置は…という記事が出ました。

タイトルで、「ウソ私」をそういう複合語だと、一瞬だけ読みまちがってしまいました。「ほんとうの私」ではない「私」を、こう呼ぶというイメージです。もちろん、「ほんとうの私」をもとめる感覚が危険であることは、クローズアップ 学校(藤田主一・浮谷秀一編、福村出版)や、チャット恋愛学 ネットは人格を変える?(室田尚子著、PHP研究所)などに指摘があるとおりです。それにしても、SPA! 4月12日・19日号(扶桑社)でも、「今原幹恵」という人が活躍しているのだと誤解したところで、少々疲れているようです。

「なんと社会人にもカースト制度が存在するよう」、言いたいことはわかりますが、よい表現ではないと思います。「○○カースト」という表現に、たとえで使っているとわかるとはいっても、ほんものの重さを考えれば安易に使うべきでないという批判もあるわけですし、ここでははっきりと、制度としてあるように書いています。もちろん、カーストということばそのものが制度をさすので、「カースト制度」は「HIVウィルス」や「北大路通」くらいにはおかしなことばだ、あるいは単に「制度」とみたのでは本質をとられきれない、そもそも「カースト」ということばのなり立ちが不適切、などと言いだすときりがありません。

調査結果が、「しかし「最上層」(12.8%)、「上層」(13.4%)の2つを合わせると自分が「カーストの上にいる」と思っている人は26.2%も!逆に、「最下層」(7.0%)、「下層」(14.8%)を合わせると21.8%と対照的な結果に。」と表現されます。どこがどう対照的なのかが、よくわかりません。極よりはその手前のほうが多いのは同じで、むしろ対称的ですし、上が26.2、下が21.8では、等しくはないものの、対照的というほどのちがいにも見えません。「地位や収入で自分をランク付け」「「お金がない」ことで自分を低く」といったことであれば、正の歪度を持ちそうな分布から、上のほうが多い結果が出るのはふしぎだというのでしたら、わかります。平均以上効果が入ることも、わかります。ビニールタッキーという人のツイート、メイド喫茶やコスキャバに来る客は「俺はここにいる他の奴らに比べて気持ち悪くないから彼女たちに好かれている」とを思い出しました。下層ノマドの「新しい働き方」の記事の最後に触れたような、並を目ざす日本的な競争感覚とも関連しそうです。

さて、「また上には上がおり、医師の年収が高いと思っても、米国のIT企業家に比べものにならない場合も。またIT企業家でもハリウッドセレブなど、エンターテインメント業界やビジネスで大成功した人に比べれば収入は落ちるかもしれません。」とあります。1か月ほど前に話題になった動画、Be grateful fot what you have!を思い出しました。「大事なのは、「自分と人を比較してどうか」ではなく、「自分自身の目標を達成したか」。」なのです。ですが、その達成ができそうかどうか、他人との比較で気づくこともあります。PHP 2016年5月号(PHP研究所)には、エケペディアの牧野アンナで、Staygoldというアカウントが要出典をつけたところに関連しますが、安室奈美恵の才覚を目にして夢をあきらめた、牧野自身による回想があります。島田紳助が司会に転向したエピソードと同様、その後の道で、確固たる地位を得たわけです。なお、これをふくめて浮きしずみのあった牧野にくらべると、紳助の転向はなめらかでしたが、DVD付きマガジン よしもと栄光の80年代漫才 2(小学館)によれば、若い女性の「追っかけ」のターゲットになると芸が甘くなるとして、「あいつらを笑わしにかかったら終わりや」とまで言っていたのが、その正反対とでもいうべき「硬派」とのつき合いを甘くみて、芸能界を追われて終わったのでした。

さて、最後にきて、「以上、スクールカースト・社会人カーストの実態についてご紹介しましたが、いかがでしょうか?」とたずねてきます。ですが、スクールカーストのお話は、見あたりません。ママカーストのほうが、まだ記述があるくらいです。こころのきれいな人には、見えないのでしょうか。素材とされたオウチーノ総研の発表、「スクールカースト・社会人カースト」実態調査には、きちんと入っていますので、書きわすれたのでしょうか。音楽的コミュニケーション 心理・教育・文化・脳と臨床からのアプローチ(D. ミール・R. マクドナルド・D.J. ハーグリーヴズ編、誠信書房)の映画音楽の章を訳したときに、モハメド・アリ かけがえのない日々(L. ギャスト監督)の分析を紹介するように書いていながらされずに終わっていたため、訳注を足したのを思い出しました。