生駒 忍

記事一覧

「大人のひと」の書き方とマージナル・マン

きょう、毎日新聞のウェブサイトに、「大人のひと」と「社会人」という記事が出ました。

「就活がテーマの面を担当するようになって何人もの学生に取材を始めた頃、驚いたことがある。どの学生も社会人を「大人のひと」と呼ぶ。」、皆さんはおどろきますでしょうか。取材なので、おそらく声でとどくことばなのだと思いますが、ひらがなで「ひと」と書いています。漢字にすると同じ字が続いて感じがよくないので、こうしたのでしょうか。一方で、ひらがなにすることで、ソフトな印象にもなります。ですが、少なくともかしこいイルカが登場する作品の記事で取りあげたファミコンソフトは、いちじるしくハードです。

「学生は謙虚で、社会人を実際以上に「上」に感じているらしい。」と解釈します。就活のきびしい現実に鼻をへし折られて、謙虚になったのかもしれませんし、その謙虚さが内定をみちびくことを、願いたいと思います。そういえば、女性セブン 2月18日号(小学館)によれば、「なぜ離婚後の女性はモテるのか。」の答えのひとつは、「一度、結婚で失敗をしていて現実を知っているため謙虚で高望みをしない。」ことなのだそうです。

「記事を書くときは、「大人のひと」を「社会人」と置き換える。大人との境界をそこに置く学生たちの微妙な心理に、できるだけ敏感でいたいと思いながら。」と締めます。レヴィンが境界人、マージナル・マンの用語をあてたことを思わせます。ただし、レヴィンが境界人という表現をつくったと思っている人には、その根拠をうかがいたいところです。社会科学における場の理論(K. レヴィン著、誠信書房)の6章からは、そのようには感じられません。

鳥谷敬の子ども医療センター訪問とチャゲの死

きょう、日刊スポーツのウェブサイトに、阪神鳥谷こども医療センター訪問し “鉄人”の約束という記事が出ました。「阪神鳥谷がキャンプ休日の5日、沖縄・南風原町の沖縄県立南部医療センター・こども医療センターを訪問した。」ことを報じたものです。

実際に発言しなかったかどうかまではわかりませんが、病棟の子どもたちへの、ありきたりな同情のことばは記事にはありません。話題は本人のことに終始します。それで、売名的なパフォーマンスには見えないのは、第5回若林忠志賞に選ばれたこの人の人徳かもしれません。

「ここで会った子供たちが甲子園まで来てくれた時、自分がグラウンドに立っていないのは嫌。やっぱり1年間、グラウンドに立ち続けたい」、ストレートで、しかも行きとどいています。子どもたちの元気づけになる一方で、元気づけに来た私が元気をもらいました、などとありきたりなことは言いません。元気でない子どもたちから、元気をとってはいけません。そんなへりくつはともかくとしても、「元気をもらいました」という安いフレーズの空虚さは、ランチェスター戦略式 1枚シートであなたの会社が儲かる!(河辺よしろう著、すばる舎)が、そして幸運の99%は話し方できまる!(八坂裕子著、集英社)はさらに手きびしく、指弾しているとおりです。

「訪問の途中、センターを守っているという野球少年とアイコンタクトをしながら固く手を握る場面もあった。」そうです。つい、まるで自宅警備のように、このこども医療センターから出ていない少年だと誤読しそうになりました。こども医療センターはこの少年が来る前からセンターですし、少年はおそらく入る前からセンターだったのでしょうけれども、どちらかがゆずるというわけにもいかず、まぎらわしくなったのでした。

それで思い出したのが、スポーツ報知のウェブサイトにきょう出た記事、元「モー娘。」田中れいな「結婚いたしません」田中麗奈の電撃婚で勘違いされる?です。もうシャボン玉(モーニング娘。)でセンターとなり、「あんた名義の恋をしな」と歌った田中は、女優の田中麗奈とまぎらわしいために、「田中れいな」名義で活動しています。マイケル・J・フォックスのようなものです。なお、この記事はブログの内容について、誤解をまねくところがあります。「笑」の字が抜かれていますし、発表する約束は、報告のあったブログ記事、私 田中麗奈やけども。の中ほどにあって、最後ではありません。

一部で最期のニュースが誤解をまねくかたちになったのが、東山動植物園の、ジャガーのチャゲが死亡しましたです。最後に、「チャゲの死亡により、アスカ(オス)1頭のみとなりました。」とあることから見当がつくように、そもそもそういうネーミングだったのですが、おととい書いた『依存症からの脱出』の記事で取りあげた事件もあり、おかしな注目を集めてしまいました。もちろん、人間のほうはどちらも存命中ですが、ASKAは元気ではなさそうです。週刊新潮 2月11日号(新潮社)は、「逮捕から約2年が経ったいまになって、なぜ精神科病院に隔離されるほど容態が悪化したのか。」「彼は妄想ブログにばかり執着した挙句、入院に」といった事態を取りあげています。

レストランで効くフレーズと「ありのまま」

きょう、マイナビウーマンに、レストランのメニューに書いてあるとつい「頼みたくなるフレーズ」10という記事が出ました。

「女性のみなさんはどんなフレーズで「つい頼みたくなってしまう」のでしょう」というテーマの、「第1位は30.4%で「本日のオススメ」でした。」とあります。私などはつい、かたよってだぶついた食材を廃棄から救う意図ではと考えてしまったりもしますが、システム1的に決めさせる、COURRiER Japon 2014年8月号(講談社)でいう「現代の魔法」の一種が効くのでしょう。

「第3位は20.7%で「○食限定」。」です。「第2位は22.5%で「今が旬!」。」にも、「「この季節にしか食べられない」まで変換されてしまったらもうあとは注文するだけ」とありますし、限定品商法の要注意ワードの記事でも取りあげたように、限定メッセージの力も強力です。

結論は、「ちょっとしたフレーズにも影響されてしまうというのは何も恥ずかしいことではありません。」「食事くらい楽しくいきたいものですから、どんどん影響されてしまいましょう。」となります。気をつけましょう、ではなく、ありのままでいこう、あるいはむしろ恐怖突入のような、ポジティブな態度です。ですが、流行語のトリクルダウンの記事で取りあげたように、「ありのまま」はむしろ、ネガティブワードなのです。

『依存症からの脱出』と25歳だった清原へ

先日、知人の研究室に遊びに行った際に、依存症からの脱出(直江文子著、北辰堂出版)をいただきました。ありがとうございます。

まえがきによると、「私なりに「依存症」について一冊を書きあげてみたい」という思いからこの本にいたったようですが、実際には別の人の書いたもの、語ったものがたくさん入っています。それぞれを受けて筆者が論を進めるわけでもなく、ばらばらなものが起承転結を形成しないようにならび、アルコール依存の本のはずが最後にネット依存への脱線があるという、構成を感じさせない構成です。断酒会らしい言いっぱなしを表現したと読むところでしょうか。

それでも、単著あつかいです。「単著もないのに」の流行からもう10年になろうとしていますが、「実は「自分の思いを一冊に書いてみたい」と思い立ってから、六年の歳月が流れてしまいました。」と述べつつ出した、単著です。直江文子というのは、本名かどうかの検証はほかの人にまかせますが、個人名なのです。藤子不二雄やエラリー・クイーンのような、個人名とまぎらわしいユニット名ではないはずです。ふと、探偵ファイルの記事、品川庄司はコンビ名!を思い出しました。

「「飲酒運転」「自殺予防とアルコール」などという言葉とともに「依存症」の問題がクローズアップされるように」とありますが、アルコールに限らず、依存の存在感は、近年強まりつつあるように感じます。最近では、うつくしい子どもが第68回ちばてつや賞入選作品となり、テレビ朝日系列のしくじり先生 俺みたいになるな!!は来週の放送でギャンブル依存にはまった貴闘力を登場させるそうですし、昨日の中央社会保険医療協議会総会は、禁煙外来の保険適用要件から、若年者にかぎりブリンクマン指数をはずしました。議事次第の「個別改定項目(その3)について」362ページから363ページのところです。そして、芋づるが来なければことし最大の依存関連ニュースになりそうなのが、清原和博の逮捕です。週刊文春 3月13日号(文藝春秋)のスクープ以来、いずれ来ると言われつつも、ショッキングな事件となりました。なお、あのスクープはきょう電子書籍化されて、週刊文春が報じた 清原和博「薬物疑惑」直撃取材のすべて(週刊文春編集部編)として、100円で入手可能となりました。

直接の言及はありませんが、おそらくこの逮捕を受けたと思われるのが、TAMESUE.JPにきのう出た記事、25歳の君へです。毎日新聞のウェブサイトにきょう出た記事、清原容疑者逮捕 桑田真澄氏「人生でも逆転満塁アーチを」にある桑田の指摘、「いつまでも4番バッターでいる自分が忘れられなかったというか、変わり切れなかったというか。そこが非常に残念」と同様の思いを、いつものやわらかい筆致で、前向きに、いまの25歳向きに表現しているように思えます。

清原は、その25歳までに1億円プレーヤーになるという夢を、23歳にしてかなえました。ですが、この大スターは、25年後にホシになってしまいました。その9けたの契約更改を報じた1990年12月13日付日刊スポーツには、1億円の使いみちについて「いい車があったら買いたいです」との答えがありましたが、CarMeに1か月前に出た記事、離婚?破産寸前!?清原和博の愛車遍歴が異常すぎる!!にあるような誰もまねできない展開ののち、逮捕のニュースでは、誰も乗せられたくない車に乗った姿が新聞各紙に載りました。ただし、球界の先輩では、同じく覚醒剤で乗せられた、江夏豊の例があります。清原、25歳のときでした。

薬物の経験率と「猫派」ではなかったフロイト

きょう、マイナビ学生の窓口に、科学者が教える「人より頭が良い人たちのサイン」7つという記事が出ました。

「世界各国の科学者たちの研究により、これまでに頭が良さに影響するさまざまな要素が発表されています。そのうちの7つをご紹介します。」と書き出されます。頭がよさそうな印象を受けにくい文なのはともかくとしても、末尾に出所らしいものとして示された、Business Insider Australiaの記事、8 science-backed signs you're smarter than averageは、タイトルからすぐわかるように、8種類を取りあげたものですので、「7つをご紹介」ということは、ひとつは紹介しないということです。そして、見くらべなくても、ひと目見ればすぐ、「You've used recreational drugs.」だと見当がつきます。説明にははっきり、illegal drugsとありますし、日本向けには向かない話題です。健康心理学・福祉心理学問題集119(生駒忍著、デザインエッグ)にも関連する選択肢を入れましたが、こういった薬物の使用率の低さでは、わが国は世界的にみて異例です。厚生労働省による薬物乱用の現状と対策で、「主要な国の薬物別生涯経験率」をご覧ください。

それを除いた、出所にあるものを、2番目を「痩せている」にして反時計回りかと思わせながら、原則として時計回りに示していきます。伝聞調にしたほかは、いわゆるイタコ訳というほどのこともなく、心理学的な表現や用語も知ってか知らずかさけられて、読みやすい訳という印象です。「左利き」ではオリジナルな追記、「猫派」では後段がなくなっているといったくふうが認められます。

その「猫派」の研究知見は、LiveScienceに1年4か月前に出た記事、Dog People vs. Cat People: Who's More Outgoing? More Intelligent?にあるものでしょう。捨て猫集団の問題の記事で取りあげたように、ネコは統合失調症などの精神疾患とも関連しますし、ある側面だけでどちらが心理学的によいかを決められるものではありませんが、神のカウンセリング(C. エレーナ・仁愛著、ハギジン出版)が正反対として位置づけたように、イヌかネコかという対立軸は、こころの何かとつなげたくなるものです。

それで思い出したのが、フロイトの名言として出まわるフレーズです。ネット上で、「猫と過ごす時間は、決して無駄にならない」、ないしは「猫と過ごす時間は、決して無駄にはならない」ということばが、なぜかフロイトによるものとして広まって、困ったものだと思っていたのですが、猫に名言 フロイト、ユング、アドラーの50の言葉(清田予紀著、主婦と生活社)には、前者のほうで堂々と出てしまいました。ですが、Freud Museum LondonのウェブサイトのFrequently Asked Questionsによると、そのような発言は見あたらない上に、フロイトはネコを好まず、むしろ「犬派」だったのです。