生駒 忍

記事一覧

スマートフォンによる不快感と「スマホうつ」

きょう、zakzakに、頭部の不快感から顎関節症… 「TCH」は“スマホ猫背”が原因だった?という記事が出ました。zakzakではめずらしい署名記事で、医療ジャーナリストの長田昭二の名前があります。

ここのところ、歯科領域からTCHへの関心が高い状態が続いています。半年前に出たTCHのコントロールで治す顎関節症(木野孔司著、医師薬出版)は、Amazon.co.jpの口腔外科学カテゴリでベストセラー1位となっていますし、一般向けの啓発も行われています。ですが、この記事では、訳さずに「「トゥース・コンタクティング・ハビット(TCH)」という病態」と書いていて、一般の人には親しみにくそうです。一般には、「歯列接触癖」と訳されます。

スマホと健康問題とを、姿勢を間にはさんでつなぐ議論は、若者の歩き方の記事でも紹介しました。また、最近出た本では、スマホうつ(川井太郎著、秀和システム)があります。表紙には、「SNSだけじゃないうつの真相」とあります。ですが、スマホを使うときに姿勢が「うつむく」、これを「うつ」に向くと読むところから展開されることに、納得できないと感じる方もいるでしょう。ちなみに、Sanseido Word-Wise Webに2年前に出た、漢字の現在 第79回 画数の多い漢字による表現には、「「俯く」が「鬱向く」と歌詞やWEBなどで書かれるのは、語源解釈自体が変わってきたためであろうか。」とあります。

「津波ラッキー」と「マナー神経症」の時代

きょう、秒刊サンデーに、フジテレビ「東日本大震災」のドラマに出て来た名刺「津波ラッキー」に物議という記事が出ました。昨年放送されたテレビドラマに、震災を揶揄しているととれる場面があったことが発見されたそうです。

つい、「日本の大震災をお祝います」事件を思い出してしまいました。ご存じない方は、ロケットニュース24の、サッカーACL「大地震をお祝い」横断幕に韓国人も激怒 / 試合に勝ったが「大きな敗戦」をご覧ください。今回の件は、未必の故意も含め、不適切とわかって仕込んでいたのか、誰も気づかずに通してしまったのか、知りたいところですが、今のところはわかりませんし、突きとめることもむずかしそうです。J-ADNI「不適切データ」問題で、改ざん疑惑を指摘した側だった朝田隆・筑波大学教授が、きょうのYOMIURI ONLINEの記事、改ざんではない、未熟…認知症研究で部門責任者では一転して、改ざん否定に回る混乱を連想しました。あの名刺をつくった小道具スタッフは、悪意を持ってこうしたとしても、あるいはもしそうだとしたら必ず、名前によい英単語を組みあわせたよくあるメールアドレスにしただけで、そういうつもりはなかったと言いはれるよう、逃げ道まで考えてあのようにつくっていそうです。その点では、もともとの脚本の段階で、わざわざ「つなみ」と読む人物を設定したのが、そもそものまちがいだったように思います。震災前に書かれた原作ものではなく、オリジナル脚本なのですし、珍名だらけの物語設定でもないのに、「つなみ」と命名する必然性がどこにあったのか、私には見当がつきません。

一方で、そんな細かいことを被災者は大して気にしないという声もあるでしょう。昨年10月に出た円谷プロ特撮DVDコレクション06(講談社)は、東京が大津波にのまれるウルトラマンレオ第1話を収録した上、津波シーンを「素晴らしい迫力」とたたえましたが、おわびや回収になったとは聞きません。今回の名刺では、被災者を代表できそうなところからの反発であったとしても、方広寺の鐘銘が豊臣氏の滅亡につながったようにはならないでしょう。弱者を持ちだして、大資本の下ではたらく下っぱの行いをたたくのでは、イザ!にきょう出た記事、可視化されるストレス…鉄道マナーの議論白熱に「終点」は?にも取りあげられた、グリーン車開放要求騒動のようでもあります。その記事で主な論点になっている、近年のマナー要求の肥大化については、日本はなぜ諍いの多い国になったのか 「マナー神経症」の時代(森真一著、中央公論新社)の論考が興味深いと思います。

弱者とは別に、亡くなった人もまた、あつかい方に気をつけないと、不謹慎として指弾されやすくなります。津波の場合は、存命の被災者だけでなく、多くの死者を出したこともありますので、「津波ラッキー」名刺は両方にかかわる問題といえます。昨年は、やなせたかしが亡くなりましたが、これを受けての吉田戦車の発言が、不謹慎だと批判をあびたのは記憶に新しいでしょう。宮崎駿が手塚治虫追悼の場で口をきわめて手塚批判を展開したお話は、オタク学入門 東大「オタク文化論」ゼミ公認テキスト(岡田斗司夫著、新潮社)にくわしいですが、そこまでの執念のなかった吉田の発言にも、批判が出たのでした。ですが、こういう時代になったとはいっても、年月がたつのを待ってから言えば、こうはならなかったでしょう。昨年出たjazz Life 2013年3月号(ジャズライフ)のまんが「ジャズ爺」には、「ヘンリー・マンシーニって生きてたっけ?」「マンシーニと言うぐらいだから死に、でしょぅ」というやりとりがありますが、名前を死と引っかけるなと、どこかで問題になったとは聞きません。ところがもし、昨年に亡くなった牧伸二について、同じように「伸二と言うくらいだから死んじ、でしょぅ」などというまんががどこかに載っていたとしたら、より不謹慎な感じがしませんでしょうか。

上の世代が幸運だったことが若者の不運です

きょう、JBExpressに、若者の苦悩の原因は政策ではなく運の悪さだという記事が出ました。フィナンシャル・タイムズに出た、Bad luck, not policy, is the scourge of the youngを和訳したものです。

すでにあちこちで反響がありますので、ここでは運に関して少しだけ、触れておきたいと思います。タイトルからは、若者に運がなかったということになるのですが、内容を見ると、直接にはベビーブーマーにもう二度とないほどの運があったことが書かれています。そして、運のあった多数のベビーブーマーとの対比が際だってしまうところに、今日の若者に特有の運のなさがあるということになります。

もちろん、世代にかかわらず、運だと思われるものの力に誰もが気づかないわけではなく、自覚のある人も多くいます。出光佐三の日本人にかえれ(北尾吉孝著、あさ出版)には、「私の履歴書」に登場した蒼々たる顔ぶれに、運がよかったと書いている人が多いという指摘があります。もっと若い世代ではたとえば、井口資仁がブレないメンタルをつくる心の軸(ベースボールマガジン社)で、自分は幸運だったと明言しています。また、ぼくだったら、そこは、うなずかない。(石原明著、プレジデント社)には、「アメリカの学者も言っていますが、成功者のキャリアは偶発的に形成されたものがほとんど。」とあります。おそらく、近年の産業組織心理学で「計画された偶然性理論」として知られる考え方を指しているのでしょう。スタンフォード大学のクランボルツが提唱しました。面白いほどよくわかる! 職場の心理学(齊藤勇監修、西東社)では、1回だけ「クロンボルツ」とも書かれています。

照明色の効果で学生が体調を崩す心理学実験

きょう、マイナビウーマンに、色彩がもたらす部屋の色の効果―天井と壁はホワイト系、バスルームはピンク系をという記事が出ました。心理学とついているのに本業の心理学者がほとんどかかわりをもたない「色彩心理学」のお話です。

「■明るい色は人を明るくする」というのは、きたないことばをかけるときたない氷に結晶するなどの、物心相関の連想ゲームでしかないと思う人もいるでしょう。もちろん、この「でしかない」は、神戸新聞NEXTにきょう出た記事、人口減少社会 「地域でしがらみを持とう」で、藻谷浩介が「年老いていざというときに救ってくれるのは、しがらみのある人でしかない。」と使っているのとは異なる、否定的な意味です。ですが、光療法が季節性感情障害の症状を改善するエビデンスはあります。また、この「明るい」のような、同じような表現がされる別領域の性質どうしの心理学的な対応についても、研究が進みつつあります。永井聖剛・産総研ヒューマンライフテクノロジー研究部門認知行動システムグループ主任研究員のグループの、身体化された認知の研究にも、そのような面があります。日本認知心理学会第11回大会優秀発表賞や、日本心理学会平成26年学術大会特別優秀発表賞を得ている、興味深い研究です。

「■明るい色の照明で健康に」は、同じマイナビウーマンにきのう出てアクセスを集めている記事、彼氏に飽きられない工夫「Hのときの照明は暗く」「変顔のレパートリーを増やす」との対照がおもしろいです。また、「ある大学での心理学実験によれば」という書き方は、小ずるいように思います。伏せる必要のなさそうな出所が、明かされずたどれませんし、しかも単に「ある実験によれば」にはせずに、「大学」や「心理学」といった権威づけのキーワードは入れているのです。環境問題補完計画というブログの記事、武田氏のトリックパターン類型化にある、「A-1.権威付け記述があるときは怪しめ!」「A-2.引用元が本当にあるのか怪しめ!」を思い出しました。そして、よい方向の知見ではなく、照明色の操作で「実際に体調を崩した学生が多かった」実験なのも、変わったパターンかもしれません。

「■天井と壁はホワイト系、バスルームはピンク系を」は、前者はともかくとしても、後者は主にお部屋の模様がえを想定していると思われるこの記事では、異色です。クロス張りかえやアイテムの新調のレベルではない、本格的な工事になってしまいます。それとも、ペンキで塗るようなイメージなのでしょうか。「バスルームはピンク系の色を選ぶのをおすすめ」とあるのは、どんな時点で「選ぶ」ことを想定しているのでしょうか。

「■ラッキーカラーをうまく使おう」は、いかにも迷信的ですし、プラセボ的な効果があるという程度かもしれませんが、「色彩心理学」に興味のある人には、言ってほしい内容なのかもしれません。また、「より効果的になる」という表現が、少し気になりました。何に対しての効果なのかが、はっきりとは書かれていません。最初の段落にあった「これに基づいた配色をすることが効果的」も、何に効果的なのかがわかりませんでした。特定のどこかに与える効果を明示するのではなく、何となくよい感じを出すことに焦点があるようです。原形をとどめない和訳タイトルにされた、「脳にいいこと」だけをやりなさい!(M. シャイモフ著、三笠書房)を思い出しました。

学部の入試相談会で研究テーマを相談しますか

きょう、駿河台大学心理学部のウェブサイトに、学内・学外向け 入試相談会を開催しますという記事が出ました。新年になってから、初めての更新です。

「以下の日時で」として示されているのは、実施日はこれでよいのですが、相談の時間は書かれていません。書かれているのは「受付時間」ですので、参加される方は気をつけてください。本題の終了時刻がいつかわからないところには、asahi.comの記事、〈学長力〉産業人、組織に「喝」 芝浦工大学長 柘植綾夫学長にある、会議の開催通知のお話を思い出しました。

「個別相談ですので、入試だけでなく研究テーマについてもご相談ください。」とのことです。きょう、大紀元電子日報に、研究:團體心理治療優於個人諮商という記事が出ましたが、この会は個別相談の利点を活用するようです。ですが、「研究テーマについても」とあるところに、学部の入試相談会でもう研究のお話とはと、少しあわててしまいました。

心理学研究科のほうのサイトを見れば、その誤解がとけます。きょう、そちらにも、学内・学外向け 入試相談会を開催します、つまりまったく同じタイトルの記事が出ました。しかも、本文もまったく同じです。カテゴリと、その画像と日付との間の改行によって生じる半角スペースの有無が異なるだけです。心理学部のサイトの記事ではあっても、その学部のものではなく、学内の大学院の入試相談会のことだったわけです。「学内・学外向け」とつけてあるのも、それなら納得できます。