生駒 忍

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照明色の効果で学生が体調を崩す心理学実験

きょう、マイナビウーマンに、色彩がもたらす部屋の色の効果―天井と壁はホワイト系、バスルームはピンク系をという記事が出ました。心理学とついているのに本業の心理学者がほとんどかかわりをもたない「色彩心理学」のお話です。

「■明るい色は人を明るくする」というのは、きたないことばをかけるときたない氷に結晶するなどの、物心相関の連想ゲームでしかないと思う人もいるでしょう。もちろん、この「でしかない」は、神戸新聞NEXTにきょう出た記事、人口減少社会 「地域でしがらみを持とう」で、藻谷浩介が「年老いていざというときに救ってくれるのは、しがらみのある人でしかない。」と使っているのとは異なる、否定的な意味です。ですが、光療法が季節性感情障害の症状を改善するエビデンスはあります。また、この「明るい」のような、同じような表現がされる別領域の性質どうしの心理学的な対応についても、研究が進みつつあります。永井聖剛・産総研ヒューマンライフテクノロジー研究部門認知行動システムグループ主任研究員のグループの、身体化された認知の研究にも、そのような面があります。日本認知心理学会第11回大会優秀発表賞や、日本心理学会平成26年学術大会特別優秀発表賞を得ている、興味深い研究です。

「■明るい色の照明で健康に」は、同じマイナビウーマンにきのう出てアクセスを集めている記事、彼氏に飽きられない工夫「Hのときの照明は暗く」「変顔のレパートリーを増やす」との対照がおもしろいです。また、「ある大学での心理学実験によれば」という書き方は、小ずるいように思います。伏せる必要のなさそうな出所が、明かされずたどれませんし、しかも単に「ある実験によれば」にはせずに、「大学」や「心理学」といった権威づけのキーワードは入れているのです。環境問題補完計画というブログの記事、武田氏のトリックパターン類型化にある、「A-1.権威付け記述があるときは怪しめ!」「A-2.引用元が本当にあるのか怪しめ!」を思い出しました。そして、よい方向の知見ではなく、照明色の操作で「実際に体調を崩した学生が多かった」実験なのも、変わったパターンかもしれません。

「■天井と壁はホワイト系、バスルームはピンク系を」は、前者はともかくとしても、後者は主にお部屋の模様がえを想定していると思われるこの記事では、異色です。クロス張りかえやアイテムの新調のレベルではない、本格的な工事になってしまいます。それとも、ペンキで塗るようなイメージなのでしょうか。「バスルームはピンク系の色を選ぶのをおすすめ」とあるのは、どんな時点で「選ぶ」ことを想定しているのでしょうか。

「■ラッキーカラーをうまく使おう」は、いかにも迷信的ですし、プラセボ的な効果があるという程度かもしれませんが、「色彩心理学」に興味のある人には、言ってほしい内容なのかもしれません。また、「より効果的になる」という表現が、少し気になりました。何に対しての効果なのかが、はっきりとは書かれていません。最初の段落にあった「これに基づいた配色をすることが効果的」も、何に効果的なのかがわかりませんでした。特定のどこかに与える効果を明示するのではなく、何となくよい感じを出すことに焦点があるようです。原形をとどめない和訳タイトルにされた、「脳にいいこと」だけをやりなさい!(M. シャイモフ著、三笠書房)を思い出しました。