生駒 忍

記事一覧

上松美香の妊娠発表と朝日の思考停止ワード

きょう、朝日新聞デジタルに、人気アルパ奏者・上松美香が妊娠6ヶ月という記事が出ました。

BLOGOSにきょう出た記事、朝日新聞の得意な思考停止ワードがアクセスを集めているようですが、ことばづかいに定評のある朝日にしては、この記事は、やや不満を感じさせるところがあります。誰が書いたのかは、書かれていません。そういえば、BLOGOSにきょう出た記事、朝日新聞捏造報道に沈黙するTV局のチキンぶりはどうだ〜日本のマスメディアは醜い「打落水狗」のルサンチマンは、こちらは朝日に限ったことではありませんが、記者の匿名性の問題にも言及しています。

一方で、上松は著名人です。記事の最後に「人気・実力ともに日本を代表するアルパ奏者として活躍している。」とありますが、日本でアルパ奏者といったら、ほかに右に出るどころか、ほかの奏者の名前は出てこないという人も多そうです。ルシア塩満、聞いたことはありませんでしょうか。

さて、妊娠6か月ということでしたら、お金や常識のない方ではないですので、発表はきょうでも、きのうきょうに妊娠がわかったのではなく、いろいろな事情で公表がずれ込んだのだと思います。王子ホールの公演のあつかいが確定して、公表できるようになったのでしょうか。王子ホールのウェブサイトで、2014年11月 公演カレンダーを確認すると、22日は「公演予定」の表示になっています。振りかえ先は来年7月と、1年近くも先になり、さらに待つことに抵抗のある人もいるかもしれませんが、「無事に元気な赤ちゃんを産んで来年必ず戻って来たいと思っております」とのことですし、先ほどのBLOGOSの記事にある「朝日新聞のよく使う聖なるアイコン」ではありませんが、ゆるせないと口に出す人は、まずいないでしょう。そういえば、きょうの北國新聞夕刊の記事、「ホームレスが救った命」には、「赤ちゃんに一切の抵抗は許されない。」とありました。

ミラー論文の和訳とスパーリング論文の著者

きょう、ドリームニュースに、認知心理学の広がりと深み「有斐閣 認知心理学ハンドブック」(iOS版)を新発売という記事が出ました。以前に、たとえの記事で、有斐閣 心理学辞典(ロゴヴィスタ)の販売再開について触れましたが、こちらは同じメーカーからの、新発売のお知らせです。

昨年末に発売された認知心理学ハンドブック(日本認知心理学会編、有斐閣)の、さっそくの電子化です。書籍では字が少々小さかったのですが、画像を見ると見やすそうで、よい印象です。ですが、何も考えずにすぐ冒頭のところを使っただけなのだと思いますが、このページには直してほしかったところがいくつかあり、私としては気になってしまいます。コロンの後ろにスペースを空けないなど、こまかい書き方に関してもありますが、内容については2点を挙げたいと思います。

1点目は、ミラーが示した保持容量だというものです。「人間は7±2のチャンクしか保持できない」ことを示したとされますが、この書き方ではこれより小さい量でもうまくいかないように読めることはともかくとしても、ミラーが分析してはっきりこの量を算出したわけではありません。英語のレビュー論文なので読まれにくいのかもしれませんが、記憶容量に関する部分はその一部ですし、すでに心理学への情報科学的アプローチ(G.A. ミラー著、培風館)に、その1956年論文の和訳も出ています。せめてタイトル以外も読んでもらえれば、言われるほど明確な主張ではなく、ぼんやりしたものであることが、はっきりとわかるはずです。そういえば、心を上手に透視する方法(T. ハーフェナー著、サンマーク出版)には、これに関すると思われる「人間は「七桁まで」の数字しか覚えられない」という節があり、この書き方でもう適切でない予感がしますが、ミラーは「7プラスマイナス2」以上では、「自動的に、いわば自己防衛のために、頭がぼんやりしてくる」と考えたことになっています。

2点目は、2段落目で、「スパーリングらは1960年に注意過程を含む認知モデルを提唱した。」とあるところです。有名なモノグラフ、The information available in brief visual presentationsは、スパーリングの単著ですし、半年前の記事で取りあげた佐村河内の指示書のようなことも聞きません。同じ年に、これに相当する内容を、どこかで連名でも発表していて、そちらを指したのでしょうか。それでも、こういう本ですので、モノグラフのほうを挙げるべきだと、私は思うのですが、いかがでしょうか。ちなみに、サイエンスに載った、同じ年の別内容の論文、Negative afterimage without prior positive imageも、スパーリングの単著です。

ギャップ効果連投と島田紳助の「幼稚な戦法」

きょう、マイナビウーマンに、一度ついた悪印象を払拭する心理テク 「ギャップ効果」「親近効果」という記事が出ました。

今回の記事は、おととい書いた記事で取りあげたものなど、同じマイナビウーマンですでに書かれている話題の使いまわし、組みなおしのようなものです。今回は、2種類の心理学的効果を紹介するかたちですが、「親近効果」は表記もそのままで、第一印象で失敗しても、第二印象でリベンジする親近効果の心理テク「丁寧なメールをする」であつかわれました。「ギャップ効果」は、おととい出たばかりの第一印象で失敗したな……と感じたら「ロストゲイン」であつかわれた、「ロストゲイン効果」と同様のものです。NEWSポストセブンにきょう出た記事、島田紳助 復帰を阻む東京芸人の固い結束「もう居場所ない」に、島田紳助が使ってきた「幼稚な戦法」として登場する「いわば“ギャップ戦法”」もこれにあたりますし、それではあまりに生々しいと感じる人には、ソフトな作品で、くらだしカピバラさん もでーん編(TRYWORKS作、主婦の友社)に収載された「ブーンブン」がわかりやすいでしょうか。

「一度悪い印象がついてしまうと、挽回するのは難しいと言われています。どれだけ頑張っても適切に評価をしてもらえない……。」と書き出されますが、私はすでに、またマイナビウーマンかと、先入観ができてしまっています。Amazon.co.jpでの評価が両極にわかれている1億人のための統計解析(西内啓著、日経BP社)は、「最初に仮説を立てることで視野を狭くしないようにしよう」と呼びかけますが、マイナビウーマンは視野をひろげるよりも、少しはがんばって勉強したものを提供してほしいと思ってしまいます。

ひたすら怒る吉木りさとビンアン虐殺壁画

きょう、zakzakに、吉木りさ、ひたすら激怒に“怖すぎ”“想像以上”の声が…という記事が出ました。テレビ東京系の番組、吉木りさに怒られたいを取りあげたものです。

今年に入り、週刊新潮 5月8・15日号(新潮社)に出たAKBに対するGやHの逆襲や、日刊サイゾーにきのう出た記事、広告業界の“AKB48離れ”明るみに……「20位中、1人だけ」は“脱法ハーブ騒動”の余波かのように、ようやく復旧が見えてきましたが、グラビアアイドルの業界も、一時はAKBに相当圧迫されていました。その中で孤塁を守ってきたのが、篠崎愛とこの人です。

「テレビ局関係者」の発言を見ると、「怒る」と「しかる」とがあいまいなようにも見え、怒りはしませんが、気になります。ここは、現実的にはむずかしいところです。この「しかる」ことは、シロクマの屑籠の記事、「叱られ下手は堕落しやすい」に関してにあるように、そこから学べない人にはうまく届かず、「怒る」にしか見えなかったりもするのだろうと思います。ビジネス法務 2013年7月号(中央経済社)でも論じられた、口うるさい人のありがたさも、わからないことでしょう。本人の頭の中では、必ずわかる! 「○○(マルマル)主義」事典(吉岡友治著、PHP研究所)の261ページの絵のようになっていそうです。

「いままでの吉木といえば、高い声で甘えるキャピキャピしたイメージだったが。」とあります。マイナビウーマンの第一印象に関する記事のうち、きのうの記事では取りあげなかったものに、第一印象で好印象な人に共通した特徴とは?「裏表のない笑顔」「声が高い」がありましたが、「声の高さ。高すぎる人にいいイメージを持ったことがない。落ち着いたトーンの人は安心できていい」という声が紹介される、タイトルと矛盾した内容のふしぎな記事で、吉木も実は「高い声で甘える」やり方で損をしていて、むしろここから新しいファンをつくれるかもしれません。また、有吉弘行におもしろさを感じさせる背景に、いまの毒舌とは正反対のような過去があるように、同じ人の中でのコントラストをつけるのは、有効な売り方だと思います。

同じ人の中でのコントラストといえば、同じくzakzakにきょう出たまんが、鏡のない国のパクがあります。ちなみに、3こま目でテレビ画面に映っているのは、SAPIO 2014年8月号(小学館)の表紙と15ページとに出た、ビンアン虐殺壁画です。

「ロストゲイン効果」と新聞投書で定番の若者

きょう、マイナビウーマンに、第一印象で失敗したな……と感じたら「ロストゲイン」という記事が出ました。

同じくマイナビウーマンに1年前に出た記事、第一印象で失敗しても、第二印象でリベンジする親近効果の心理テク「丁寧なメールをする」と同じ関心で、内容は別ものです。新近性効果を指したつもりでの「親近効果」など、疑問のある表記もありましたが、前のもののほうが、ていねいに書かれた印象です。

今回の記事は、「人見知りの人にとっては」という角度から導入されます。少し前に、人見知りを宣言する効果の記事を書きましたが、そこでの3点目にやや近い、評価の基準に関連する現象を取りあげます。「そんなときにぜひ利用したい心理テクはコレ、「ロストゲイン効果」です。」とのことで、「日常生活のいろいろな場面に潜んでいる」そうですが、心理学のテキストをひっくり返しても出てこない名前です。

「少女漫画の王道で、「不良っぽい少年の意外な優しさに気付いたヒロインが、思わぬ恋に落ちてしまう」というストーリーがあります。」、こういうパターンは、ノンフィクションでもよく見かけるものです。新聞投書の定番テンプレートに、公共の場で席をゆずられた、荷物を持ってもらった、いまの若い者も捨てたものではないというものがあります。あの手の投書では、親切をするのは茶髪の青年で、この表現は使われませんがヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体(原田陽平著、幻冬舎)でいうマイルドヤンキーらしく、ですが大声で傍若無人にふるまうグループでもない事例ばかりなのが、私は気になってしまいます。アニメ絵の紙袋をかかえていたり、ときどき笑い声をもらしながらまんが雑誌を読んでいたり、そこにいない人とでさえない純粋なひとりごとをくり返していたりする若者がという投書は、まず見かけません。ごくふつうにあることで、わざわざ書きたくなるできごとではないのでしょうか、それとも、ほとんどありえないことなので投書されるはずがないのでしょうか。あるいは、新聞社のデスクが、マイルドヤンキーのお話ばかりをほしがるのでしょうか。

「ロストゲイン効果には、実は真逆の効果も存在します。第一印象で成功した人が、その後悪い印象を与えてしまうと、その悪いイメージが増幅されてしまうことを言います。」とのことで、こちらの効果には名前が出てきません。何と呼べば、「ロストゲイン効果」の逆にふさわしいものになるでしょうか。

「効果的にこのテクニックを使うことが出来れば、気になる彼との距離も一気に縮められるのかもしれません。」と締めています。ですが、この書き方では、できそうにないというあきらめのようなものを感じてしまいます。一文字縮めて、「縮められるかも」と書いたほうが、印象がよかったと思います。