生駒 忍

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ミラー論文の和訳とスパーリング論文の著者

きょう、ドリームニュースに、認知心理学の広がりと深み「有斐閣 認知心理学ハンドブック」(iOS版)を新発売という記事が出ました。以前に、たとえの記事で、有斐閣 心理学辞典(ロゴヴィスタ)の販売再開について触れましたが、こちらは同じメーカーからの、新発売のお知らせです。

昨年末に発売された認知心理学ハンドブック(日本認知心理学会編、有斐閣)の、さっそくの電子化です。書籍では字が少々小さかったのですが、画像を見ると見やすそうで、よい印象です。ですが、何も考えずにすぐ冒頭のところを使っただけなのだと思いますが、このページには直してほしかったところがいくつかあり、私としては気になってしまいます。コロンの後ろにスペースを空けないなど、こまかい書き方に関してもありますが、内容については2点を挙げたいと思います。

1点目は、ミラーが示した保持容量だというものです。「人間は7±2のチャンクしか保持できない」ことを示したとされますが、この書き方ではこれより小さい量でもうまくいかないように読めることはともかくとしても、ミラーが分析してはっきりこの量を算出したわけではありません。英語のレビュー論文なので読まれにくいのかもしれませんが、記憶容量に関する部分はその一部ですし、すでに心理学への情報科学的アプローチ(G.A. ミラー著、培風館)に、その1956年論文の和訳も出ています。せめてタイトル以外も読んでもらえれば、言われるほど明確な主張ではなく、ぼんやりしたものであることが、はっきりとわかるはずです。そういえば、心を上手に透視する方法(T. ハーフェナー著、サンマーク出版)には、これに関すると思われる「人間は「七桁まで」の数字しか覚えられない」という節があり、この書き方でもう適切でない予感がしますが、ミラーは「7プラスマイナス2」以上では、「自動的に、いわば自己防衛のために、頭がぼんやりしてくる」と考えたことになっています。

2点目は、2段落目で、「スパーリングらは1960年に注意過程を含む認知モデルを提唱した。」とあるところです。有名なモノグラフ、The information available in brief visual presentationsは、スパーリングの単著ですし、半年前の記事で取りあげた佐村河内の指示書のようなことも聞きません。同じ年に、これに相当する内容を、どこかで連名でも発表していて、そちらを指したのでしょうか。それでも、こういう本ですので、モノグラフのほうを挙げるべきだと、私は思うのですが、いかがでしょうか。ちなみに、サイエンスに載った、同じ年の別内容の論文、Negative afterimage without prior positive imageも、スパーリングの単著です。