生駒 忍

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ぐっさんさんによるハーレーのだじゃれ

Primary 2013年9月号を見ていて、写真つきで採用されている方の名前に、注意をひかれました。「グっちーさん(39)」とあって、一瞬だけですが、ぐっちーさん 日本経済ここだけの話(朝日新聞出版)の著者かと思ってしまいました。このような趣味があるとは思えなかったのですが、写真ではっきり別人とわかりますし、よく見るとカタカナが混ざっています。それも、「ぐっちーさん」の誤記として見かけることも多い「グッチーさん」なら自然ですが、そうではなく、「グッちーさん」でもなく、「グっちーさん」であるところが、かなりユニークです。

その前のページには、「ぐっさんさん(38)」がいます。グっちーさんは「会社員」ですが、ぐっさんさんは「サラリーマン」です。「さかなクンさん」を思わせる名前に、AKIRA(大友克洋監督)に登場する「デコ助野郎」発言を思い出します。

そして、この方が言ったという、「天気は晴れ 気分はハーレー」というだじゃれが、意外に印象的です。DIAMOND onlineの連載、ダージャリスト・石黒謙吾の「科学するダジャレ」が、ちょうど先週に終わったところですが、だじゃれの世界は、高尚ではないのに、ふしぎに奥が深いものです。しぐさに隠れた大人の本音(齊藤勇監修、蒼竜社)によれば、だじゃれならお金や努力にたよらずに、みんなに反応してもらえるそうですが、わが盲想(モハメド・オマル・アブディン著、ポプラ社)には、しばらくは若者に笑ってもらえず、その背景にくやしさがあると分析していたというお話があります。そのモハメドが、だじゃれを同音異義語の学習に役だてた一方で、耳トレ! こちら難聴・耳鳴り外来です。(中川雅文著、エクスナレッジ)によると、だじゃれは難聴と関係するのだそうです。また、高齢・障害・求職者雇用支援機構による「知的障害者の職場定着推進マニュアル」改訂版の第3章・第4章を見ていくと、ある場合にはだじゃれの連発を無視すべきだとされていますが、お笑い芸人のウケる話し方のツボ(知的生活追跡班編、青春出版社)は、連発するめんどうな人にはあおりも入れることや、言うほうはすべってもめげずに言いつづけることをすすめています。そんな奥の深いだじゃれですが、このぐっさんさんのだじゃれは、とてもすがすがしいものです。読者の一番の興味をとらえていること、ひねらずにまっすぐなこと、「晴れ」という明るいことばにかけていることなどが、効いているのだと思います。たとえば、最近目にしたものでは、ランチのアッコちゃん(柚木麻子作、双葉社)の「カミさん犯人だ!」は、私には心地よくないだじゃれでしたが、「気分はハーレー」には、そういう感じを受けません。もちろん、これは主観的なものですので、みなさんはちがう印象を受けているのかもしれませんが、いかがでしょうか。

当たり屋情報がまた流行しているのでしょうか

今月に入ってすぐのことですが、多摩湖畔日誌という個人ブログに、尤もらしい当り屋の「ガセ情報」という記事が出ました。当たり屋情報は、もう古典といってもよい、息の長い流言です。心理学者なら、サトウタツヤ 「**を信じるな!」でご存じの方も多いのではと思います。

この当たり屋情報は、はやりに波があり、ことしは、ゴールデンウィークのころに山がありました。このブログの記事によると、「全国に出回っているそうだ」ということですので、3か月ぶりに流行しつつあるのでしょうか。先日、東京都内で、当たり屋情報のチラシを見かけたとも書かれています。そして、チラシの画像が出ているのも、信憑性を感じさせます。

ですが、このチラシ画像は、知っている方が見ればすぐわかることですが、この方が今回、フロントガラスごしに撮影したものではないことは、ほぼ確実です。また、少なくとも私には、最近出てきた当たり屋情報が、これ以外には思いあたりません。きのう、コモンポストというソーシャルニュースサイトに、自転車に乗って止まっている自動車に自ら激突!!あまりにもヒドい当たり屋の犯行をとらえた決定的瞬間!!という記事が投稿されましたが、これは無関係です。そちらは自転車ですし、グループで動いてはいないようです。そして、となりの国でのできごとで、あまりにすなおな計略で、よくわからない世界です。そういえば、これも無責任な流言的なものをふくむ本ですが、こんなにちがう ヨーロッパ各国気質 32か国・国民性診断(片野優・須貝典子著、草思社)の、セルビア人のところで、「自分の家計はわかるけど、お隣さんのことはよくわかりません」という表現があったと思います。

D4受容体と辛味と人体Ⅲとのからみ

オピニオンサイトのアゴラには、今日のリンクというコーナーがあります。アゴラ編集部の方が、興味深い話題を硬軟とり混ぜて、オムニバス的に紹介するものです。先日、そこに、常軌を逸し始めた韓国というタイトルの記事が出ました。この中で、QLife Proという医療ニュースサイトの、激辛好きは冒険好きという記事が取りあげられました。Psychological Scienceにあってもおかしくはないような、親しみのもてる内容なのですが、アゴラでの取りあつかいも含めて、気になるところがあります。

まず、QLife Proの記事についてです。これは、先月中旬に開催されたIFT13での、ある大学院生の発表の紹介です。この研究では、Arnett Inventory of Sensation Seekingという質問紙を用いています。測定対象であるsensation seekingは、この記事では「冒険心」であるとみなしていて、訳として考えると、意外によい意訳と思います。くわしい実験手続きが書かれていないので、相関係数がひとつ算出されておしまいの研究のようにも見えますが、半月ほど前に、FOOD PRODUCT DESIGNのウェブサイトに出た、この研究を取りあげたFiery Personalities Prefer Spicy Foodsという記事を見ると、そこまで単純ではなかったようです。

さて、それを引いたアゴラの記事へ戻りましょう。そこでは、よくも悪くも、元の記事にはあまり準拠しない書き方がされています。「冒険心」を、アゴラのほうでは「新奇探索傾向」と呼びかえています。そして、QLife Proの記事には、せいぜい「辛み成分が神経に与える刺激がカギとなっている可能性も」というくらいしかないところを、アゴラでは、神経生理や遺伝のお話へとからめていきます。

ですが、そこは読者の頭の中で補足や修正をしていかないといけない、不十分で不正確な書き方になっている上に、おそらくですが、出所があります。「新奇探索傾向」がnovelty seekingのことだと見ぬいた上で、TCIのものは主に「新奇性追求」と訳されるわけで、有名な心理学者が、「新奇性追及」や「新規性追求」といった、語感がずれる表現を使っているのを見かけることもありますが、「新奇探索傾向」は特徴的であるところまで行けば、もうひと息です。「11番染色体の第4受容体」というおかしな表現も、ヒントになるでしょう。前世紀の末にNHKスペシャルで放送された、驚異の小宇宙 人体Ⅲ 遺伝子 第5集 秘められたパワーを発揮せよ 精神の設計図です。

あの回は、ちょうどこの話題のところで、制作ミスがあったはずです。「新奇探索傾向」という用語を出して、これが11番染色体に関連があることを、あのシリーズ恒例の本のたとえで表現した後で、例としてまず、中年男性が出てきますが、その画面の中に、「第4レセプター遺伝子の繰り返し配列 7回」と出ます。ですが、これに関する説明は、次に例として出てくる若者の後で、やっと行われますので、あの時点では、一般の視聴者にはとてもついていけなかったものと思います。専門家が見たとしても、「第4レセプター」という表現は一般的ではありませんので、D4受容体のことだと気づかなければ、困惑するでしょう。研究者でこの表現を使っているのは、私の知るかぎりではただひとり、3月まで熊本大学教授だった吉永誠吾という方だけで、それも、「人体Ⅲ 遺伝子」の全6回をひと通り紹介しているように見せて、実際には第6集 パンドラの箱は開かれた 未来人の設計図が落ちていて、この第5集を6番目のように位置づけた、ふしぎな論文の中でのことです。説明の順序のミスは、今市販されているDVDでは、ひょっとするともう修正ずみだったりするのでしょうか。

なお、これは科学番組としてはしかたがなく、修正という対応を考えるのはむしろ変なのですが、紹介された「新奇探索傾向」と48-bp VNTRとの関連は、後のメタ分析で、疑問視されています。Biological Psychiatry第63巻の、Association of the dopamine D4 receptor (DRD4) gene and approach-related personality traits: Meta-analysis and new dataです。このVNTRは、むしろADHDとの関連がいわれているようです。たしかに、第5集に出てきた2名とも、もちろん社会に適応できていますが、衝動的で落ちつかない人生を送っているともいえるでしょう。そして、「新奇探索傾向」は、ここではなく、rs1800955と関連しているようです。

精神障害者保健福祉手帳の交付主体と申請先

きょう、西日本新聞ウェブサイトのワードBOXというミニコーナーに、精神障害者保健福祉手帳が取りあげられました。こうして、広く理解される機会ができることは、歓迎すべきでしょう。ですが、一部、適切ではない表現があります。

2文目に、「都道府県と政令市が認めれば」とあるのは、政令指定都市以外に住んでいる人が両者に認められようとすることを想像すれば、おかしいことがすぐわかります。「都道府県または政令市が認めれば」、と書くならよさそうです。法律上は、精神保健福祉法45条によれば都道府県知事が、政令指定都市ならば51条の12があるのでその市長が、出すことになります。

なお、2文目には、「市町村などの窓口に医師の診断書などを提出し」とあり、これは初学者がまちがいやすいところですので、取りあげておきます。法律上の申請先は、先ほどの通りなのですが、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令5条のため、必ず居住地の市町村長を通さなければなりません。6条の2は交付、8条は更新、10条は再交付と返還について、それぞれ同様に定めています。もちろん、記事に「市町村などの」とあるのは、特別区の場合には区長を通すことになることを指しています。みんなのメンタルヘルス総合サイトという、厚生労働省による啓発ウェブサイトで、精神障害者保健福祉手帳のページを見ると、単に「申請は、市町村の担当窓口で行ってください。」となっていますが、特別区でも可能です。保健所等で受けつけています。

語句解説の後の関連記事は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行規則26条1号に関するものです。適切に改正されることを、期待しています。

筑波大学が公表した「駅前キャンパス」

先週のことですが、筑波大学のウェブサイトに、「駅前キャンパス」という企画の情報が出ました。TGN主催:「駅前キャンパス」の実施についてという文書をお読みください。たしかに「チャレンジングなもの」で、ユニークな企画ですが、いろいろと気になるところもあります。

大学が告知してはいますが、文書のタイトルに「TGN主催」と明示されているように、大学によるイベントではないようです。ですが、文書ファイルの3ページ目が、このイベントのポスターの、おそらく裏面だと思いますが、そこには「第一回 筑波大学 駅前キャンパス」とあります。一方で、2ページ目が、こちらはポスターの表面だと思いますが、その下部には、「主催:つくば院生ネットワーク(TGN)」「協力:筑波大学,つくば市」とありますので、筑波大学は主催ではありません。ところが、1ページ目に「協力機関」として示されているのは、「つくば市国際戦略総合特区推進部 科学技術振興課」と「首都圏新都市鉄道株式会社(つくばエクスプレス)」です。つくば市本体が協力しているのか、それともその中の一つの課だけなのかも不明ですが、筑波大学と首都圏新都市鉄道とはまったく無関係ですので、この両者が入れかわりになっているのは、とても奇妙です。そして、ポスター裏面には、「協力: 筑波大学、つくば市、つくばエクスプレス」とあります。

どうしても引っかかる方は、問いあわせてみるのが早いかもしれません。ですが、どこへというところで、また混乱があります。文書の1ページ目では、そのページでは協力機関になっていない筑波大学の、学生部に属する個人名が、「問合せ先」として電話番号つきで示されています。一方で、ポスターの表面では、「問い合わせ先」はGmailで取得したメールアドレスがあるのみです。裏面には、「連絡先」として、同じGmailのアドレスがあって、後ろのかっこの中に「代表 角田 雄哉」と入っています。なお、1ページ目の個人名は、2文字の漢字の間を空けてあるので、中華風の氏名のようにも見えますが、これはただの名字のはずです。土子昇専門員のことだと思いますが、合っていますでしょうか。

どこで開催されるのかにも、書き方にぶれがあります。1ページ目では、「つくばエクスプレス線つくば駅改札口前」です。「線」がついているのを見て、日本語版ウィキペディアで記事名が激しく争われた苦いできごとを思い出してしまいました。ポスター表面では、「TXつくば駅改札口正面(スターバックスコーヒー隣)」です。裏面では、「TXつくば駅改札前」です。「改札」よりも「改札口」のほうが、1回だけとみるか、倍もとみるかはともかくとしても、多く使われていますが、協力している可能性が高いTXの公式サイトで、つくば駅構内図を確認すると、「改札」という表記になっています。

そういう場所ですが、イベント名は「改札(前)キャンパス」ではなく、「駅前キャンパス」です。いろいろな大学が、こういうイベント名ではなく持続的な施設としての「駅前キャンパス」を持っていますが、私が思いつく限りでは、駅そのものの中に置いたところはありません。高専でもそうですし、下北沢大学駅前キャンパスもそうです。ときめいとは駅ビルの中という印象がありますが、「駅前キャンパス」ではなく「駅南キャンパス」です。このTGNの駅前キャンパスは、そういう意味では特殊ですが、改札までが駅であるという立場をとっているのでしょう。「駅ナカ」の定義のお話もありますし、むずかしい話題です。

ポスター表面では、一番情報量がない「近日公開予定」が、ずいぶんと目だっています。ここは、1ページ目の「テーマ(仮)」のほうから推測すると、「都市と交通の話」が入るはずと考えられますが、どうなのでしょうか。

以上のように、いろいろと気になるところがありますので、協力している可能性が高い筑波大学ではなく、主催のほうで発信している情報でも確認してみようと思いました。主催者のつくば院生ネットワークは、大学院生が網羅的に組織されたものではなく、「意識高い系」という病 ソーシャル時代にはびこるバカヤロー(常見陽平著、ベストセラーズ)を思わせるところもあるイベント団体ですが、学術活動を手弁当で応援してくれる点では、とてもありがたい存在と思います。気づきにくいのですが、サイトの左上から「駅前キャンパス」のページへ入ることができます。YouTube動画を除けば、先の文書とだいたい重なる内容が出ています。会場は、「TXつくば駅改札口を出た正面(スターバックス隣)」と書かれていて、ここも「口」がつけられています。一方で、Twitter公式アカウントには、もう今週の開催なのに、駅前キャンパスの情報は、まだ出されていないようです。ブログにも何も出ていませんが、こちらは昨年秋にぴたりと止まったままです。