生駒 忍

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今回のヤングヘルスサイコロジスト賞受賞者

きょう、日本健康心理学会国際委員会のブログに、約2か月ぶりに新しい記事が投稿されました。The 5th Asian Congress of Health Psychologyでの「ヤングヘルスサイコロジスト賞」の受賞者決定のお知らせです。選ばれた皆さん、おめでとうございます。

細かいことですが、このお知らせ記事の受賞者リストには、たった10本しかないのに、書式の不統一がとても目だちます。気になったところを挙げてみますが、ほかにもあるでしょうか。

・発表タイトルでの大文字の使い方(オールキャップス、タイトルケース、センテンスケース)
・発表タイトルの後のピリオドの有無
・2名の連名の場合の氏名の間が、","か、"and"か、両方を使って", and"か
・3名以上の連名の場合の、最後の氏名の前が、","か、", and"か
・氏名は、氏が先か、名が先か
・「先生」の前のスペースの有無

なお、大会プログラムにこれらの不統一があって、そこからのコピペでこうなったわけではないはずです。プログラムでは、このようにはなっていなかったと思います。もちろん、完璧なつくりだったわけではなく、たとえば、名前を"Shizuka"という正しいつづりでは書いてもらえなかった大学院生がいました。

1章4節は「サイコドラマの11の効用」です

サイコドラマの理論と実践 教育と訓練のために(磯田雄二郎著、誠信書房)を手に入れた方は、どのくらいいますでしょうか。先日届いた誠信プレビュー119号では、20日、つまりあすの刊行予定になっていましたが、もうできあがっています。予約注文しておいて、ちょうど届いたところという方もいるかもしれません。

細かいことですが、その誠信プレビューでは、1章4節のタイトルが「サイコドラマのの効用」となっていて、まさかこれで印刷に回ってしまったのではと、心配していました。誠信書房ウェブサイトでのこの本の紹介でも、やはり同じです。誠信プレビューとウェブサイトとでは、同じデータをレイアウトだけ変えて使いまわしているだけだと思う方もいるでしょう。ですが、たとえば、誠信プレビューでは「A5判156頁」ですが、サイトでは「A5・158ページ」です。「日本の心理劇の第一人者」といわれたら、私なら出身のこともあって、ほかのもっと年上の大先生を思いうかべるところを、サイトではこの著者に使っていて、ですがこの表現は、誠信プレビューには見あたりません。そういったことから、まさかとは思っていましたが、きょう、現物で確認できて、安心すると同時に、予想と異なっていて、意外な感じを受けました。ここは、「サイコドラマの11の効用」になっていたのです。衍字ではなく、脱字だったのです。

『認知コントロール』がぴったりです

きょう、OKWaveに、認知心理学についてという質問記事が立ちました。とても概括的で、内容の見当がつきにくいタイトルですが、のぞいてみると、ピンポイントな渋い話題が出ているので、落差におどろきます。

私は、春学期の救済課題のようなにおいを感じましたので、けちと言われるかもしれませんが、この方に直接回答するつもりはありません。ですが、あのキーワードを見れば、何を見ればいいのかは、わかる方には一瞬でわかるはずです。認知コントロール 認知心理学の基礎研究から教育・臨床の応用をめざして(嶋田博行・芦高勇気著、培風館)です。この本だけがあまりにぴったりなのも、私がにおいを感じた一因でもあります。

これは、日本語では読む機会の少ない話題を、しっかりとまとめてある、ほかにない本です。ときどき、用語にもオリジナリティが見られます。ワーキングメモリ 思考と行為の心理学的基盤(A. バドリー著、誠信書房)をはじめとして、わが国では「中央実行系」と訳されることの多い概念が、本社中枢のお偉いさんをつい連想する訳語になっています。上に立ってあちこちを回している「小人」ということで、意外によい気はしませんでしょうか。

うつ病と感情調整との関連の論者の主な著書

きょう、WEDGE Infinityに、うつ発症者にみられる感情調整力の弱さという記事が出ました。1月にはじまった、うつ病蔓延時代への処方箋というインタビュー記事シリーズの、14本目です。

冒頭では、うつ病につながる人生上のできごとのタイプとして、loss、humiliation、そしてentrapmentの3種類があるとしています。ひとつ目だけなら有名ですが、一般にはまだ、あまり知られていないとらえ方で、もちろんエビデンスに基づいています。少なくとも、シリーズ8本目の、「不安」「悲しみ」「恐れ」を「人間の3大感情」だという考えよりは、一般の方々の知識に入ってほしい内容です。British Medical Bulletin 57巻の手短なレビュー、Recent developments in understanding the psychosocial aspects of depressionのように、humiliationとentrapmentとをくっつける立場もありますが、わかりやすい例示ができていることもあり、かまわないと思います。

だんだんと、感情調整の重要性へと、お話が進んでいきます。後のほうでは、これに関して、「理性の力で調整するのではなく声の調子や、優しいまなざし、顔の表情、体を触ってくれるなど右脳の働きです。」「1日中携帯の画面を見ている現象は、感情表現力を弱めてしまう。」と唱えられていて、エビデンス不足をとがめる方も出そうですが、一般向けのお話のまとめとして読むところでしょうか。

ところで、私が気になったのは、戻りますが、冒頭のインタビュイー紹介です。「共著に『臨床心理学入門 —多様なアプローチを越境する』(有斐閣)。主な著書に『はじめて学ぶ臨床心理学の質的研究』(岩崎学術出版社)など多数。」とあるのですが、まず、共著が先に、「主な著書」が後にという順序に、ふしぎな印象をうけます。そして、その「主な著書」として、はじめて学ぶ臨床心理学の質的研究 方法とプロセス(岩崎学術出版社)を出して、「など多数」としているのも、あまり見かけない書き方です。「著書に~など多数」ではなく、「主な」著書ということですので、著書の中から主なものを選んでも、多数あるのだということなのでしょうか。ですが、共著が先に分けてありますので、この方の単著の本をさがすと、岩崎学術出版社のもののほかには、プロセス研究の方法(新曜社)と、心理療法・失敗例の臨床研究 その予防と治療関係の立て直し方(金剛出版)くらいしか、私には見つけることができませんでした。

「情けは人のためならず」調査の報道のぶれ

きょう、YOMIURI ONLINEに、情けはボクのためになる…幼児で親切の効用実証という記事が出ました。出たといっても、あの研究の紹介は、ほかの新聞社のサイトには、8日に出ていますので、今さらという感じかもしれません。読売は、最後に「人間の認知や行動に詳しい小田亮・名古屋工業大准教授」のコメントをつけていて、これが記事の遅れの原因なのか、それとも特落ちのようになってしまったので、オリジナリティを加えてはずかしさを減らそうとしたのか、そのあたりはわかりません。ほか3社の記事を、サイト掲載時刻順に、ならべておきます。

日経 「情けは人のためならず」園児観察で実証 阪大 10:07

産経 「情けは人のためならず」を初実証 阪大グループ 11:00

毎日 幼児の親切:友だちから11倍以上の頻度で「お返し」 15:19

朝日はというと、まだ取りあげていません。きょう午後に、飼い主のあくび、絆深いなら犬もつられ… 東大など研究という記事を出しましたので、PLOS ONEを無視しているわけではないはずです。

問題は、新聞社によってぶれがあることです。紹介の内容は、どこも同じになりそうですが、よく見るとそうでもありません。直接に、対象の論文、Preschool children's behavioral tendency toward social indirect reciprocityをあたってみると、出典からの明らかなずれが見つかります。優秀な記者は、もうどこでも夏休みなのでしょうか。

まず、共同通信の配信で一番乗りの日経では、「親切児が親切をした場合と、しなかった場合を約250回にわたり比較した結果」とあって、何百回も比べる作業をしているような書き方です。毎日や読売が「計283回」と書いて、おおむね正しくその説明をしていますが、こちらの「約250回」は、出所のわからない数字でもあります。また、日経では、「米オンライン科学誌プロスワンに8日発表した」とありますが、PLOS ONEでは7日付になっていて、産経や毎日も7日付としています。日本時間では、もう8日に入っていたというタイミングだったのでしょうか。なお、読売は、1週間の出おくれのためなのか、日付を書いていません。

産経は、よく書けていると思いますが、冒頭で、「他人に親切にした人は第3者から親切を受けやすいというヒト特有の行動の仕組み」が確認された研究のように書きだしています。そして、他社と同じように、結局は現象レベルのことだけで、「仕組み」を解きあかすことはしていません。そういう行動をさせる「仕組み」の存在を確認したという意味だとしても、ある行動を確認することが「仕組み」の存在確認になってしまっては、まるで本能論の時代へ戻ったようです。また、第三者という熟語を「第3者」と書くのは、日本語として好ましくないと思います。タイトルにある「初実証」も、すわりの悪い日本語です。

毎日は、調査場所を「大阪市内の保育園」と書いています。論文には"a private nursery school in Osaka prefecture, Japan"とあり、他3社は「大阪府内」と書いていて、市内なら府内でもあるのですが、市内で合っているのでしょうか。もし、市内で的中していたとしても、公刊論文がぼかした情報を、あえて公表する特段の公益性があるとも思えません。また、最後の段落の、「困っている他人を見過ごせない「利他性」はヒトに特有とされる。」も、困った表現です。他「人」に関することは、ヒト以外の種で考えることがそもそもできませんし、他個体への利他性でしたら、ほかの種でもある程度見られるものです。読みやすいところで、別冊日経サイエンス155 社会性と知能の進化(日経サイエンス社)をおすすめします。

最後に、読売です。「5~6歳の園児約70人の行動を観察」とあって、70人ちょうどを対象にしていたのに、「約」がついていて、論文の数値をうたがっているかのようです。そして、実験結果について、「好意的な言葉で話しかける回数も約2倍に」とありますが、「約2倍」となったデータは、そのような話しかけだけでなく、接触行動や接近行動などもふくめた、親和的行動全体のものです。

一方で、どの新聞社のものでも同じで、それなのに論文との素朴な対応を考えると不自然なところがあります。代表者名です。8日に出た3記事ではどれも「大西賢治助教(発達心理学)ら」、きょうの読売では「大西賢治助教ら」で、どの報道も、連名の4人のうち、2番目の名前で代表させているのです。筆頭著者のMayuko Kato-Shimizu(清水真由子)特任研究員も、ポスト的に「偉い」立場のToshihiko Hinobayashi(日野林俊彦)教授も、記事にはまったく登場しません。もちろん、この論文では、大西賢治助教からも筆頭著者と同等の貢献があったと宣言されていますが、それでも、ここまでしてどこも、2番目だけを出しているのは、とてもふしぎです。この論文についての、阪大の研究成果リリースは、第1著者と第2著者とを、きちんとその順番で出しているので、さらにわからなくなります。