生駒 忍

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両親殺害のショックで自閉症になる映画

今年の世界自閉症啓発デーはもう過ぎましたが、来週月曜日まで、啓発デーと連動した発達障害啓発週間が、わが国オリジナルのものとして続きます。また、今年の日本実行委員会シンポジウムは、6日に開催されます。自閉症に対する、さらなる関心の高まり、理解の深まりを期待します。

ところで、コモド(マイケル・ランティエリ監督)という映画をご存じでしょうか。いくつかのウェブサイトによると、両親を殺害されたことのショックで自閉症を発症したという設定の登場人物が出てくるのだそうです。たとえば、桐田真輔という方のKIKIHOUSE、ホソカワという方のMAGIC LANTERNといったサイトがそうです。フィクションなのだから何でもありといってしまえばそれまでですが、現実世界の自閉症については、ストレスフルなできごとでぐあいが悪くなることならいくらでもある一方で、そのようなできごとが病気の原因になるという考え方は、通常はされません。見た人に誤解をまねくような内容になっていないとよいのですが、どうでしょうか。ひとまわり行く 自閉症児伸明の成長の記録(江崎徳三・江崎康子編、文芸社)に、母親死亡のショックで自閉症になったという診断を、人気テレビドラマの中で流した例が、憤りをこめて出されていたのを思い出します。

ですが、私はこの映画を一度も見たことがなく、これは映画好きの方のサイトで書かれていることに基づいた情報です。失礼とは思いますが、それらのサイトがまちがっているという可能性も、ゼロではないはずです。そう思って各サイトをよく見ると、コモドについての短い記述の中にも、信用しにくいところが見つかります。KIKIHOUSEでは、「ジル・ヘンシー」や「ケビン・セガーズ」という役者が出演していることになっていますが、Jill Hennessyや、Kevin Zegersのことを指しているのでしたら、正しく書けているとは言いにくいでしょう。また、KIKIHOUSEとMAGIC LANTERNとでは、舞台の島の位置が異なっています。前者では「フロリダの沖合の石油採掘施設のある小島」、後者では「アメリカ・ノースカロライナの孤島」とあります。海国兵談(林子平著、岩波書店)第一巻のように、海はつながっているとはいっても、フロリダとノースカロライナとでは、ずいぶんと離れています。実際はどちらなのでしょうか。こういうときはWikipediaと思い、Komodo (film)を見てみました。すると、おどろいたことにどちらでもなく、その間、サウスカロライナ沖だということになっていました。さらに調べると、Yahoo! Moviesではフロリダ、IMDbではノースカロライナと、有名どころの間でも分かれています。

扶助費は政令指定都市の歳出の23.3%です

シリーズ第8弾です。

ワークブック239ページに、「2010(平成22)年度の団体規模別歳出決算において、歳出全体に占める扶助費の割合は、市町村合計では19.3%であるが、政令指定都市では23.1%、人口1万人以上の町村で11.1%、人口1万人未満の町村で5.6%であり、市と比較すると町村のほうが低い割合となっている(「地方財政白書」(平成24年版))。」とあります。扶助費を、生活保護に関する費用とイコールだと誤解してはいけないのはもちろんですが、示された割合のうち、政令指定都市の数値は、まちがっていますので、これを覚えてはいけません。

平成24年版地方財政白書を見てみましょう。この話題は、第1部、131ページの下のほうの図、第114図に対応します。政令指定都市は、23.3%となっています。なお、先日公表された平成25年版では、149ページの第113図にあって、指定都市は24.2%です。

ワークブックがしている、町村は人口規模で分けた数値を、市については政令指定都市のものだけを出して、そこから市と町村との一般的な大小関係をみちびくという不自然な書き方について、この図のつくりを見て、事情がわかったという方もいるでしょう。ですが、それを越えるのは、たやすいことです。この白書の後ろのほう、資料編のページ番号が「資73」となっているページに、第74表があります。これがあれば、人口で分けない町村全体での割合も、市全体での割合も、すぐ計算できます。すると、市は20.7%、町村は9.3%とわかります。これを出したほうが、読者には読みやすく親切かもしれません。そうはいっても、おそらく著者の意図は、地方財政白書のデータに基づく割合を示すことではなく、地方財政白書に載っている割合を示すことのほうにあって、そのためにこのような書き方をとったのだと思います。町村のほうが低いというのも、132ページには、理由つきで載っていることです。

ちなみに、この白書の名前には、ややややこしいところがあります。ワークブックでは、本文と図とで、呼び方を変えています。本文では常に、冒頭に示したものと同じです。5回登場するうち、最初は「地方財政白書」のかぎかっこを含めて重要用語として色文字にして、途中では何もせず、最後はかぎかっこを除く6文字が色文字になるという変化があるだけです。ですが、図では異なります。239ページの図2の一番下を見てください。とても小さな字で、「資料:総務省ホームページ「平成24年度版地方財政白書」を一部改変」とあります。本文とは異なり、版の表示を前に回して、名称の中に加えています。では、正式な呼び方はどちらでしょうか。この白書は、地方財政法30条の2に基づく法定白書ですが、これまでのところ、正式名称を定めた規定はありません。平成24年度版で見ていくと、市販のものは、表紙に平成24年度版(平成22年度決算)地方財政白書とあり、総務省による編集となっています。一方、総務省ウェブサイトの白書のページには、「平成24年版地方財政白書」とあります。ワークブックの図と同じです。そして、このページからはHTML版とPDF版との両方を見ることができますが、HTML版のほうに行くと、市販のものの表紙と同じ画像がむかえてくれます。ですが、PDF版のほうでは、表紙に「地方財政の状況 平成24年3月 総務省」とあって、その次のページでの書き方から、「地方財政の状況」と呼ぶべきものであると理解できます。CiNii Booksで地方財政白書を検索すると、大学図書館等での登録の混乱ぶりをうかがい知ることができます。

二つの日心77回大会ウェブサイト

9月19日から21日にかけて、日本心理学会第77回大会が開催されます。今年は、北海道医療大学が開催校となり、5年ぶりの札幌開催となります。

この大会のウェブサイトは、二つあります。正確には、ほかにもあちこちにつくられているのかもしれませんが、私が確認できているのが二つです。ひとつは、www.c-linkage.co.jp/jpa2013/で、こちらは日心本体のサイトからずっとリンクされていて、おそらくより多くの人に知られているほうです。ここでは、表サイトと呼ぶことにしましょう。ですが、これと大変似ている、まったく別のサイトがあります。dio.sdp-dio.net/jpa2013/です。こちらは、あまりいいひびきではないことは承知の上でですが、表に対するという意味で、裏サイトと呼ぶことにしましょう。

表サイトは、昨年秋からずっと、あのアドレスで公開されてきました。では、裏サイトはいつからなのでしょうか。トップページを見ると、表とまったく同じように、昨年10月26日から公開されているように書かれています。ですが、今のところわかっている範囲では、それから5か月近く先、今年の3月22日が、このサイトがあったことを確認できる最も古い記録がある日です。この日、立命館大学の樋口耕一准教授によるKH Coderのツイッターアカウントkhcoderに、裏サイトの参加申込み・発表申込みのページのURLが出ました。それから5日後、津田裕之という京都大学の修士課程の院生が、ツイッターアカウントtsuhirに同じURLを出し、これを理研の井関龍太研究員のツイッターアカウントringoame8200がリツイートしました。井関研究員が前に籍を置いていたところも考えあわせると、3名とも京都関係者であるところが共通しています。

こうしてツイッターで世界に発信された参加申込み・発表申込みのページは、きょうの夜に更新が入るまで、表サイトにはないページでした。発表等申込のスケジュールは、多くの人が早く知りたい情報なのに、今年は、少なくとも今世紀に入ってからでは最もその情報発信が遅く、困っていた方も多かったものと思います。それを、裏サイトのほうが先回りして発信していましたので、見つけた方は助かったものと思います。私も、スケジュールが表サイトに出ないために予定が立たず困惑していた方に、裏サイトを教えて、はからずも感謝されてしまいました。また、裏サイトでは、1号通信の公開も先にはじまっています。これも同様で、表サイトに出たのはきょうの夜になってからです。

きょうの夜、つまり数時間前にあった更新で、表サイトにも裏サイトと同じ情報が公開されました。これで、表サイトしか知らないままだった方にも、同じ情報が届くようになりました。ですが、よく見ると、二つのサイトにはやや違いがあります。トップページをならべて、よく見くらべてください。まず、左側のメニューの、1号通信へリンクしている画像です。どちらも、ふつうは05.gifが、ポインタをのせると16.gifが表示されるのですが、表サイトのほうでは「1号通信」とだけ書いてあって、裏サイトのほうでは、それに小さな字で「(PDF:621KB)」とそえられています。また、文字の間隔も異なります。表サイトは、裏サイトにくらべて、少しだけ文字がつまって見えます。なお、これは、英語ページのほうでは、起こらないようです。そして、1号通信が、どちらでもまったく同じ内容のPDFファイルなのですが、それは見方によっては、両サイトで異なっているということにもなります。裏サイトの中では、リンクは常に裏サイトの中へ張られているのですが、1号通信は表サイトと同一なので、その中にあるURLやリンク先だけは、すべて表サイトのほうになっているのです。

裏サイトは、いったい誰が、何を目的として、世界に向けて公開しているのでしょうか。いくつかの可能性を考えることができます。まず、情報の不正収集です。本物の学会大会のサイトだと思わせて、そこに発表申込などをする人が出れば、個人情報が集まります。また、発表内容はまだ未公表のもののはずですので、ほかの研究者には知られていない知見を、誰よりも早くつかむことができます。ですが、日心大会の申込は、学会名簿のデータベースと連動するシステムでの運用が続いていますので、手入力を求めるつくりに戻っていたら、あやしまれるでしょう。また、表サイトよりも早く、正しい内容の情報を入手して公開することは、大会事務局に内通者がいないとできません。内通者がいるのなら、本物のサイトに集まったものをごっそり盗みだしたほうが、よほど効率がよいはずです。さらに、dio.sdp-dio.net/robots.txtを見ると、検索エンジンよけがほどこされていますので、これではわざわざ収集ターゲットに見つかりにくくしているようなものです。

二つ目の可能性として、裏サイトは大会事務局が表示テスト用に使ったサイトであるという可能性です。検索よけや、表サイトよりも早い更新も、そう考えるとつじつまが合います。ですが、これも不自然なところがあり、そして何より、かなり失礼な解釈です。まず、テスト用であれば、少しの間だけのアップロードで足りるはずです。複雑な構造のサイトではありませんから、これをチェックするために10日以上もかかっていると考えるのは、運営事務局の能力を見くびるにもほどがあると思います。また、表示テスト用のURLが、はるか離れた京都関係者の手にわたって、ツイッターで発信されたというのも、あってはいけないことです。もしあの中に、大会事務局のスタッフ等がいたとしても、テスト中で未公開、非公開のはずのものを、わざわざ外部に広く発信するような非常識な方だとは、とても思えません。もちろん、もしそのようなことがなかったとしても、まだ公開しない予定の情報をウェブに出せば、原理的には漏れる可能性をなくすことはできませんので、そのようなテストのやり方は、ある程度の技術的知識があれば、とらないように思います。きんざいFP試験問題漏洩事件からは、まだ2か月ほどしか経っていません。

第三の可能性は、関係者によるいたずらです。まるごとコピーしてまったく同じにするほうが簡単なのに、わずかに変化を加えてあるというあやしさも、いたずら説となら合致しやすいでしょう。使われているドメインも、WHOIS情報では札幌市豊平区豊平5条5丁目、おそらく札幌大同印刷の企画室dioと思われますので、そこに知りあいがいて、間借りさせてもらっていると考えることならできます。また、表サイトよりも先に公開を始めたとしても、きんざい事件ほどの不正な事態や混乱にはならないことは明らかです。むしろ、早くわかってよろこぶ人なら出るでしょうし、実際に出ています。それでも、問題がまったくないわけではありません。また、裏サイトは、公開できる形になった情報が、表サイトにはまだ出せていないことを明らかにしてしまいますので、仕事のおくれを目だたせてしまいます。ただでも今年は遅いというのに、外からおしかりを受ける材料をあえてつくる関係者がいるとは、考えにくいです。なお、きょうはたまたまエイプリルフールですが、裏サイトの公開はその前からされていますので、無関係です。

第四は、いたずら説の亜型と見ることもできますが、関係者の政治がらみの可能性です。公開する情報がととのっているのに、内部対立で動けなくなってしまったり、外部から何か止めさせるような力がはたらいたりしている中で、政治的なねらいで公表の既成事実をぶつけるために、知らん顔でそっくりの裏サイトをつくったのかもしれません。あるいは、先日に文庫で出た匪賊の社会史(E. ホブズボーム著、筑摩書房)を読んで、情報を待つ人々の思いにこたえようと、義賊気取りで動いたのでしょうか。ですが、もしこういうことだったとしたら、今後もまだ波乱が続きそうですので、一参加予定者としては、絶対にあってほしくないところです。

さて、表サイトと裏サイトで共通する、気になるところを2点、示しておきましょう。ひとつは、発表申込の締切時刻です。両サイトとも、06.htmlでは、5月20日の正午となっています。一方、1号通信を見ると、今年はページ番号がふられていないのですが、2ページ目のかこみの中に、5月20日の24時とあります。正しいのはどちらでしょうか。そしてもうひとつは、1号通信の発送時期です。トップページには、1号通信の発送は3月下旬に変更されたとあり、当初発表の3月上旬ではなくなったことがわかります。ですが、実際には、それも破られてしまっています。なかなか予定のとおりには進まないのが学会大会準備ですので、文句をつけるつもりはまったくありません。どちらかというと、内部のスケジュールが大幅に押して、大変な状態になってしまっているのではないかと、心配しています。

マクルハーンではなくマクルーハンです

シリーズ第7弾です。

ワークブック124ページから125ページにかけて、「マクルハーンは、地球全体が1つの村のように緊密な関係になることを何と表現したか。」という出題があります。正解は、すぐ右にあるように、「グローバル・ビレッジ」だということです。正確には、緊密な関係になること自体ではなく、緊密な関係になったものがグローバル・ビレッジなのですが、ここでは目をつぶりましょう。一方、この正解の参照先として示されたところに戻ると、100ページから101ページにかけてですが、「マクルーハン(McLuhan, M.)は」と書き出されています。

「マクルハーン」と「マクルーハン」、どちらが正しい表記でしょうか。もちろん、外国語の発音をカタカナにあてはめることに正解はないといえばそれまでですが、たいていの文献では、「マクルーハン」と書かれているはずです。ですので、覚えるのであれば、そちらが無難でしょう。ほかに、「マックルーハン」と書くこともありますが、これも少数派です。生誕100年に合わせて出版されたマクルーハン(河出書房新社)では、竹村健一がテレビ時代の預言者M・マックルーハンで、1か所を除いてすべて「マックルーハン」で通していますが、これは1966年に書かれたものの再録で、2002年のメディアの軽業師たち(ビジネス社)では、竹村はその例外だった「マクルーハン」のほうに合わせています。

なお、本物の発音は、それでもまだ異なります。信じられない方は、発音を聞けるサイトを当たってみてください。PRONOUNCE IT RIGHTでのMarshall McLuhan、FORVOでのMarshall McLuhan、どちらでも、長音記号の位置は「マクルーハン」に合致しますが、「ハ」の子音があるようには聞こえません。アクセントが両者で異なりますが、音はほぼ同じはずです。見なれた「マクルーハン」という文字と、より昔からあるこの発音の聴覚と、競合をおこすところが、何ともマクルーハンらしいとも思えます。

東京外国語大学非常勤公募

東京外国語大学が、研究機関研究員の公募を出しています。原則として週30時間の労働という扱いですが、労働基準法38条の3が適用されるそうですので、気をつけてください。