生駒 忍

記事一覧

二つの日心77回大会ウェブサイト

9月19日から21日にかけて、日本心理学会第77回大会が開催されます。今年は、北海道医療大学が開催校となり、5年ぶりの札幌開催となります。

この大会のウェブサイトは、二つあります。正確には、ほかにもあちこちにつくられているのかもしれませんが、私が確認できているのが二つです。ひとつは、www.c-linkage.co.jp/jpa2013/で、こちらは日心本体のサイトからずっとリンクされていて、おそらくより多くの人に知られているほうです。ここでは、表サイトと呼ぶことにしましょう。ですが、これと大変似ている、まったく別のサイトがあります。dio.sdp-dio.net/jpa2013/です。こちらは、あまりいいひびきではないことは承知の上でですが、表に対するという意味で、裏サイトと呼ぶことにしましょう。

表サイトは、昨年秋からずっと、あのアドレスで公開されてきました。では、裏サイトはいつからなのでしょうか。トップページを見ると、表とまったく同じように、昨年10月26日から公開されているように書かれています。ですが、今のところわかっている範囲では、それから5か月近く先、今年の3月22日が、このサイトがあったことを確認できる最も古い記録がある日です。この日、立命館大学の樋口耕一准教授によるKH Coderのツイッターアカウントkhcoderに、裏サイトの参加申込み・発表申込みのページのURLが出ました。それから5日後、津田裕之という京都大学の修士課程の院生が、ツイッターアカウントtsuhirに同じURLを出し、これを理研の井関龍太研究員のツイッターアカウントringoame8200がリツイートしました。井関研究員が前に籍を置いていたところも考えあわせると、3名とも京都関係者であるところが共通しています。

こうしてツイッターで世界に発信された参加申込み・発表申込みのページは、きょうの夜に更新が入るまで、表サイトにはないページでした。発表等申込のスケジュールは、多くの人が早く知りたい情報なのに、今年は、少なくとも今世紀に入ってからでは最もその情報発信が遅く、困っていた方も多かったものと思います。それを、裏サイトのほうが先回りして発信していましたので、見つけた方は助かったものと思います。私も、スケジュールが表サイトに出ないために予定が立たず困惑していた方に、裏サイトを教えて、はからずも感謝されてしまいました。また、裏サイトでは、1号通信の公開も先にはじまっています。これも同様で、表サイトに出たのはきょうの夜になってからです。

きょうの夜、つまり数時間前にあった更新で、表サイトにも裏サイトと同じ情報が公開されました。これで、表サイトしか知らないままだった方にも、同じ情報が届くようになりました。ですが、よく見ると、二つのサイトにはやや違いがあります。トップページをならべて、よく見くらべてください。まず、左側のメニューの、1号通信へリンクしている画像です。どちらも、ふつうは05.gifが、ポインタをのせると16.gifが表示されるのですが、表サイトのほうでは「1号通信」とだけ書いてあって、裏サイトのほうでは、それに小さな字で「(PDF:621KB)」とそえられています。また、文字の間隔も異なります。表サイトは、裏サイトにくらべて、少しだけ文字がつまって見えます。なお、これは、英語ページのほうでは、起こらないようです。そして、1号通信が、どちらでもまったく同じ内容のPDFファイルなのですが、それは見方によっては、両サイトで異なっているということにもなります。裏サイトの中では、リンクは常に裏サイトの中へ張られているのですが、1号通信は表サイトと同一なので、その中にあるURLやリンク先だけは、すべて表サイトのほうになっているのです。

裏サイトは、いったい誰が、何を目的として、世界に向けて公開しているのでしょうか。いくつかの可能性を考えることができます。まず、情報の不正収集です。本物の学会大会のサイトだと思わせて、そこに発表申込などをする人が出れば、個人情報が集まります。また、発表内容はまだ未公表のもののはずですので、ほかの研究者には知られていない知見を、誰よりも早くつかむことができます。ですが、日心大会の申込は、学会名簿のデータベースと連動するシステムでの運用が続いていますので、手入力を求めるつくりに戻っていたら、あやしまれるでしょう。また、表サイトよりも早く、正しい内容の情報を入手して公開することは、大会事務局に内通者がいないとできません。内通者がいるのなら、本物のサイトに集まったものをごっそり盗みだしたほうが、よほど効率がよいはずです。さらに、dio.sdp-dio.net/robots.txtを見ると、検索エンジンよけがほどこされていますので、これではわざわざ収集ターゲットに見つかりにくくしているようなものです。

二つ目の可能性として、裏サイトは大会事務局が表示テスト用に使ったサイトであるという可能性です。検索よけや、表サイトよりも早い更新も、そう考えるとつじつまが合います。ですが、これも不自然なところがあり、そして何より、かなり失礼な解釈です。まず、テスト用であれば、少しの間だけのアップロードで足りるはずです。複雑な構造のサイトではありませんから、これをチェックするために10日以上もかかっていると考えるのは、運営事務局の能力を見くびるにもほどがあると思います。また、表示テスト用のURLが、はるか離れた京都関係者の手にわたって、ツイッターで発信されたというのも、あってはいけないことです。もしあの中に、大会事務局のスタッフ等がいたとしても、テスト中で未公開、非公開のはずのものを、わざわざ外部に広く発信するような非常識な方だとは、とても思えません。もちろん、もしそのようなことがなかったとしても、まだ公開しない予定の情報をウェブに出せば、原理的には漏れる可能性をなくすことはできませんので、そのようなテストのやり方は、ある程度の技術的知識があれば、とらないように思います。きんざいFP試験問題漏洩事件からは、まだ2か月ほどしか経っていません。

第三の可能性は、関係者によるいたずらです。まるごとコピーしてまったく同じにするほうが簡単なのに、わずかに変化を加えてあるというあやしさも、いたずら説となら合致しやすいでしょう。使われているドメインも、WHOIS情報では札幌市豊平区豊平5条5丁目、おそらく札幌大同印刷の企画室dioと思われますので、そこに知りあいがいて、間借りさせてもらっていると考えることならできます。また、表サイトよりも先に公開を始めたとしても、きんざい事件ほどの不正な事態や混乱にはならないことは明らかです。むしろ、早くわかってよろこぶ人なら出るでしょうし、実際に出ています。それでも、問題がまったくないわけではありません。また、裏サイトは、公開できる形になった情報が、表サイトにはまだ出せていないことを明らかにしてしまいますので、仕事のおくれを目だたせてしまいます。ただでも今年は遅いというのに、外からおしかりを受ける材料をあえてつくる関係者がいるとは、考えにくいです。なお、きょうはたまたまエイプリルフールですが、裏サイトの公開はその前からされていますので、無関係です。

第四は、いたずら説の亜型と見ることもできますが、関係者の政治がらみの可能性です。公開する情報がととのっているのに、内部対立で動けなくなってしまったり、外部から何か止めさせるような力がはたらいたりしている中で、政治的なねらいで公表の既成事実をぶつけるために、知らん顔でそっくりの裏サイトをつくったのかもしれません。あるいは、先日に文庫で出た匪賊の社会史(E. ホブズボーム著、筑摩書房)を読んで、情報を待つ人々の思いにこたえようと、義賊気取りで動いたのでしょうか。ですが、もしこういうことだったとしたら、今後もまだ波乱が続きそうですので、一参加予定者としては、絶対にあってほしくないところです。

さて、表サイトと裏サイトで共通する、気になるところを2点、示しておきましょう。ひとつは、発表申込の締切時刻です。両サイトとも、06.htmlでは、5月20日の正午となっています。一方、1号通信を見ると、今年はページ番号がふられていないのですが、2ページ目のかこみの中に、5月20日の24時とあります。正しいのはどちらでしょうか。そしてもうひとつは、1号通信の発送時期です。トップページには、1号通信の発送は3月下旬に変更されたとあり、当初発表の3月上旬ではなくなったことがわかります。ですが、実際には、それも破られてしまっています。なかなか予定のとおりには進まないのが学会大会準備ですので、文句をつけるつもりはまったくありません。どちらかというと、内部のスケジュールが大幅に押して、大変な状態になってしまっているのではないかと、心配しています。