生駒 忍

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W. BoothとC. Boothとは別人です

シリーズ第30弾です。

ワークブック522ページから550ページまでは、索引です。「アーバニズム」から「ワンストップ・サービス」まで、重要用語がならんでいて、学びすすめる中での使いみちがいろいろあります。

ただし、使いにくい点として、字面が同じになる用語は、明らかに別の用語であっても、必ず同一の用語としてあつかわれてしまっていることがあります。以下のようなものがあります。

「アダムス」
・岡山博愛会創設者 A.B. Adams
・ハルハウス創設者 J. Addams

「A型」
・史上2番目に発見された肝炎ウィルス
・身体障害者福祉センターの一類型

「B型」
・史上初めて発見された肝炎ウィルス
・身体障害者福祉センターの一類型

「ブース」
・救世軍創設者 W. Booth
・3度のロンドン貧困調査の実施者 C. Booth

「ベック」
・うつ病の認知療法を開発した精神科医 A.T. Beck
・リスク社会論で知られる社会学者 U. Beck

「補助」
・生活保護制度における社会福祉主事の業務
・法定後見制度の一類型

「アダムス」や「ブース」は、活動分野も活動時期も近く、「ブース」はロンドンのイースト・エンドが主要フィールドだったことまでかぶります。この索引では、同一人物だと誤解されそうで心配です。

「自主的」が「主体的」に書きかえられています

シリーズ第29弾です。

ワークブック242ページに、「表7 住民等の主体的参加」という表があります。これは、社会保障審議会福祉部会による市町村地域福祉計画及び都道府県地域福祉支援計画策定指針の在り方について(一人ひとりの地域住民への訴え)から、一部の内容を抜粋したものです。その一部とは、「市町村地域福祉計画」の「(2)計画策定の体制と過程」の中の「⑤ 地域福祉計画策定の手順」のことです。そこにある4項目が対象です。

ただし、その整理のしかたには、好ましくないところがあります。原文と見くらべていただくとわかりますが、基本的には、骨組みから遠いところを少しずつ削ってととのえる方針がとられています。同じ文の中に「明か」と「明らか」との両方が出てくる表記のゆれについては、「明らか」にそろえています。ですが、その中で特異な変更が加わっているのが、4項目目です。原文で、「このような住民等による問題関心の共有化への動機付けを契機に、地域は自主的に動き始めることとなる。」とあるところが、この表では「住民等による問題関心の共有化への動機付けを契機に、地域は主体的に動き始める。」となっています。「自主的」が「主体的」に書きかえられているのです。ほかのどの項目でも、原文の表現をほぼそのまま残しているのですから、似た意味のことばだとはいっても、ここだけをわざわざ書きかえてしまうのは、適切ではないと思います。この表につけた、「住民等の主体的参加」というタイトルに合った内容があったように見せたかったのでしょうか。ギリシャ神話の、プロクラステスの寝台のお話を思い出します。

心身障害者対策基本法は1970年施行です

シリーズ第28弾です。

ワークブック473ページに、「1971(昭和45)年に制定された心身障害者対策基本法」とあります。1971年は昭和46年で、昭和45年は1970年なのですが、制定されたのはどちらなのでしょうか。

この法律は、20年前に障害者基本法へ変わりましたが、心身障害者対策基本法として制定されたのは、1970年5月のことです。日本における差別と人権 第4版(部落解放人権研究所)では、翌年に施行されたように書かれていますが、附則にあるように、即日施行でした。1年後になったのは、27条および当時の内閣府設置法15条に基づく中央心身障害者対策協議会の設置です。

このワークブックの472ページには、「障害者施策等の主な歴史の流れ」という表がありますが、そこでは制定年が1970年になっていて、こちらは正しいです。一方、いまなぜユニバーサルイベントなのか 新しいイベントの概念を求めて(日本イベントプロデュース協会)を見ると、「高齢社会を生き抜く人づくり塾」が作表したという「国連と日本の人権推進の主な流れ」という表で、心身障害者対策基本法に1971年という年代が与えられていますが、これは誤りです。月刊ケアマネジメント 2013年5月号(環境新聞社)は、障害者総合支援法の2段階目の施行が2万年以上先になっていたり、高経協第1回シンポジウムが日曜日の開催のように案内されたりと、毎号のことながら校正が甘いのですが、特集記事にある「障害福祉政策の歴史」という年表では、心身障害者対策基本法は1970年になっています。

公債費が土木費を抜いて3位になっています

シリーズ第27弾です。

ワークブック238ページに、「2010(平成22)年度の地方財政の目的別歳出割合は、歳出額94兆7750億円のうち、民生費が最も多く22.5%、次いで教育費17.4%、土木費12.6%の順となっている。」とあります。これは、適切ではありません。

平成24年版地方財政白書(日経印刷)を見てみましょう。この話題は、第1部にあります。第6表、第7表とも、平成22年度について、民生費が最も多く、その次が教育費であることを示しています。ですが、3番目は、12.6%を占める土木費ではなく、13.7%の公債費です。13ページの本文の中でも、この順序であることが述べられています。第7表からわかるように、この平成22年度にちょうど、公債費に抜かれたところです。

ちなみに、最新版である平成25年版地方財政白書(日経印刷)で、平成23年度の数値を見ると、同様に3位は公債費で、13.4%を占めています。土木費はというと、割合がさらに減って、11.6%になっています。平成16年度までは、教育費よりも多く、1位だったことを考えると、隔世の感があります。

医療ソーシャルワーカー業務指針とその改訂

シリーズ第26弾です。

ワークブック387ページに、医療ソーシャルワーカー業務指針についての説明があります。そこでは、「医療ソーシャルワーカー業務指針検討会によって発表された「医療ソーシャルワーカー業務指針」(2002(平成14)年)では」という書き方が一番はじめにされていますが、少し後に、「「医療ソーシャルワーカー業務指針」は、2002(平成14)年に改正された。」と書かれています。これでは、業務指針は2002年に発表されて、その年のうちにすぐ改正されたように読めます。

実際には、1989年に最初のものが発表され、それを改訂したものが出たのが2002年です。先日出た現代社会福祉用語の基礎知識 第11版(学文社)にも、そのように書かれています。日本医療社会福祉協会のサイトの倫理綱領・業務指針のところから、両方のバージョンを見ることができます。見くらべると、二つの間にあった内外の変化がうかがえます。たとえば、業務の範囲について、1989年版では5種類があって、順に、「経済的問題の解決、調整援助」「療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援護」「受診・受療援助」「退院(社会復帰)援助」「地域活動」となっています。これが、2002年版では6種類に増えて、「療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援助」「退院援助」「社会復帰援助」「受診・受療援助」「経済的問題の解決、調整援助」「地域活動」というぐあいに変わりました。退院と社会復帰とが分離されましたし、並び順も、時代の変化をあらわしているといえそうです。ですが、順序には特に価値はないという考えも、あるかもしれません。保健医療ソーシャルワーク論(田中千枝子著、勁草書房)では、もちろん2002年版を取りあげていて、資料としてそれを11章の後ろに載せていますが、その11章の本文では、経済的問題、療養中の心理的・社会的問題、受診・受療援助、退院援助、社会復帰援助、地域活動という、1989年版に準じた順序で示しています。あるいは、古いものより新しいもののほうがすぐれているという、月並みな発想をうたがうべきなのかもしれません。新・社会福祉学講義 第2版(杉本敏夫・宮川数君・小尾義則編、西日本法規出版)は、2004年4月の公刊ですが、業務指針は1989年版のほうを載せました。

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