生駒 忍

記事一覧

『セッツルメントの研究』は大正期の出版です

シリーズ第16弾です。

ワークブック145ページに、大正デモクラシー期を中心としたわが国の福祉史が概観されています。その中に、「1926(昭和元)年には、大林宗嗣によって『セツルメントの研究』が著された。」とあります。これは、正しくありません。

まず、書名です。正しくは、セッツルメントの研究です。当時の原書だけでなく、復刻版(日本図書センター)や、新訂版(慧文社)も、まったく同じで「ッ」が入ります。原書は、奥付には「セツツルメントの研究」とありますし、扉には、当時の横書きですので今とは逆向きで、「究研のトンメルツッセ」とありますが、「セツルメントの研究」と書かれたところはありません。このワークブックも含めて、福祉系資格の受験関連のものには、「セツルメントの研究」という表記が意外にあるようで、ウェブ上でも見かけます。また、ウェブ検索からは、出版社を「同人者書店」と書いたり、刊行年を1927年としたりといったまちがいも、ちらほらと見つかります。正しい出版社名は同人社書店で、扉には「社 人 同・京 東」とあります。

また、刊行年は、1926年ではあるのですが、昭和元年ではありません。昭和への改元は、この年の12月25日のことでした。この本は、奥付を見ると、大正十五年二月十日印刷、大正十五年二月十八日発行とありますので、昭和になってからのものではありません。刊行年ではなく、著述した時期だとしても、それより後ということはありえません。ちなみに、この本は、大正10年の「ソーシアル・セッツルメント事業の研究」を改稿したものということでもあるのですが、本人は序で、「全然それとは別個のものとして執筆したものであると云つてよい」と言いきっています。

なお、このワークブックは、わが国で初のセツルメントについて、2説をさらりと併記する配慮を見せています。岡山・花畑の日曜学校(岡山博愛会)と、有名なキングスレー館とです。ですが、かつては他の考え方もありました。日本セッツルメント研究序説(西内潔著、宗高書房)は、相愛夜学校と南部日曜学校を端緒とみています。『セッツルメントの研究』はというと、「我國のセッツルメント事業で最も早く設立されたものは東京府豊多摩郡淀橋町柏木にある有隣園」と書いていて、これは1911年の創設です。

三角カーネル関数ではなく三角形関数です

きょう、共立出版から、コンピュータビジョン アルゴリズムと応用(R. Szeliski著)の特別割引販売のご案内文書が届きました。税も送料も込みにして、15,000円でというお話でした。

ちなみに、この訳書の127ページ、図3.29のキャプションの中に、「三角カーネル関数」ということばがあるようで、私にはなじみのない専門用語のように思われました。ここが対応するのは、原書Computer vision: Algorithms and applications(R. Szeliski著、Springer)ですと147ページでしょうか。そこでは、Figure 3.29のその部分には、"and tent function in brown"というように登場していました。そのまま、三角形関数と訳してよいように思ったのですが、いかがでしょうか。

線条体はドーパミン合成を行いません

シリーズ第15弾です。

ワークブック35ページに、パーキンソン病について、「原因は脳の黒質、線条体のドーパミン合成の低下である。」とあります。これは、正しくありません。

黒質では、ドーパミンが合成されます。線条体には、そのドーパミンが送られ、使われるのですが、線条体がドーパミンを合成することはありません。念のため、線条体でドーパミン合成が行われる特異な例があるかもしれないと考えて探してみましたが、そのような報告は見あたりませんでした。

臨床に役立つ解剖学・生理学概要(岡田昌義著、医学図書出版)にも、同じようなところがあります。「黒質の神経細胞の変性によりドパミンの産性が減少するため」と書いていますが、少し後に、「黒質や線条体からのドパミンの産性が減少することにより」ともあります。どちらでも、産生ではなく「産性」と表現しているのも、気になります。一方、社会福祉士合格ワークブック2013 共通科目編(ミネルヴァ書房)には、パーキンソン病は原因不明としながらも、「黒質・線条体でのドーパミン」が減ることで発症するとあります。

お札に7回登場した聖徳太子

週刊ポスト2013年4月19日号では、表紙のまん中に「大人だけが知らない新しい日本史の常識」とあって、中づり広告では「常識」がかぎかっこでくくられていたと思いますが、最近の歴史教科書の動向に注目した特集記事が載りました。内容としては、こんなに変わった歴史教科書(山本博文ほか著、新潮社)やなぜ偉人たちは教科書から消えたのか(河井敦著、光文社)などでだいたい取りあげられているものですが、特に聖徳太子についての話題が大きくあつかわれていました。ある年代より上の人にとっては、まさにお札の「顔」としてなじみの深い偉人です。「ゴクミも知ってる聖徳太子」、これが通じる世代だと考えてください。

それでも、日本銀行券の歴史の中では、聖徳太子は別格の存在です。アメリカ占領下でも紙幣から追われずに残り、1984年にD号券が登場するまで、高額紙幣の代名詞でした。交替の時にも、十万円札が実現したら帰ってくると、よく言われていたものです。クイズ お金検定(井坂真紀子監修、主婦の友社)ではっきり書かれているように、お札には計7回登場して、これが最多記録となっています。

ですが、最近、そうでない主張をするテレビ番組があったという情報があります。価格.comの、「ひるおび!」 2013年1月16日(水)放送内容によりますと、斎藤哲也のひるトクというコーナーで日銀が取りあげられて、「日本銀行の発行した紙幣を紹介。今まで53種類、肖像画で一番多いのは「その他」の7回。」というような内容の放送がされたとのことです。集計カテゴリのつくり方によっては、「その他」が7回ということもありうるとは思いますが、ちょっと考えにくいところです。また、それでも聖徳太子は1位タイのはずですから、名前を出さない番組進行は不自然です。単なる誤報であると思いたいところです。

ちなみに、仏教をあつく信仰した聖徳太子だけに、護法ならそれらしいのですが、誤報どころか虚報に巻きこまれたことがあります。興味のある方は、『日出処の天子』毎日新聞誤報(捏造)報道事件まとめ(仮)をご覧ください。

在宅就業障害者特例調整金・報奨金も対象です

シリーズ第14弾です。

ワークブック498ページに、「高齢・障害者雇用支援センターは、障害者や高齢者の雇用を円滑に進めるための啓発事業、雇用納付金制度に基づく業務(雇用調整金・報奨金および各種助成金の説明、納付金の徴収、受付、支給)、雇用管理指導に関する研修、相談、援助を行っている。」とあります。前のページから続く、「教育機関の役割」という項に入っていますが、どちらかといえばその前の、「労働関係機関の役割」のほうに入れたほうがよい内容です。そして、もしそこに入っていたとしても、この書き方では、誤解をまねくように思います。

雇用納付金制度に基づく、このセンターがあつかう業務は、ここでかっこの中にならべたものだけではありません。ほかに、障害者の雇用の促進等に関する法律74条の2に基づく在宅就業障害者特例調整金と、附則で当分の間という形で定められた在宅就業障害者特例報奨金とがあります。この2制度は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構概要2012を見ると、障害者雇用納付金制度に含まれていて、雇用調整金および報奨金とは別のものとして位置づけられています。特例子会社運営マニュアル(秦政著、UDジャパン)などでも、同様のあつかいです。障害者作業施設設置等助成金、障害者福祉施設設置等助成金など計7種の助成金とも、「助成金」とつかないことからもわかるように、異なります。