生駒 忍

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「スマホやめますか」の皮肉と音楽による難聴

きょう、スポーツ報知のウェブサイトに、【メディカルNOW】「スマホ依存症」「スマホやめますか、それとも…」信大学長の真意は?という記事が出ました。

「「スマホやめますか、それとも信大生やめますか」というフレーズが話題に」、あれはいわゆる炎上マーケティングとしては成果があり、今季では芸能人の批判しにくいできごとを使った関西大とともに、大学教育に関心のない人にまで知られた入学式となりました。会場で聴かなくても、あいさつの全文が公表されていますので、あのフレーズはレトリックで、二者択一を強いたわけではないとすぐわかるものでしたが、それができない人も一定数いることを浮かびあがらせた事件だったようにも思います。スマートフォンで、いつでもどこでも文章が読める時代になっても、その便利さを生かせていない自分に気づかずに、便利なスマホをたたくなと反発するとは、皮肉なものです。ちなみに私は、ニュースサイト、若くないのでネットニュースではなくニュースサイトと表現しますが、そこでのタイトルで見たときには、あいさつ中にスマホいじりをやめない学生が目だって、仙台で吉村作治が怒った事件のようなことが起こったのかと期待しましたので、もっとずれた誤解から入りました。

「長時間スマホを使う」ことの、学長の主眼とは異なる問題点が、先に提示されます。「首を下に向けるので肩こりがひどくなる」、こういった問題には「スマホうつ」の記事で触れました。「ヘッドホンで音楽を聴いていると難聴になる」、これに関する対策には、音楽心理学入門(星野悦子編、誠信書房)で触れました。

「が、スマホのゲームなどで無為に時間を潰す機会が増え、スマホ依存症は知性、個性、独創性にとって毒以外の何物でもないから、スイッチを切って本を読もう、友だちと話をしよう、自分で考えることを習慣づけようと呼びかけたのだ。」、これが新入生へのメッセージだったような書き方ですが、「毒以外の何物でもない」は言いすぎでしょう。それでも、悪影響には注意が必要です。情報弱者とパソコン離れの記事で取りあげたような、つくる関心が落ちてただの「消費者」に固定されてしまうこと、テレビをつまらなくしている若手の記事で取りあげたような、自分の意思を他人にわたしてしまっているかのようなところなどは、スマホくらい自由に使わせろと言いたい人ほど、より重い自由の問題として、よく考えるべきでしょう。

自撮りをきらう女性と「ゆとり」のプレゼン

きょう、しらべぇに、【自分アピール】40代女性の7割が「自撮りウザい!」 30代男性の2倍を超える謎という記事が出ました。

「SNS、中でもとくにFacebookには、写真つきの投稿が多い。」「美味しそうな料理の写真、ペットの犬や猫、子供の写真や風景など」と書き出されます。orangestarの雑記にきょう出た記事、はてな村奇譚76が表現した、「ただ生きる」がしあわせな世界です。

ですが、ここでの話題は「自撮り写真」、「リア充アピールの場」のほうです。調査結果は、「全体で見ると、6割近くが自撮りに「自己顕示欲」と「嫌悪感」」、「女性は全般的に自撮り嫌いが多かったが、40代がもっとも顕著で7割超え。」というものでした。その理由の考察は、妥当なところだと思います。あえて、補助的な要因を足すと、プリクラの影響もあるでしょう。登場からそろそろ20年になりますが、たのしく自分を撮っては見せて見られての日々で育った世代の女性と、世間でブームのころにはもう、はずかしくて使えない年齢になっていた世代とで、落差は小さくないはずと思います。

「30年の月日とソーシャルメディアが、人間の自己顕示欲を肥大させたのかもしれない。」と締めます。ネット、特にSNSの影響はもちろんですが、音楽の世界の「見下し現象」の記事で取りあげた石田衣良の指摘、文学を読むことの意味の記事で取りあげたp_shirokumaの指摘などのような、80年代に起きた文化的な転回にも、起源をたどることができそうです。

それ以前には、写真に限らず、「自分アピール」がこんなに好まれることはありませんでした。「男は黙ってサッポロビール」、70年代の有名なコピーです。「ゆとり世代」が職場に来たら読む本(柘植智幸著、日経BP社)にある、「ゆとり世代の若者は大学でプレゼンテーションを学んでいますから、一方的に語ることは得意です。」「教育・研修の場で様々な彼らの意見、特に新入社員の言葉を聞いていると「いったい何様なの?」と思うことがよくあります。」、そんな今とは、まるで正反対だったのです。WirelessWire Newsに3か月前に出た記事、AO入試偏重は技術立国の自殺であり階層を固定するには、「日本が戦争の焼け跡から立ち直ろうと頑張っていた時代に、日本を技術立国として引っ張って来たのは、ご立派な非営利活動や海外留学をひけらかし、しゃべりとプレゼンはうまい若者ではありませんでした。家は貧乏だが、勉強が好きで、せっせと真面目に働く地味な青年達でありました。」とあります。文藝春秋 2015年2月号(文藝春秋)に楠本利夫という人が書いた、家がまずしい成績優秀な同級生はめっき工になって、という回想、こういう人が高度経済成長をささえたという指摘とも重なります。

自分の頭で考えたくない大学生と安定志向

きょう、東洋経済ONLINEに、津田大介氏「今の若者はゼロイチで考えすぎ」 ”減点型社会”が若者を変えた?という記事が出ました。「若者研究家の原田曜平氏と津田氏の対談を、前・後編の2回にわたってお届けします。」という企画の、前編です。

「津田さんをツイッターでフォローしたりメルマガを購読したりするのは、どのような人たちなのでしょうか。」と問われて、「おそらく自分の頭で考えたいと思っているまじめな人が多いのではないでしょうか。」、これが実は、今回の最後のほうの話題との対比になっています。それと同時に、こちらもネットの有名人の、自分のアタマで考えよう(ちきりん著、ダイヤモンド社)を出した「おちゃらけ」ブロガーを連想させるものでもあります。そういえば、DVの件数と意識の記事で触れたものもありました。

「今の若者」について津田は、「まじめですよ。今はみんな授業に出ますからね。」とします。これはもちろん、きちんと出席することが、「僕らが学生だった頃は、日本がこんなに沈むなんて思っていなかったし、そんな問いすらありませんでしたからね。」という時代よりも、大学に必要となったことが大きいでしょう。ですが、出席点はなくなりました。

「以前、ある大学でメディアリテラシーについて教えたときに、「ニュース報道が信じられず、ネットにしか真実がないと思っている」と話す学生がいました。」という話題が登場します。こういう、あるいはココナッツオイル健康法(B. ファイフ著、WAVE出版)の、「私なら、大豆業界のプロパガンダより、事実を信頼する。」のような方向性も、視点のひとつとして組みあわせていくのはよいのですが、そうでないのは問題です。「デマとデマじゃないものの中間に真実がある」ようなとり方ができず、「つねに「1か0」を求める子が増えているような気が」という指摘になります。

そして、「学生が「そんなわからないことを報道されても困る。わかったことだけ報道してくれ」って言う」、「要するに、自分で考えたくないっていうことの裏返しだと思うんですけどね。」、これはよくわかります。授業の中で、複数の説を並列的に取りあげると、正しい答えはどれかを聞きだそうとされます。新書などで、最後に具体的なノウハウや明るい解決策を提案しない、問題や論点を提起して考えさせるところに主眼のあるタイプのものは、特にネット書店では、否定的な評価を浴びせられがちです。こども電話相談室の変化の記事で取りあげたように、教養や文学が好まれなくなったのも、必然なのでしょう。

「結局、社会が減点型の評価しかしないし、数字とかコンプライアンスとか、いろいろと制約要因が社会に増えていますから。」、その影響もあるとは思いますが、「しか」ではないと思います。たとえば、学校にはゆとり教育、新学力観、金子みすゞ的な個性尊重が入り、これらはむしろ、旧来的な客観テスト中心の教育にくらべれば、加点主義的な色あいがあり、数字のしばりも弱まります。そして、スクールカーストの闇 なぜ若者は便所飯をするのか(和田秀樹著、祥伝社)はこの学校の変容によって、キャラ化する/される子どもたち 排除型社会における新たな人間像(土井隆義著、岩波書店)は価値の多元化によって、出るくいになることが極度におそれられるようになったとします。

「未来が不安だからといって、将来の夢が公務員とか、安定して高収入がいいとか、家賃収入で暮らしたいとか、まったく夢のない展望を中学生から聞かされると、ちょっといろいろ考えちゃいます」、同感です。この傾向は、年齢や学歴が上がってもあるようで、まだ東京で消耗してるの?の記事、京大出て大企業に就職とか何考えてるんですか?の挑発につながります。

女性の貯金好きと手段を目的化する日本文化

きょう、J-CASTに、働く女子は、2015年も「貯金通帳」を見て悦に入るという記事が出ました。

「20歳~59歳の男女ビジネスパーソン1000人を対象に、「2015年の目標」を聞いたところ、トップは「貯金」、次いで「年収UP」、「ダイエット」の3つ」という調査結果の紹介から入ります。「1位の「貯金」は、男性の43.2%に対し、女性は62%と、約18ポイントも高く」、「一方、2位の「年収UP」は、男性(43.8%)に対し、女性(37.8%)と、やや女性の意欲が低い様子。」です。「「年収アップできたら嬉しいけど、望めそうもないし、とにかく貯金しなきゃ。ダイエットは当然でしょ」と、微妙に悲観的な女性」という解釈がされていますが、これを悲観的ととる見方はやや悲観的に思えますので、保守的、現実的と理解したいところです。

「女性では圧倒的に「貯金」(62%)の割合が高い」という強力な量的知見に、知人OLの「預金通帳の数字が増えていくことだけが楽しみ」という発言を足して、議論が進められます。となりの国は、昨年末に産経ニュースに出た記事、韓国国民は「借金漬け脅威」高利貸にはまり、「信用不良者」のレッテル…スマホ低迷だけじゃない韓国経済の内憂のような状態ですが、昔から貯蓄好きだといわれるわが国の、若い女性の性向は強力なようです。若者は本当にお金がないのか? 統計データが語る意外な真実(久我尚子著、光文社)によれば、「可処分所得が増加しているのは若年単身世帯の女性のみ」という中、「若年単身世帯の女性については、貯蓄現在高は大幅に増加」しています。「男女の金融商品の保有率を比べると、女性では男性より安全性の高い商品(定期性預貯金)を好む傾向」の指摘もあります。日経電子版に1か月前に出た記事、男女の行動の違い(1) リスクの取り方に性差にあるような性差のあらわれでしょう。あるいは、お金だけでなく、食の安全をめぐる「風評被害」の加害や、NIMBYやNIABYな社会インフラへの反対運動でも、似た傾向を感じます。

さて、「「仕事や暮らしぶりは質素だけど、友達もそんなにいないけど、貯金だけは私を裏切らない・・・」と、ひそかに通帳を見て口元をゆるめる瞬間は、誰にも見せられません。」、ひそかなしあわせのようです。ですが、本来、お金は手段で、使うためのものです。心が和む 日本の名言(リベラル社)に取りあげられた、豊臣秀吉のことばでもそうですし、現代ではたとえば、auto sport 3月28日号(三栄書房)にある、福井敏雄がトヨタ自販の経理担当者に、お金は金庫に入れておいても無意味だと言われたお話もあります。それでも人は貯めて、貯めること自体が目的になってしまうのは、意外に日本的な感覚をふくむのかもしれません。近年、「オタク文化」やガラパゴス化に、手段の目的化を見いだす視点が登場しています。BLOGOSの記事、「ハッカー文化」と「オタク文化」の違い、または手段の目的化によるイノベーションがその問題提起ですし、PLANETS vol.8(第二次惑星開発委員会)にも、同様の議論がありました。そういった手段の目的化を、貯金そのものに楽しく載せたのが、人生銀行(タカラトミー)です。欲しがらない若者たち(山岡拓著、日本経済新聞出版社)では、「少子化に悩む玩具業界では最近珍しいヒット商品だが、火つけ役は20代だったという。特に女性ではその傾向が強く、初年度は20代が3割を占めていた。」と紹介されました。ふと、週刊文春 9月4日号(文藝春秋)で、そういう芸風の女性なのですが、「やっぱ女子供だまさねえと金は儲かんねえ。」と、えげつないことを書いた人を思い出しました。

えげつないで思い出したのが、ぴんくという人のきのうのツイート、うちの大学に露出狂現る! →なんとそれが大学の教授です。女性を敵に回すといたい目にあう、というような私事のレベルではなく、犯罪の域のように見えます。この「女学生」は、ここに持っていくことを目的に持っていたのか、この展開でできることをと、手段から進んでしまったのか、どちらだったのでしょうか。

日本の若者がねらわれる理由と加害者の兆候

きょう、Benesse教育情報サイトに、「だまされない大人」に育てるためにできることという記事が出ました。

「2014(平成26)年12月、警察庁の発表では、振り込め詐欺の1~10月の被害額が約293億9,000万円に上り、過去最悪のペースで増えているとされています。」と書き出されます。14年の振り込め詐欺被害額が過去最悪 約293億9000万円のことを書きたかったのだと思います。ここに限らず、国語力の気になるところが散見される文章ですが、「若者がだまされる詐欺的トラブル例」が本題ですので、ここは読みとばしてよいでしょう。

「子どもたちは19歳までは「未成年者」として法律で守られていますが、20歳の誕生日を迎えた途端、多くの危険にさらされます。」として、かこみの中に5事例が列挙されます。ですが、下のほうの事例は、法律上の「20歳の誕生日」とはとうてい無関係なものに見えます。

「だまされる背景」のひとつに、「リアルな人間関係が希薄になっている」ことを挙げます。@DIMEに出た記事、【LIFE HACKS】外出や人との交際の頻度が減って“草食化”が進む先進国には、「経済成長著しい国では、人との交際に積極的で、男性は大盤振る舞いする傾向」、一方で「先進国では、外出・人との交際の頻度が減り、“草食化”が進んでいる」とありますので、この要因でだまされるようになる傾向は、ほかの先進国にもありそうです。ですが、この調査は、対象国の選択が独特であることに、注意が必要でしょう。ちなみに、わが国の子どもの場合ということになると思いますが、日経Kids+ 心の教育(日経BP社)によれば、「金遣いが荒くなった」、「付き合っていなかったはずの友達と最近仲がいい、妙にテンションが高い」、これはその子がいじめ加害者になった兆候なのだそうです。

「リアルな友人であっても、ネットの中ではたくさん話しているけれど実際には長い間会っていないということも多く、困ったときに相談できる親しい友人が少ないことも若者がトラブルに遭いやすい要因です。」ともされます。親しい友人はいても、昔の意味での「親友」ではなくなっています。震える学校 不信地獄の「いじめ社会」を打ち破るために(山脇由貴子著、ポプラ社)にあるように、いまは親友だからこそ、ほんねを言えないのです。あるいは、対面ではっきりと言うことがうまくできないということもあるでしょう。そういえば、日刊ゲンダイのウェブサイトにきょう出た記事、22歳女性1カ月監禁レイプ…インドで日本人が狙われるワケには、「白人女性は体格がいいし、ヘタに誘うと怒り出すので声をかけませんが、日本人女性はきっぱり拒絶できないのでターゲットにされがち。」という指摘がありました。

「だます側のテクニックは今後も想像を超えて巧妙化するでしょう。」という中でも、結論はやはり、「学校と家庭が連携して「だまされない大人」を育てましょう。」となります。1か月ほど前に、世界一騙されやすい日本人 演技性パーソナリティ時代の到来(和田秀樹著、ブックマン社)という本が出て、しかもその帯にならんだリアルな似顔絵の3人が、もう過去の人になってしまっているという流れの速い時代、なおいっそうの努力が求められそうです。