出題解説

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問71 オッズ比の計算方法

オッズ比(OR)は、心理実験や社会調査ではなかなか見かけませんが、医療統計ではよく用いられます。慣れないと読みにくい数値かもしれませんが、計算はとても単純です。今では出典を知らずに参照する人が多いようですが、かつての厚生省の報道発表、低用量経口避妊薬(ピル)の承認を「可」とする中央薬事審議会答申についてに付属して公表された用語集を示しておきます。

 有効性・安全性に関する統計用語集 - 厚生省(現・厚生労働省)

この順番で計算すると、 OR = 50 ÷ 20 × (100 - 20) ÷ (100 - 50) = 4 となります。したがって、4が正解です。

問72 メタ分析と公刊バイアス

メタ分析は、医学領域で早くから用いられてきましたが、近年では心理学においても、エビデンスの意義の理解とともにひろまっている手法です。

1、これは予備調査の一種でしょう。ただし、この予備調査という用語は、あちこちでふつうに使うものではあるのですが、ブリタニカ国際大百科事典〈6〉ホエ-ワン(TBSブリタニカ)は「言葉の意味が曖昧な慣用語」としましたし、気をつけたほうがよいところもあります。

2、これは近年ようやく問題性の認識が共有されるようになってきた、QRPの一種でしょう。こんなことをしてはいけません。

3が正解です。メタ分析は多くの研究を統合して知見をみちびくすぐれた手法ですが、その対象になる研究がかたよっていては、正確な知見は得られなくなります。同じような内容の研究でも、きれいな結果、歓迎される結果、わかりやすい結果が出たものほど、論文等として目だつところに公刊されやすく、そうでない結果はお蔵入りしやすいことによって、公刊バイアスが起こることに注意しないといけません。第21回MR認定試験でも出題されたポイントです。

4、じっくり吟味しつつすすめるのはかまいませんが、長い年月をかけることが必須ではありません。心理学の研究で、立案からそこまでかかるのは、問69解説で取りあげた前向き研究くらいでしょう。

問73 心身にかかわる指数

1が正解です。成人に用いる体格指数では、最もよく用いられるものです。計算式が単純であることも、使いやすさの一因となっていますが、身長をcmではなくmであつかうところに、注意してください。ちなみに、BMIをBMI指数と書くのは、RAS症候群です。

2、不快指数は気温と湿度とから算出され、蒸し暑さを感じる程度とよく対応するようにつくられています。求め方はいくつかあるのですが、だいたい75から80くらいで、不快な暑さと感じる人が多数派となっていきます。50ではあまりに寒いので、たいていの人が別の意味で不快になりますが、50が特に基準になるようなつくり方はされていません。

3、ブリンクマン指数は喫煙指数とも呼ばれ、1日あたりの喫煙本数と、喫煙年数とをかけたものです。肺がんだけでなく、咽頭がんや食道がんなどへの予測力もあります。禁煙外来での保険適用の基準にも取りいれられています。禁煙外来については、問17解説も参照してください。

4、知能指数は、心理学では最もよく知られた指数で、精神年齢を生活年齢で割って100をかけたものです。25を下回る知的障害者もいますし、125を上回る健常者などはめずらしくもありません。また、知的障害の判定にも活用されていますが、用いる検査が異なると値も多少変わるものですし、しゃくし定規にこの数値だけで、知的障害者と健常者とがぴったり切りわけられることはありません。アメリカ精神遅滞学会(AAMR)の考え方では、環境とのかかわりにおける適応の状態としてとらえようとしますし、DSM-5は精神遅滞から知的障害へと呼称を改めた上で、定義からIQの目安をはずしました。わが国の法律上では、問45解説で取りあげたように、知的障害の直接の定義はありません。教育行政では、「就学指導の手引き」「教育支援の手引き」といった文書に定義を見ることもできますが、IQだけで線引きをすることはありません。

問74 統制された情緒的関与の原則

Biestek, F.P.の著書、ケースワークの原則 援助関係を形成する技法(誠信書房)で提唱された7本の原則が、のちにバイステックの7原則と呼ばれるようになりました。批判もさまざまにありますが、ソーシャルワーク領域の古典として、広く親しまれています。

1、即時確認の原則は、プログラム学習の5原則のひとつです。

2、申請保護の原則は、生活保護の4原則のひとつです。生活保護法では、7条にあたります。ただし、ただし書がついています。

3、法の支配の尊重の原則は、ISO26000の7原則や、WHOの精神保健ケアの基本10原則などにみられます。

4が正解です。ことばから内容がイメージしにくい原則ですので、気をつけて覚えてください。

問75 エンパワメント概念のはじまり

エンパワメントは、エンパワーメントとも書かれ、いずれにしてもなじみにくいカタカナ語ですが、ソーシャルワーク領域では重要な概念です。なお、国立国語研究所の第2回「外来語」言い換え提案は、「能力開化」「権限付与」「権限委譲」といった言いかえを提案していますが、あまり定着していません。能力は「開花」と書きたくなりますし、付与や委譲では外部の権力から持たせられる語感があるため、エンパワメントの思想とはずれるようにも思われます。

1、このような始まり方をしたものとして、ノーマライゼーションがあります。英語のnormalizationは、統計の分野では標準化と訳されますが、福祉領域のものはたいてい、カタカナで書きます。そのため誤解されやすいのですが、始まりはデンマークで、わが国ではBank-Mikkelsen, N.E.が、提唱者として有名です。スウェーデンのNirje, B.が広め、Wolfensberger, W.がSRVの概念へと発展させました。なお、第2回「外来語」言い換え提案は、「等生化」「等しく生きる社会の実現」「福祉環境作り」といった言いかえを提案していますが、定着していません。

2が正解です。アメリカ公民権運動を受けて、Solomon, B.B.がBlack Empowerment(Columbia University Press)を著すなどしたことで、福祉領域の概念として広まりました。

3、このような内容のものとして、AAの12のステップがあります。AAについては、問18解説を参照してください。なお、AA-12とは無関係です。

4、ストレングスと同じ視点ではありませんが、相いれないわけではなく、双方を組みあわせてよりよい効果につなげるのは、すぐれた援助のあり方でしょう。