出題解説

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問64 ポジティブ心理学の研究者

1は、フロー体験や内発的動機づけの研究で知られ、ポジティブ心理学の主要な研究者のひとりです。フローについては、問68解説を参照してください。

2は、イヌの唾液分泌の実験から、後に古典的条件づけと呼ばれる現象を見いだし、体系化した生理学者です。後年には、実験神経症の研究にも関心を向けました。

3が正解です。イヌを被験体とした学習性無力感の実験を行い、これをヒトに拡張した改訂LH理論はうつ病の説明モデルとして、Abramson, L.Y.らの絶望感理論へと発展しました。一方で、アメリカ心理学会の会長として、1998年の講演で「ポジティブ心理学」の取りくみを呼びかけたことが、この分野の急速な発展につながりました。ちなみに、ポジティブ心理学の挑戦 “幸福"から“持続的幸福"へ(M.E.P. セリグマン著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、ポジティブ心理学のはじまりにつながった、数奇なメールと大金との出会いから書きだされています。

4は、自己評価などで現実よりも肯定的な方向へとバイアスがかかる現象である、ポジティブ幻想の研究で知られています。ポジティブ幻想も、ポジティブ心理学の主要な研究テーマのひとつです。

問65 欲求階層説と自己実現欲求

1、自己実現という用語をつくったのは、神経学者のGoldstein, K.です。ベルリン大学でゲシュタルト心理学に触れましたがナチス政権成立により亡命し、アメリカで後のゲシュタルト療法や、Maslow, A.H.やRogers, C.R.の人間性心理学アプローチに影響をあたえました。

2、Erikson, E.H.の心理社会的発達理論は、生涯発達を8段階に区分し、そのうち青年期の発達課題を、自我同一性の確立-拡散としました。これをMarcia, J.が発展させた中で、モラトリアムの概念もつくられました。そして、その考え方を日本社会論に導入したのが小此木啓吾で、モラトリアム人間の時代(中央公論新社)はベストセラーとなりました。

3が正解です。Maslow, A.H.の欲求階層説では、5段階のうち自己実現欲求は存在欲求とされ、それ以外は欠乏欲求とされました。

4、Maslow, A.H.の欲求階層説は、経営学などではなお人気があり、信じている人も多いと聞きますが、実証的には支持されていません。これに代わる考え方に、Alderfer, C.P.のERG理論があります。Eはexistenceですが、哲学的な実存ではなく生物学的な生存の、Rはrelatednessで社会的関係の欲求であり、Gはgrowthで、これが自己実現によく対応する欲求です。

問66 マインドフルネス心理療法

1、これは精神分析の基本的なねらいです。

2、マインドフルネスでは注意をまったく無にするのではなく、「今、ここ」のみへの注意を意識します。また、特にアメリカでは、マインドフルネスは禅と関連づけられたイメージがあるようですが、東洋的な無や空に徹するわけではありません。

3、マインドフルネスは本質的に、外部から不正常な興奮をあおるものとは整合しません。なお、催眠商法は、心理臨床的な催眠導入というよりも、社会心理学的な現象の悪用例です。SF商法とも呼ばれ、このSFは催眠商法を開発した新製品普及会の略です。海外ではどう呼ばれているのか、興味のある人は調べてみてください。

4が正解です。いわゆる第3世代の認知行動療法において、マインドフルネスは重要な考え方のひとつとなっています。よく整理されたものとして、新世代の認知行動療法(熊野宏昭著、日本評論社)を紹介しておきます。

問67 イースターリンのパラドックス

経済学者Easterlin, R.A.は、国際比較データから、単純に経済的な豊かさが高まるほど幸福度が高まっていくわけではないことを示しました。ただし、その一般性や解釈には、今なお議論があります。Nations and Households in Economic Growth: Essays in Honor of Moses Abramovitz(Academic Press)で発表された論文をPDF化したものを挙げておきます。

 Does Economic Growth Improve the Human Lot? Some Empirical Evidence - nytimes.com

また、日本語で見られる近年の類似の知見としては、ウェブ公表されている平成20年版 国民生活白書の、第1-3-2図がわかりやすいと思います。なお、この白書の市販版(時事画報社)では、この図にミスがありますので、気をつけてください。

1が正解です。一般には、豊かさが増して欲求が満たされても、新たに欲求が生じたり、周囲と相対的に比較したりしてしまうためだと考えられています。

2、アメリカでは中年期から着々と幸福度が高まっていくことが知られていますが、日本ではそのようになりません。先ほどの国民生活白書の第1-3-5図で、日米のあざやかな対比を見てください。

3、性別役割分業と幸福との関連については、はっきりしないところです。関連して、対等な夫婦は幸せか(永井暁子・松田茂樹編、勁草書房)という本もあります。

4、どうでしょうか。ちなみに、ホントに長生きするのはどっち?(宝島社)には、離婚と生命予後との関係における性差が紹介されています。

問68 フロー体験の意識と催眠

1が正解です。決まった手続きがあるわけではなく、フローはさまざまな活動の中で得られます。

2、「意識の流れ」のほうがはるかに広い概念で、特別な意識状態をさすものではありませんし、この「流れ」はflowではなく、streamです。

3、活動中に得られますので、動くと消えるようなものではありません。浅い催眠状態に似たところもありますが、別ものです。

4、通常は記憶が抜けおちるほどのことにはなりません。深い催眠状態での後催眠健忘のようなものを起こすことも、むずかしいでしょう。

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