出題解説

記事一覧

問113 認知症の中核症状と周辺症状

BPSDは、直訳は「認知症の行動・心理症状」となりますが、認知症の症状を中核症状と周辺症状とに二分した場合の、周辺症状のほうに対応します。周辺症状は、中核症状に身体、心理、社会的な要因が重なって起こる二次的なものというとらえ方がされますが、問115解説で取りあげる高次脳機能障害とは異なり、進行性で脳の広い範囲にダメージが生じますし、認知症のタイプによっても前面に出やすい症状はまちまちですので、考えてしまうと意外にむずかしいところです。

1、ここで周辺症状であるのは、異食のみです。

2、実行機能障害は中核症状です。

3、記憶障害は中核症状です。

4が正解です。ほかにも、周辺症状にはさまざまなものがあります。対処困難度が高い順に、グループⅠ~Ⅲの3群に分類する考え方もあります。

問114 「センター方式」の認知症ケア

1、MMSEは、略語にせずにミニメンタルステート検査と呼んでも内容がイメージしにくいのですが、認知症のスクリーニングに広く用いられる、11問からなる簡易的な知能検査です。問49解説で取りあげたHDS-Rと同様に30点満点で、こちらもカットオフの定め方や、あるいはそもそも、妥当性に関しても議論はありますが、23点以下で認知症のうたがいありと理解することが一般的です。

2、アルツハイマー病だけでなくピック病も、Alzheimer, A.による研究が知られる、古くから知られる認知症ですが、両者はかなり異なった特徴をもちます。ピック病は、アルツハイマー病と比較して、男性に多く、初期のうちは記憶障害は目だちません。行動障害が早くから顕著で、社会規範に無頓着となり、万引きなどのトラブルをきっかけに発見されることもしばしばあります。

3が正解です。認知症の人のためのケアマネジメントセンター方式、通称「センター方式」は、認知症介護研究・研修センターが開発したことから、この名があります。共通シートなど、特色や具体的な展開については、認知症の人のためのケアマネジメントセンター方式の使い方・活かし方(認知症介護研究・研修東京センター)を参照してください。

4、社会福祉協議会による日常生活自立支援事業は、成年後見制度の適用範囲に入っていないうちに始められますし、制度適用となってからも併用は可能です。任意後見とも併用できます。もちろん、判断能力を欠くようになってからは、事業を使う意味は実質的になくなるでしょう。

問115 高次脳機能障害と失語

1、低次知覚や運動の障害は、高次脳機能障害には含めません。

2が正解です。言語機能が丸ごと失われたのではなく、ことばに表すことへの選択的な障害ですので、表出性失語とも呼ばれます。ブローカ失語という呼び方は、責任病巣である運動性言語野がブローカ野と呼ばれることも含めて、1861年にその症例報告を行ったBroca, P.に由来します。「ブローカー」とは書かないでください。

3、失認では、感覚やほかの認知機能の異常によらずに、あるモダリティから入力された事物の理解が、選択的に障害されます。典型的な視覚失認では、色やかたちの知覚は正常で、その事物の知識もあって想起可能であるのに、実際に見てもその事物だという認識が成立しなくなります。顔を見て誰なのかがわからなくなる相貌失認など、対象が限定的な場合もあります。

4、器質性の疾患ですので、認知リハビリテーションなどが有効とされる一方で、一般的な心理療法は本質的な治療には適しません。二次的な精神症状や実存的な苦痛の改善であれば、射程に入るでしょう。

問116 症例H.M.の逆行性健忘

H.M.は、1953年に受けたてんかんの根治手術にともなって、特定の記憶機能にのみ、重篤で不可逆的な障害を呈しました。知能は術後も高く、研究に協力的であり続けたため、記憶の認知神経科学を大きく革新し、発展させました。主治医によるぼくは物覚えが悪い 健忘症患者H・Mの生涯(S. コーキン著、早川書房)で、その数奇な生涯を知ることができます。そして、2008年に、82歳で亡くなりました。Lancetに載った訃報記事を示しておきます。

 Henry Gustav Molaison, “HM” - The Lancet

1、手術で除去の対象となったのは、海馬を含む両側の側頭葉内側部です。側頭極は、側頭葉で最も吻側に位置し、記憶への関与も指摘されています。

2、短期記憶は術後もほぼ正常でした。また、感覚記憶から、短期記憶を経由せずに、情報が直接に長期記憶へと回ることは、健常者でもみられることです。

3が正解です。手術より前の記憶は、比較的新しいところには想起が困難となる、逆行性健忘が認められましたが、古い記憶には影響がおよんでいませんでした。

4、順向性健忘は顕在記憶に選択的に生じ、新たなエピソード記憶の獲得はほぼ不可能でした。一方で、回転盤追跡課題や不完全線画完成課題などでは、先行経験による明らかな成績向上が現れたことで、想起意識をともなわない記憶である潜在記憶の発見へとつながりました。

問117 パーキンソン病の四徴と分類

1、ホーン-ヤール分類は重症度の分類で、症状の軽い順に、Ⅰ~Ⅴ度を並べます。5段階である原版のほか、ⅠとⅡ、ⅡとⅢとの間に中間段階を足して7段階とする修正版もあります。なお、単一疾患という概念は、精神医学的な疾患には、単一精神病論のような極論は別としても、使いにくいものです。パーキンソン病には、家族性のものでも遺伝子座がばらばらな多くの種類がありますし、パーキンソン症候群やレビー小体病といった、より包括的な枠も有用です。

2が正解です。パーキンソン病の三徴、姿勢反射障害を加えると四徴と呼ばれ、いずれも運動症状です。振戦は、パーキンソン病では力の入っていない状態で起こる安静時振戦が特徴的です。固縮は、筋強剛とも書かれますが、問9解説で取りあげた3類型の闘士型のようなイメージではありません。動作緩慢は、無動とも書かれますが、問26解説で取りあげた昏迷とは異なります。

3、認知症をともなう場合には、抑うつや意欲低下、幻視などが現れやすいとされます。見当識障害や多幸感が見られやすい認知症としては、アルツハイマー型認知症があります。

4、パーキンソン病は介護保険法施行令2条7号に含まれます。特定疾病とまぎらわしい用語ですが、医療における特定疾患でもあり、特定疾患治療研究事業に入ってきました。そして、難病法の指定難病となっています。

ページ移動

  • 前のページ
  • 次のページ