出題解説

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問40 ラバーハンド錯覚と自己所有感

ラバーハンド錯覚は、ゴムの手の錯覚、あるいはすべてカタカナでラバーハンドイリュージョンとも書かれます。

1が正解です。自分のからだが自分のものであるという感じのことです。ラバーハンド錯覚では、触覚と視覚とで対応する入力を続けるうちに、自分のからだではないとわかっているはずの「手」に、自己所有感が生じます。

2、これは自分のからだを動かしたときの、自分で動いたという感じのことです。統合失調症のさせられ体験は、自己主体感が適切に生じないことで生じると考えられています。ラバーハンド錯覚の実験手法では、手を動かさずに行いますので、自己主体感は関係しません。

3、これは文字どおり、自分で自分をよいと評価できて、認められるという感じのことです。Rosenberg, M.のいう自尊感情と、だいたい対応します。

4、これは自分が求めたい結果を出す行動を適切にできるという感じのことです。Bandura, A.の社会的学習理論で重視されます。

問41 鏡に映った自己の理解

1、鏡映認知の現象は、Gallup, G.G.がチンパンジーで得たことが有名です。一方、類人猿でもゴリラにはむずかしいようです。なお、長鼻類や鳥類でも確認されたという報告もありますが、実験手法の相違や、事例的な報告であることなどから、議論があります。

2が正解です。対象には気づかれないように、鏡を使わないと見えない位置に、見えれば注意をひくようなマークをつけて行います。口紅などを用いる実験例から、ルージュテストとも呼ばれます。

3、鏡に映った自己への自己意識的感情は、マークテストの通過と前後して、幼児期に現れるようになります。

4、Lacan, J.は、身近な他者のうつし返しで自己をつかむことを論じていて、鏡そのものである必要はありません。Cooley, C.H.の鏡映的自己の概念と同様です。鏡像段階論は、この思想家の主張にしては比較的理解できる人が多いので、これだけでもよいので知っておきましょう。後期の思想にまで興味がひろがったら、はじめてのラカン精神分析 初心者と臨床家のために(A. ヴァニエ著、誠信書房)をおすすめします。

問42 体性感覚と順応

1が正解です。温度受容器を、温受容器と冷受容器との2種類にわけると、この順応は温受容器の反応が低減することで起こる現象です。

2、中心前回は機能的には一次運動野であって、ホムンクルスを位置づけることができますが、運動系のものになります。一次体性感覚野は、頭頂葉の中心後回にあり、中心前回には、中心溝をはさんで尾側、後ろ側に接する位置になります。

3、指先はとても敏感で、触2点閾は最も狭くなります。全身での大まかな傾向は、Neuroscience second edition(D. Purves他編、Sinauer Associates)のFigure 9.4を、NCBI BookselfのDifferences in Mechanosensory Discrimination Across the Body Surfaceでご覧ください。

4、実際にはありえない3本目の腕を感じる現象は、過剰幻肢と呼ばれ、幻肢の一種ともされますが、ごくまれで、一般的な幻肢ではありません。幻肢とは、事故などのためすでに存在しない身体部位についての、存在感やそこに定位される痛みなどの身体的知覚を生ずる現象です。

問43 痛覚のゲートコントロール説

1、これは意思決定において、前頭前野の関与の下で、リスクのある選択肢には不快な身体感覚がともなうなどして、無自覚的に選択が調整されるとする考え方です。Damasio, A.R.が、デカルトの誤り 情動、理性、人間の脳(筑摩書房)で主張しました。

2、これは感覚モダリティごとに別々の神経系が対応し、個々に生理学的なエネルギーがあるという考え方です。特殊とあるのは、特殊な性質のエネルギーという意味ではなく、spezifischenですので、各モダリティにそこだけに対応する特定的なものという意味あいです。ミュラー管の名前の由来でもある生理学者、Müller, J.P.が主張しました。なお、世界で2番目の心理学教室をひらいたMüller, G.E.や、ミュラー・リヤー錯視の名前の由来でもあるMüller-Lyer, F.C.とは別人です。

3、これは統合失調症の症状を神経生理学的に説明するものです。ドーパミン系にはたらきかけるタイプの薬物が統合失調症に奏効することが経験的に示されてきましたが、修正ドーパミン仮説は、脳内でドーパミン系の活動が変調をきたしたのが統合失調症で、過活動が陽性症状、低活動が陰性症状を生じると考えます。

4が正解です。持続的な二次痛覚を起こすことになる侵害受容器からの入力が、脊髄後角から中枢に入るときに、ほかの触覚入力がこの信号を抑制し、「ゲート」の通過をさまたげると考えます。

問44 性別違和と性同一性障害者特例法

ICD-10や、わが国の行政用語では、性同一性障害という呼び方が使われています。GIDと略されることもあり、専門の学会としてGID学会があります。一方で、DSM-5にこの表現はなくなり、性別違和へと変更されました。

1、性別違和は、身体的ないしは生物学的に明確な性別と、自己の性別に関する信念との不整合とそれによる苦痛、信念に合致する性別への希求によって特徴づけられ、法律上の性別は、本質的には無関係です。

2、同性愛は、性指向が同性へ向かうことであって、定義が別であるばかりでなく、性別違和との重複例も多くはありません。同性愛者の多くにおいて、自身の性別自体に関しての不一致による苦痛が前面に出ることはありません。ちなみに、「ニューハーフ」「おかま」「オネエ」などといった位置づけでメディアに登場する人々には、これらや異性装など、さまざまな表出される性のかたちが、ある程度は意図的に、ぼかして混ぜられているようですので、注意してください。

3、かつてはオペラント条件づけを応用した介入が試みられましたが、期待されたような効果は上がりませんし、倫理的な問題もあるため、不適切な治療手段です。

4が正解です。性同一性障害者特例法3条の定める、審判の要件も確認しておきましょう。

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