出題解説

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問66 マインドフルネス心理療法

1、これは精神分析の基本的なねらいです。

2、マインドフルネスでは注意をまったく無にするのではなく、「今、ここ」のみへの注意を意識します。また、特にアメリカでは、マインドフルネスは禅と関連づけられたイメージがあるようですが、東洋的な無や空に徹するわけではありません。

3、マインドフルネスは本質的に、外部から不正常な興奮をあおるものとは整合しません。なお、催眠商法は、心理臨床的な催眠導入というよりも、社会心理学的な現象の悪用例です。SF商法とも呼ばれ、このSFは催眠商法を開発した新製品普及会の略です。海外ではどう呼ばれているのか、興味のある人は調べてみてください。

4が正解です。いわゆる第3世代の認知行動療法において、マインドフルネスは重要な考え方のひとつとなっています。よく整理されたものとして、新世代の認知行動療法(熊野宏昭著、日本評論社)を紹介しておきます。

問67 イースターリンのパラドックス

経済学者Easterlin, R.A.は、国際比較データから、単純に経済的な豊かさが高まるほど幸福度が高まっていくわけではないことを示しました。ただし、その一般性や解釈には、今なお議論があります。Nations and Households in Economic Growth: Essays in Honor of Moses Abramovitz(Academic Press)で発表された論文をPDF化したものを挙げておきます。

 Does Economic Growth Improve the Human Lot? Some Empirical Evidence - nytimes.com

また、日本語で見られる近年の類似の知見としては、ウェブ公表されている平成20年版 国民生活白書の、第1-3-2図がわかりやすいと思います。なお、この白書の市販版(時事画報社)では、この図にミスがありますので、気をつけてください。

1が正解です。一般には、豊かさが増して欲求が満たされても、新たに欲求が生じたり、周囲と相対的に比較したりしてしまうためだと考えられています。

2、アメリカでは中年期から着々と幸福度が高まっていくことが知られていますが、日本ではそのようになりません。先ほどの国民生活白書の第1-3-5図で、日米のあざやかな対比を見てください。

3、性別役割分業と幸福との関連については、はっきりしないところです。関連して、対等な夫婦は幸せか(永井暁子・松田茂樹編、勁草書房)という本もあります。

4、どうでしょうか。ちなみに、ホントに長生きするのはどっち?(宝島社)には、離婚と生命予後との関係における性差が紹介されています。

問68 フロー体験の意識と催眠

1が正解です。決まった手続きがあるわけではなく、フローはさまざまな活動の中で得られます。

2、「意識の流れ」のほうがはるかに広い概念で、特別な意識状態をさすものではありませんし、この「流れ」はflowではなく、streamです。

3、活動中に得られますので、動くと消えるようなものではありません。浅い催眠状態に似たところもありますが、別ものです。

4、通常は記憶が抜けおちるほどのことにはなりません。深い催眠状態での後催眠健忘のようなものを起こすことも、むずかしいでしょう。

問69 前向き研究とゲノムコホート研究

1、前向き研究は、RCTほどの厳密性はありませんが、長期的な因果関係の発見に関心をおき、通常は定量的手法で行われます。

2が正解です。ゲノム解析は疾患の原因探求を大きく発展させましたが、古典的な前向き研究とは性質が異なりますし、近年機運が高まっているゲノムコホート研究は、前向き研究の枠組みをとります。参考までに、日本学術会議の提言、100万人ゲノムコホート研究の実施に向けてを挙げておきます。ちなみに、英語のgenomeの発音は、「ゲノム」ではありませんので、気をつけてください。ユメタン 3 東大・京大レベル(アルク)でも、発音注意とされていました。

3、前向き研究は相当数の対象者を科学的、客観的な手法で追跡するもので、心理臨床学的な事例検討とはまったく異なります。

4、対義語は後ろ向き研究でよいのですが、アラメダ郡研究、フラミンガム研究、ロッテルダム研究はいずれも、前向き研究として世界的に有名なものです。

問70 健康心理学で用いられる質問紙

1、GHQはGoldberg, D.P.が開発した、心身の健康状態をとらえる質問紙です。原版は60項目で、目的に応じて30、28、12項目の短縮版もつくられています。

2、BDI-Ⅱは21項目からなる抑うつの評価尺度です。認知処理様式のかたよりや習得度を検討できる心理検査にはKABC-Ⅱがあり、こちらは個別式知能検査です。

3、EAT-26は摂食障害傾向をとらえる質問紙です。名前のとおり、26項目からなります。なお、一般に、心理検査のアクロニムの後ろに数字がつく場合、ローマ数字ならその検査のバージョンを、アラビア数字なら項目数を表します。

4が正解です。SF-36は、8種の下位尺度から、健康関連QOLを包括的に測定します。現在は改訂版であるSF-36v2が用いられているほか、短縮版もあります。