出題解説

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問51 「新型うつ病」の気分反応性

新しいタイプのうつ病の問題が広く知られるようになりました。古典的なメランコリー型ではないという文字どおりの意味でも、非定型うつ病と表現が以前からあるほか、現代型、未熟型、逃避型、ディスチミア親和型といったものが提唱され、メディアでも知られる精神科医からは、「社会的うつ病」「30代うつ」「5時までうつ」などの表現も出ています。DSMで見るなら、うつ病とは別のカテゴリで、抑うつをともなう適応障害と考えるほうががなじむという見方もあります。

1、不眠はメランコリー型でよくある身体症状です。「新型」では、むしろ過眠の傾向がみられます。

2、自責感はメランコリー親和型のパーソナリティ特徴とそのまま対応する、自殺にもつながる認知面の症状です。「新型」では、むしろ他責的な傾向がみられます。自分はうつ病で苦しむ被害者で、他人や環境、社会のせいでこうなったと主張します。

3、食欲不振はメランコリー型でよくある身体症状です。「新型」では、食欲はよく出て、不健康そうにやせていくうつ病のイメージとは異なり、太ることも意外にあります。なお、精神科看護白書 2010→2014(精神看護出版)は非定型うつ病の特徴として、「著名な体重増加,または食欲の低下」とDSM-Ⅳにあるように書きましたが、誤りです。DSM-5での表現でみると、「有意の体重増加または食欲増加」です。

4が正解です。明るいできごとで明るい気分に、暗いできごとで暗い気分にと、できごとに反応して気分が変わることを、気分反応性と呼びます。健常者であればあたりまえにあることですが、メランコリー型のうつ病では、気分反応性が大きくそこなわれて、以前に好きだったこと、楽しいはずのことも楽しめなくなります。一方で、「新型」では気分反応性がありますので、うつ病だと公言し、仕事などやりたくないことは受けつけない一方で、休暇や遊びの時間になると存分に楽しめます。そのため、単なる仮病やさぼりだと一蹴されたり、メランコリー型のうつ病の人までさぼりだと誤解されて迷惑したりといった問題を生じます。

問52 自殺率の性差、世代差、地域差

わが国の自殺統計には、内閣府のものと厚労省のものとがあり、やや傾向が異なりますので注意してください。なお、内閣府のものは、近年ですと自殺対策強化月間である3月に、前年の統計が公表されていますので、出題対象の平成25年のものと合わせて、平成26年のものも示しておきます。

 平成25年の状況 - 内閣府

 平成26年の状況 - 内閣府

1、平成25年の自殺者数は27,283人です。1998年から続き、社会問題としてクローズアップされた自殺者3万人超は、2011年までで終わっています。

2が正解です。自殺者の男性の割合の高さはよく知られていますが、さすがに8割までは達しません。男性18,787人に対して女性8,496人ですので、68.9%となります。

3、未成年の自殺は、若い世代から見るといじめ自殺などのイメージがあるようですが、数としてはわずかです。未成年は547人ですので、自殺死亡率としては成人の10分の1程度です。

4、大阪府の自殺死亡率は、全都道府県で3番目に低い値となっています。最も低いのは神奈川県、最も高いのは山梨県です。一般に、中高年のほうが自殺率が高いことから、若い世代が少ない地域ほど、人口比でみると自殺が多くなります。

問53 自殺予防とメディア報道

自殺に関しては、ここで取りあげた予防が重要であることは明らかですが、既遂後の遺族ケアも重要なテーマとなっていますので、合わせておさえておきましょう。なお、既遂後の視点からは、「自殺」という表現を改めるべきという考え方もあります。日精協の要望書を挙げておきます。

 「自殺」呼称の見直しについて(要望) - 日本精神科病院協会

1、厳密に効果を検証することはむずかしいのですが、日中の相談内容からみて、無効ということは考えにくいでしょう。また、自殺対策に主眼をおいた電話相談活動に、24時間対応でないものは多くあります。日本いのちの電話連盟の、全国のいのちの電話のご案内を参照してください。

2、自殺未遂はむしろ、同じ人物がくり返す傾向があります。既遂となったことでくり返しが止むのでは遅いですので、ハイリスク群とみての積極的な支援が求められます。自殺対策加速化プランでは、6番目に「自殺未遂者の再度の自殺を防ぐ」がかかげられました。

3が正解です。大きな自殺報道の後に、後追い自殺とは考えにくい無関係な自殺が増えることが知られていて、Phillips, D.P.はウェルテル効果と呼びました。報道の自由とのバランスはむずかしいところですが、WHOは、メディアが不必要に目立たせたり手段をくわしく知らせたりしないように求めています。横浜市立大学のグループが訳した、自殺予防 メディア関係者のための手引き (日本語版第2版)を参照してください。

4自殺対策基本法が国民に課したのは、6条にある「自殺対策の重要性に対する関心と理解を深めるよう努める」という努力義務のみです。また、ここはそもそも、「すべて国民は」という訳文のような表現が、今日新しく法令をつくるときに使われるとは考えにくい時点で、おかしいと気づくところでしょう。

問54 トランスセオレティカルモデル

トランスセオレティカルモデル(TTM)は、Prochaska, J.O.らによって、禁煙支援の研究から体系化された、ヘルスプロモーションのための行動変容モデルです。「行動変容ステージモデル」と呼んで紹介したものを挙げておきます。

 行動変容ステージモデル - eヘルスネット

1が正解です。形成された健康行動が、ドロップアウトやスリップを起こすことなく、永続的な習慣となっていく段階です。

2は2番目です。上記のサイトでは、「関心期」と訳されています。

3は3番目です。熟考期と順番を逆に誤解されやすいですが、この準備は、健康のために具体的な行動を起こす考えが強まってからのものです。

4は4番目です。これが半年持続すると、維持期へと移行することになります。

問55 プリシード-プロシードモデル

プリシード-プロシードは、親しみにくい名前ですが、PRECEDE、PROCEEDともアクロニムであると同時に、介入実施前に進めていくprecedeと介入後の進行であるproceedとの意味を乗せてあります。Green, L.W.が体系化したプリシードモデルに、介入以降の展開を発展させたものです。MIDORIモデルという和名があり、考案者の名前を意識したアクロニムでもありますが、定着していません。

1、これはトランスセオレティカルモデルの説明です。このモデルについては、問54解説を参照してください。

2、プリシード-プロシードモデルは健康教育のモデルですので、変化を起こすためのものです。なお、弁証法的行動療法(DBT)は、Linehan, M.M.が体系化した、境界性パーソナリティ障害の治療に有効な認知行動療法です。変化と受容という正反で改善をもたらす点が、弁証法的と呼ばれる理由です。

3が正解です。介入へ向けてのプリシードの過程は、社会診断から始まります。なお、プリシードは4段階で表現される場合と、5段階の場合とがありますが、これは疫学診断と行動・環境診断とを、ひとまとめで社会診断の次に置く改訂版か、分けてそれぞれ第2・第3段階とした原版かによります。

4、介入効果の評価は、モデルの後半、プロシードの過程で行われます。