生駒 忍

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認知症サポーターは資格ではないとされます

シリーズ第25弾です。

ワークブック217ページに、「認知症サポーターの資格要件は何か。」と問い、答えは「養成講座の修了」となる一問一答があります。これは、適切ではないように思います。

認知症サポーターの資格要件というからには、認知症サポーターは資格だということになりますが、そうでしょうか。認知症サポーターキャラバンのサイトを見まわしても、「「認知症サポーター養成講座」を受けた人が「認知症サポーター」です。」という、ボーリングによる知能の定義を思わせる定義はありますが、資格だという表現は、どこにもありません。資格ではないとも書かれていません。

ですが、資格ではないという明言は、あちこちでされています。日本農業新聞東北版の、認知症サポーターを養成 介護に生かしてと講座 JAきたかみという記事には、「資格ではないが」とはっきり書かれています。また、公的な報告書にも見つけることができます。「平成24年度 第1回八尾市地域包括支援センター運営協議会」について(報告)を見ると、「認知症サポーターは資格なのか、名前が公開されるのか、また、今後サポーターの活用方法を検討しているのか。」という問いへの回答で、「地域で見守りの目を増やす目的で行っており、資格ではない。」と明言されています。平成21年度第2回高槻市社会福祉審議会高齢者福祉専門分科会でも、「認知症サポーターというのは特に資格ではありません。」という回答があったことが記録されています。なお、これにつながった問いを見ると、「認知症の問題は非常の大きいと思うのですが、認知症サポーター100万人計画の中で、現在1,200人ですね、この方たちは具体的にはどういうものですが。資格をとったらそれはどういう役割をするのですか。」と書かれていますので、この文字どおりの発言だったのかは、やや疑問に思います。そして、資格であることをはっきり否定するこれらに対して、キャラバンが抗議や撤回・訂正要求を行ったとは、いまだに聞いたことがありません。

浦上養育院の設立者は岩永マキだけでしょうか

シリーズ第24弾です。

ワークブック144ページに、明治期の民間による福祉事業がいろいろと取りあげられています。その中に、「明治期の民間慈善事業ではキリスト教の信仰をもつ人々による事業が多く、石井十次らの岡山孤児院、留岡幸助らの家庭学校、石井亮一らの滝乃川学園、野口幽香らによる二葉幼稚園(保育園)、山室軍平らの救世軍、岩永マキの浦上養育院などがある。」とあります。偉人の名前がならび圧巻ですが、他がすべて「ら」をつけているのに、岩永のみ一人で事業を行ったように書かれるのは、適切ではないように思います。

ほかの書籍での書き方を見てみましょう。系統看護学講座 専門基礎分野 社会福祉(医学書院)には、「岩永マキらによる浦上養育院(1874)など」とあります。そして、ほかの偉人については、「石井十次の岡山孤児院(1887),非行少年への感化事業を進めた留岡幸助の家庭学校(1899),知的障害児への療育を開いた石井亮一の滝乃川学園(1891),野口幽香・森嶋みねの二葉幼稚園(1900)など」というように、ワークブックとはほぼ反転しています。社会福祉概論(松井圭三・小倉毅編、ふくろう出版)でも、「ド・ロ神父・岩永マキによる「浦上養育院」、石井十次の「岡山孤児院」、石井亮一の「滝乃川学園」、山室軍平の「救世軍」など」、「留岡幸助によって設立された「家庭学校」」、「貧困児童の保護保育事業「二葉幼稚園」が野口幽香によって設置」とあり、むしろ浦上養育院だけが、一人で設立したものではない位置づけです。朝日 日本歴史人物事典(朝日新聞社)の岩永マキの項には「孤児棄児の養育施設(のちの浦上養育院)を,同志の女性数名と共に開き」、日本社会福祉人物史(上)(田代国次郎・菊池正治編、相川書房)には「1874 (明治7)年岩永マキ、ド・ロ神父などによって浦上養育院が創立」とあり、明治期日本キリスト教社会事業施設史研究(矢島浩著、雄山閣)には「岩永マキらは、浦上養育院を設立すべくして設立したのではない」という表現が出てきます。そして、大正・昭和カトリック教会史(3)(高木一雄著、聖母の騎士社)は、「明治十年(一八七七)、ド・口師創立」とします。

テンニースにはウムラウトがつきます

シリーズ第23弾です。

ワークブック106ページに、「テンニース(Tonnies, F.)によれば、ゲマインシャフトとは、本質意志に基づき、感情的な融合を特徴とする共同体的な社会のこと」とあります。ゲマインシャフトの定義は、これでかまわないと思いますし、「テンニエス」「トェンニース」「テーニス」といった、昔のカタカナ表記でないのも、これでよいでしょう。ですが、テンニースのつづりから、ウムラウトが落ちています。"Tönnies, F."と書くのが適切です。

それとも、このワークブックは、ウムラウトを使わない方針なのでしょうか。そんなことはありません。62ページには、「ケーラー(Köhler, W.)が強調した洞察学習」とあります。

ちなみに、ゲマインシャフトを特徴づけるWesenwilleは、このワークブックでは「本質意志」と訳されていますが、「本質意思」と訳したものも見かけます。福祉領域では東京帝国大学セツルメントで知られる末弘嚴太郎は、どちらも使っているようです。社会福祉士合格ワークブック2013 共通科目編(ミネルヴァ書房)には、「本質意志」と「本質的な意思」との両方があります。Kürwilleのほうも、「選択意志」と「選択的な意思」との両方があります。

パーキンソン病の好発は40歳からでしょうか

シリーズ第22弾です。

ワークブック35ページに、「パーキンソン病は、振戦、固縮、無動(動作緩慢)を三大主徴とし、40~65歳など中年以降に発症しやすい。」とあります。四大症状ではなく、三大というどちらかというと古い考え方でとらえられています。

また、好発年齢が、単純に中年以降と書かれるのではなく、40~65歳などという、必然性のわからない範囲の例示をともなっています。京都府精神保健福祉総合センター心の健康のためのサービスガイドなどによれば、中年は64歳までですし、65歳は高齢者とされることが多いですので、40~65歳という範囲のとり方は、きりがいい数字には見えますが、はっきり数字を書くべき意味のあるくくり方とはいいにくいかもしれません。

好発年齢の下のほうも、印象的にはかなり低いように思われます。もちろん、財団をつくったマイケル・J・フォックスなど、若年性の症例はいろいろありますし、最近では、女性セブン 5月9日・16日合併号(小学館)の記事から火がついた、鷲尾いさ子パーキンソン病説もありました。それでも、40歳がもう、パーキンソン病の好発年齢とされるのは、違和感があります。

疫学の知見をあたってみましょう。BCMJ43巻のEpidemiology of Parkinson's diseaseには、50歳より前では一般的でなく、それから増えていくとあります。Am. J. Epidemiol.157巻のIncidence of Parkinson's disease: Variation by age, gender, and race/ethnicityからも、後ろのほうにあるFigure 1がわかりやすいと思いますが、40歳が好発年齢に入るとは考えにくそうです。Eur. Neuropsychopharm.15巻のPrevalence and incidence of Parkinson's disease in Europeも、同じような印象です。

書籍の中では、どのようにあつかわれているのでしょうか、資格関連のものからいくつかあたってみました。ケアマネジャー試験ワークブック2013(中央法規出版)では、50~60歳代に多いとあります。ケアマネジャー試験 過去問選択肢別パーフェクトガイド2013(中央法規出版)では、「50~60歳代に発症し」とあって、その前後ならならないような書き方です。介護福祉士受験暗記ブック2013(飯塚慶子著、中央法規出版)も、40~65歳を「発症年齢」としていて、以前に精神保健福祉士の暗記ブックに関して指摘した、著者のくせのあるところがうかがえます。MINERVA福祉資格テキスト 社会福祉士・精神保健福祉士 共通科目編(ミネルヴァ書房)は、若年例にも触れながら、数字は出さずに、比較的中高年者に多いとします。系統看護学講座 専門分野Ⅱ 老年看護 病態・疾患論 第3版(医学書院)は、主要症状の数を3とも4ともとれる書き方をしていますが、こちらも数字を出さずに、「中年以降の発症が多く」と書いています。病気がみえる vol.7 脳・神経(メディックメディア)は、試験専用ではありませんが、そういう目的にも適したヴィジュアル満載の本で、そこでは50~70歳代を好発年齢としています。おどろくほど低いのは、登録販売者標準テキスト 医薬品の販売者となるために 改訂版(小野寺憲治・松田佳和編、薬事日報社)で、「40~50歳頃が好発年齢である」と書いています。

さて、先に触れた、鷲尾いさ子パーキンソン病説の震源となった週刊誌記事は、「重病」「完治の難しい病気」「仲村家は深刻な事態」などの表現をならべながら、病名をいっさい出していません。ですが、何らかのかたちですでに病名を知っていると思われる菅原道仁医師の、「50~60才くらいのかたに多い病気」という取材回答がふくまれています。

特例民法法人は11月いっぱいまでです

シリーズ第21弾です。

ワークブック421ページに、法人について説明されています。そこでは、「公益法人は、一般社団法人と一般財団法人とに区分される。」と書かれています。ですが、すぐ後に、「2001(平成13)年制定の中間法人法が廃止され、新たに公益社団法人および公益財団法人の認定制度が設けられた」とあります。この書き方ですと、公益法人は新旧2種類ずつ、合計4種類に分けられるようにも、あるいは、大きな区分は2種類であって、公益社団法人は一般社団法人のうち認定を受けたもの、公益財団法人も同様、というようにも読めてしまいます。

実際のところは、現時点でも、ワークブック公刊の時点でも、6種類に区分されるとみるのが適切です。一般社団法人、一般財団法人、公益社団法人、公益財団法人の4種のほかに、新公益法人制度の前からあるものが特例民法法人となっている、特例社団法人および特例財団法人があります。ただし、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律44条や46条にあるように、特例民法法人は、どちらもことしの11月いっぱいまでしか存続できません。