生駒 忍

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パーキンソン病の好発は40歳からでしょうか

シリーズ第22弾です。

ワークブック35ページに、「パーキンソン病は、振戦、固縮、無動(動作緩慢)を三大主徴とし、40~65歳など中年以降に発症しやすい。」とあります。四大症状ではなく、三大というどちらかというと古い考え方でとらえられています。

また、好発年齢が、単純に中年以降と書かれるのではなく、40~65歳などという、必然性のわからない範囲の例示をともなっています。京都府精神保健福祉総合センター心の健康のためのサービスガイドなどによれば、中年は64歳までですし、65歳は高齢者とされることが多いですので、40~65歳という範囲のとり方は、きりがいい数字には見えますが、はっきり数字を書くべき意味のあるくくり方とはいいにくいかもしれません。

好発年齢の下のほうも、印象的にはかなり低いように思われます。もちろん、財団をつくったマイケル・J・フォックスなど、若年性の症例はいろいろありますし、最近では、女性セブン 5月9日・16日合併号(小学館)の記事から火がついた、鷲尾いさ子パーキンソン病説もありました。それでも、40歳がもう、パーキンソン病の好発年齢とされるのは、違和感があります。

疫学の知見をあたってみましょう。BCMJ43巻のEpidemiology of Parkinson's diseaseには、50歳より前では一般的でなく、それから増えていくとあります。Am. J. Epidemiol.157巻のIncidence of Parkinson's disease: Variation by age, gender, and race/ethnicityからも、後ろのほうにあるFigure 1がわかりやすいと思いますが、40歳が好発年齢に入るとは考えにくそうです。Eur. Neuropsychopharm.15巻のPrevalence and incidence of Parkinson's disease in Europeも、同じような印象です。

書籍の中では、どのようにあつかわれているのでしょうか、資格関連のものからいくつかあたってみました。ケアマネジャー試験ワークブック2013(中央法規出版)では、50~60歳代に多いとあります。ケアマネジャー試験 過去問選択肢別パーフェクトガイド2013(中央法規出版)では、「50~60歳代に発症し」とあって、その前後ならならないような書き方です。介護福祉士受験暗記ブック2013(飯塚慶子著、中央法規出版)も、40~65歳を「発症年齢」としていて、以前に精神保健福祉士の暗記ブックに関して指摘した、著者のくせのあるところがうかがえます。MINERVA福祉資格テキスト 社会福祉士・精神保健福祉士 共通科目編(ミネルヴァ書房)は、若年例にも触れながら、数字は出さずに、比較的中高年者に多いとします。系統看護学講座 専門分野Ⅱ 老年看護 病態・疾患論 第3版(医学書院)は、主要症状の数を3とも4ともとれる書き方をしていますが、こちらも数字を出さずに、「中年以降の発症が多く」と書いています。病気がみえる vol.7 脳・神経(メディックメディア)は、試験専用ではありませんが、そういう目的にも適したヴィジュアル満載の本で、そこでは50~70歳代を好発年齢としています。おどろくほど低いのは、登録販売者標準テキスト 医薬品の販売者となるために 改訂版(小野寺憲治・松田佳和編、薬事日報社)で、「40~50歳頃が好発年齢である」と書いています。

さて、先に触れた、鷲尾いさ子パーキンソン病説の震源となった週刊誌記事は、「重病」「完治の難しい病気」「仲村家は深刻な事態」などの表現をならべながら、病名をいっさい出していません。ですが、何らかのかたちですでに病名を知っていると思われる菅原道仁医師の、「50~60才くらいのかたに多い病気」という取材回答がふくまれています。