生駒 忍

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暗記ブックの要注意部分

以前に、精神保健福祉士受験暗記ブック2013(飯塚慶子著、中央法規出版)に関して、国試出題への的中と、3年前とくらべての改善とについて、述べました。ですが、そういったことが評価できる一方で、誰にでもすすめられる本かというと、そうでもない面もあります。ごろ合わせの暗記テクニックなどが、出おくれ気味の人向けのような雰囲気を出しているのですが、説明が少なく、とにかく四角い表に表されていくつくりは、私からみると、ある程度わかっている人が、おさらいやだめ押しに使うことに向いているように思えます。

また、くせがありますので、あまりされないような書き方のところや、そのままでは誤解してしまうところ、そもそも誤っているところなどを、頭の中で訂正しながら読めるくらいになってからのほうが、より失敗がないように思えます。よく分かっていない段階で、書いてあるとおりを丸暗記するのでは、少々危うげです。そこで、どのようなところに注意しておくべきなのかを、抜粋、順不同で、示してみます。

・「ウェクスラー式知能検査の検査問題」という表がありますが、これはWAISの内容です。WPPSIやWISCは、こうではありません。WISC-Ⅳにいたっては、言語性-動作性の区分論からも離れています。

・ビネー式知能検査が適用できるのは、2歳からです。田中も鈴木も同じです。1歳児にビネー式を施行するようすを想像してみてください。

・感覚記憶の容量が、「わずかな部分」となっていて、さすがに落ちつきません。短期記憶のほうが「7±2チャンク」なのは、目をつぶることにしましょう。

・「第1種と間違えやすい第2種社会福祉事業」の表は、着想はとても親切だと思います。社会福祉法2条の丸暗記は負担が大きいですので、入所の「○○ホーム」と通所の「○○センター」という大まかな見わけ方を先に示しておいた上で、それではまちがいやすいものだけを個別に押さえるやり方は、合理的です。ですが、児童発達支援センターがこの表に入った理由が、どうしても理解できません。名前だけでも、機能を考えても、ふつうの第2種事業だと思うのがふつうではないでしょうか。どこをどうとらえると第1種のように思えてしまうのか、私にはわかりません。

・レビー小体型認知症の発症時期が、「不明」になっています。たしかに、ADなどにくらべれば、研究がおくれている認知症疾患なのですが、こういうあつかい方をされるほどではないでしょう。とりあえず、日本神経病理学会ウェブサイトの脳・神経系の主な病気をみると、50代から70代に多いとあります。

・ヒストグラムを「棒グラフのこと」と書いていますが、ふつうはどのように使いわけるのかに注意すべきものです。

・広場恐怖の症状を、「トンネル、飛行機に恐怖を感じる」と述べたのでは、たしかにそういうことも起こるとはいっても、単一恐怖のほうとまぎらわしいです。そういえば、昨年暮れには「脱トンネル」が話題になりましたね。

・ラウントリーの第2次貧困は「お金の使い方が悪い」からというのは、正論ですがぎょっとする表現です。小野市福祉給付適正化条例案が、頭にうかびます。

・「ケアホームとグループホーム」の表で、グループホームには生活支援員が「いない」とありますが、そうは限りません。必置ではないというだけでしょう。そうでないと、たとえば緘黙症当事者と家族の小体験記集第4集に、うそを書いている人がいるということにもなってしまいます。

・ピアジェの発達段階での形式的操作期の年齢のめやすが「11~15」歳となっていますが、形式的操作期に終わりはありません。

・「脳梗塞(脳卒中の1つ)の種類」の表で、脳血栓の発症は「安静時」とありますが、活動中ならば起こらないということはないと思います。

・LASMIについて、尺度項目がたった5項目ということはありません。表も、復習問題も、どちらも要注意です。

・食中毒のところの復習問題は、答えはもちろん×で合っています。ですが、「腸炎ビブリオの説明である」とは、必ずしもいえません。ここの問題文の表現であれば、まだ食中毒というイメージがあまり持たれていませんが、アニサキス症もよくあてはまります。こう書くと、食中毒事件票の「病因物質の種別」欄にアニサキスが明示されたのはことしの1月なので、この暗記ブックが出た時にまだ考慮していなくてもしかたがないのではと、反論したくなる方もいるかもしれません。もっともなように思えますが、失礼ながら、もう一歩です。食中毒統計作成要領の別表2の「その他」に、「クリプトスポリジウム、サイクロスポラ、アニサキス等」と明示する改定は、20世紀のうちに行われています。また、この時の課長通知には、「原虫及び寄生虫による飲食に起因する健康被害についても食中毒としての取扱いを明確にするため」だとあります。

・「国民年金法実施」が、1961年ということになっています。実施という表現も気になりますが、拠出制の国民年金の部分が施行されたのがその年であるのが有名であるだけで、国民年金法附則にあるように、基本的には1959年11月に施行されて、ここで無拠出制の福祉年金が始まっています。

・カバーの裏表紙のほうに、この本の特徴である、ごろ合わせの例が部分的に出ています。これはくせ者です。それらしく見えるのですが、実際には、本体の中には、これと同じものはどこにも見あたらないのです。いわゆるジャケット詐欺でしょうか。さらに、よく見てみると、むしろ載っているはずのなさそうな内容であることが分かります。相馬事件と、精神病者監護法成立と、1897年とを結びつけるごろ合わせなのですが、1897年とはいったい、何にどう結びつく年なのでしょうか。監護法の、条約改正契機説ではなく、条約改正実施契機説のほうを指したいのでしょうか。この分量の本であつかうには、マニアックに過ぎるように思います。当然、どちらの説も、本体の中に出てくることはありません。ですが、相馬事件自体は有名ですので、ごろ合わせとして登場しています。それが、こちらは相馬事件と、監護法と、1883年とを結びつけるものなのです。この年なら、かんたんに理解できます。相馬事件の幕開けとなった、錦織剛清の建白書と告発は、1883年の12月のことです。つまり、カバーとは異なり、こちらはきちんとつじつまが合っているのです。では、カバーにもそれを、そのまま載せればよいところを、1897年という謎の年に差しかえたのは、なぜなのでしょうか。しかも、それに合うごろ合わせまで作って、もっともらしく作ってあるので、誤植などではなく、意図的に作りなおした可能性が高いのです。