精神保健福祉士受験暗記ブック2013は、中央法規出版が毎年出している精神保健福祉士国家試験対策本のひとつで、その中ではおそらく、最もくせのあるものだと思います。小さな判型で、情報量よりも見やすさを優先したつくりですので、これで学べる量はわずかです。しかも、同時発売の社会福祉士受験暗記ブック2013とは、共通科目の部分などを使い回しています。それでも、このシリーズは、毎年ある程度売れているようですし、試験会場に持ちこんで、ぎりぎりまでこれにかじりつく人さえいます。
私も、くせの強さが気になってしまうこともあって、以前は失礼ながら、あなどっていました。ですが、いわゆる「新カリキュラム」最初の試験となった今年の出題を見なおすと、この小さな一冊に厳選されていたポイントをつかんでおくだけでも、多少の力になることがわかってきました。印象的な例を挙げると、共通の問題78は、諾成・双務契約を選択させるシンプルな設問で、民法をかじったことのある人には、サービス問題のようなものです。ですが、これはたとえば、あのワークブック共通科目編をすみずみまで探しても、423ページに「諾成主義」が理解できる一文があるだけですので、福祉ひと筋でしか学んでこなかった人には苦しそうです。いっぽう、暗記ブックをみると、典型契約についてまとめた表が、140ページに出てきています。表には12種類の契約が並んでいて、民法をふつうに学んだ人は、13にはなっていないことに困惑しそうですが、これは組合、終身定期金、和解を表の外に出してしまい、委任と寄託とは片務契約の場合と双務契約の場合とをそれぞれ分けたことによります。この配慮の上に、表の上には赤で囲みが二つ並んで、双務のおさえ方と、要物・諾成の分け方とを提案しています。みごとな的中です。
そうは言っても、さらに調べてみると、新カリキュラムに伴う変化などを推測して、今年の出題を当てる勝負をしかけていたわけでもなさそうだということが見えてきます。私の手もとには、この暗記ブックのシリーズは、今年のものと、2010年版との2種類があります。2010年は、共通科目が重なる社会福祉士のほうの「新カリキュラム」の最初の年で、そのためカバーと表紙との両方に「新試験対応」と書いてあります。そこで、この2冊を比べてみると、内容はかなりの部分が重なっています。たとえば、先ほど触れた典型契約の表は、2010年版ですと122ページに、まったく同じものが載っています。表の上についた囲みのデザインに変化があるだけで、あとはそっくりなのです。他の内容についても、法律や制度が変わったところは当然変わっていますが、そうでもない限りはかなり安定しています。このようすですと、今回あらたにねらいをつけたのではなく、おそらくは毎年同じものを載せ続けていて、その中に今回の出題に当たったものがあったということなのではないかと思います。ルーレットやドボンで見かける、いつまでも同じ数をねらい続けるやり方のようなものですね。もちろん、間の2011年版や2012年版は、持っていないので確認できていません。ひょっとすると、毎年同じなのではなく、3年周期で回していて、そのために2010年版と2013年版とならば合致するという可能性も、一応は考えられますが、どうでしょうか。