出題解説

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問116 症例H.M.の逆行性健忘

H.M.は、1953年に受けたてんかんの根治手術にともなって、特定の記憶機能にのみ、重篤で不可逆的な障害を呈しました。知能は術後も高く、研究に協力的であり続けたため、記憶の認知神経科学を大きく革新し、発展させました。主治医によるぼくは物覚えが悪い 健忘症患者H・Mの生涯(S. コーキン著、早川書房)で、その数奇な生涯を知ることができます。そして、2008年に、82歳で亡くなりました。Lancetに載った訃報記事を示しておきます。

 Henry Gustav Molaison, “HM” - The Lancet

1、手術で除去の対象となったのは、海馬を含む両側の側頭葉内側部です。側頭極は、側頭葉で最も吻側に位置し、記憶への関与も指摘されています。

2、短期記憶は術後もほぼ正常でした。また、感覚記憶から、短期記憶を経由せずに、情報が直接に長期記憶へと回ることは、健常者でもみられることです。

3が正解です。手術より前の記憶は、比較的新しいところには想起が困難となる、逆行性健忘が認められましたが、古い記憶には影響がおよんでいませんでした。

4、順向性健忘は顕在記憶に選択的に生じ、新たなエピソード記憶の獲得はほぼ不可能でした。一方で、回転盤追跡課題や不完全線画完成課題などでは、先行経験による明らかな成績向上が現れたことで、想起意識をともなわない記憶である潜在記憶の発見へとつながりました。

問117 パーキンソン病の四徴と分類

1、ホーン-ヤール分類は重症度の分類で、症状の軽い順に、Ⅰ~Ⅴ度を並べます。5段階である原版のほか、ⅠとⅡ、ⅡとⅢとの間に中間段階を足して7段階とする修正版もあります。なお、単一疾患という概念は、精神医学的な疾患には、単一精神病論のような極論は別としても、使いにくいものです。パーキンソン病には、家族性のものでも遺伝子座がばらばらな多くの種類がありますし、パーキンソン症候群やレビー小体病といった、より包括的な枠も有用です。

2が正解です。パーキンソン病の三徴、姿勢反射障害を加えると四徴と呼ばれ、いずれも運動症状です。振戦は、パーキンソン病では力の入っていない状態で起こる安静時振戦が特徴的です。固縮は、筋強剛とも書かれますが、問9解説で取りあげた3類型の闘士型のようなイメージではありません。動作緩慢は、無動とも書かれますが、問26解説で取りあげた昏迷とは異なります。

3、認知症をともなう場合には、抑うつや意欲低下、幻視などが現れやすいとされます。見当識障害や多幸感が見られやすい認知症としては、アルツハイマー型認知症があります。

4、パーキンソン病は介護保険法施行令2条7号に含まれます。特定疾病とまぎらわしい用語ですが、医療における特定疾患でもあり、特定疾患治療研究事業に入ってきました。そして、難病法の指定難病となっています。

問118 心理学関連の国家資格

1が正解です。根拠法は、言語聴覚士法です。

2、日本音楽療法学会認定音楽療法士が、最もよく知られる「音楽療法士」でしょう。音楽療法については、問61解説も参照してください。

3、臨床心理士は民間資格です。臨床心理技術者の国家資格は、半世紀にわたり目ざされてきましたが、長く学界内外の政治に翻弄され、公認心理師法が成立したのは2015(平成27)年のことです。国家資格である公認心理師の取得要件は、学歴等によって異なりますので、あたらしいこころの国家資格「公認心理師」になるには(浅井伸彦著、秀和システム)などを参考にしてください。

4、日本心理学会が一定の単位取得に対して認定するものです。資格名にわざわざ「認定」とつけてあるところから、国家資格でないとわかります。基礎資格としての位置づけで、心理学検定1級の取得において優遇の特例があります。

問119 精神保健福祉士法の「指導」

4が正解です。精神保健福祉法41条2項にあります。この「指導」が、社会福祉士及び介護福祉士法や、理学療法士及び作業療法士法、言語聴覚士法などで使われている、3の「指示」とはどのように意味が異なるのかも、確認しておきましょう。

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