生駒 忍

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ソシオメトリーは集団心の計測ではありません

シリーズ第20弾です。

ワークブック66ページに、「集団の心理的な特徴を数学的に研究することを、ソシオメトリーという。」とあります。これは、誤解をまねく表現であると思います。

ソシオメトリーは、特定個人の回答だけでは成立せず、集団が調査対象であることが求められます。ですが、マクドゥーガルの集団心のような、集団自体が持っていると想定されたものを見るわけではありません。もちろん、ごく広義にとって、たとえばThe SAGE encyclopedia of social science research methods vol. 1(SAGE Publications)にある、"forms of measurement in the social sciences that are concerned with measurement through SCALES"という定義もあるにはあるのですが、この場合は特に心理的なものに限ることもないでしょう。また、計算処理はたしかに行われるとしても、数学的に研究するというイメージでとらえるのは、やや不自然に思えます。なお、Research methods for criminology and criminal justice 3rd ed.(M.L. Dantzker & R. Hunter著、Jones & Bartlett Learning)では、定量的研究法ではなく、定性的研究法として、エスノグラフィーやフィールド観察と同じカテゴリに分類されます。

女性介護者に年齢不詳者がいます

シリーズ第19弾です。

ワークブック111ページに、「「国民生活基礎調査」(平成22年)によれば、要介護者と同居している主な介護者は配偶者が最も多く、次に、子、子の配偶者になり、その約7割は女性である。(図6参照)。」とあります。句点の使い方が、明らかに誤っています。また、「国民生活基礎調査」が指しているものについて、混乱をまねく書き方になっています。

国民生活基礎調査は、厚生労働省が行っている年1回の全国調査です。標準社会福祉用語事典[第2版](秀和システム)を見ると、"Comprehensive Survey of Living Condition of the People on Health and Welfare"という英名となっていますが、厚労省の英語サイトでは、Comprehensive Survey of Living Conditionsと書かれています。国民生活基礎調査規則4条2項にあるように、3年ごとの大規模調査と、その間の2年での簡易調査からなっていて、今年は大規模調査が予定されています。その前の大規模調査は、2010年に行われていて、結果は1年後の2011年に概況がウェブ上で公表され、2012年に刊行されました。調査の結果を刊行したものも「国民生活基礎調査」と題していて、大規模調査の年は全4巻からなります。ワークブックにあるデータは、平成22年 第2巻で扱われているものです。ですが、ワークブックの書き方では、平成22年に刊行された「国民生活基礎調査」、つまり平成20年 国民生活基礎調査を指しているようにも読めてしまいます。もちろん、この2010年に刊行されたものには介護に関する調査データがないことを知っている人でしたら、誤解のしようがないのですが、不親切な書き方であると思います。

ここで参照されている図には、「図6 要介護者等との続柄別にみた主な介護者の構成割合2010(平成22)年」というタイトルがついています。この書き方であれば、2010年の刊行ではなく、2010年時点の調査結果であることがわかりやすいですので、あとは年の前にスペースを入れてあると、なおよかったと思います。なお、図の右下に、「主な介護者の年齢不詳の者を含まない。」という注記があります。意味のとりにくい表現ですが、これは厚労省の発表からそのまま載せていることによります。平成22年国民生活基礎調査の概況 Ⅳ-3に、画像化されて字がつぶれぎみですが、まったく同じ表現があります。計算するとわかりますが、女性のほうに、調査票の年齢の欄を飛ばしたのでしょうか、ある程度の不詳者がいるようです。

社会福祉法人以外への融資も目的にあります

シリーズ第18弾です。

ワークブック201ページに、「独立行政法人福祉医療機構(WAM)は、社会福祉法人に資金を融資する目的で設置され、2003(平成15)年より独立行政法人となった。」とあります。このワークブックでは、独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園を単に「のぞみの園」と書く、法人格を略す表記もとっている一方で、ここに対しては常に、法人格をつけています。ここの文では、独立行政法人の名前を示していますが、独立行政法人としてのところを書きたいのか、それとも独立行政法人になる前から続いているものとしてのところを書きたいのか、わかりにくくなっています。また、その目的について、誤解をまねくように思います。

福祉医療機構の設置目的は何でしょうか。独立行政法人福祉医療機構法3条によれば、社会福祉法人への融資ももちろんありますが、それ以外への融資や、融資以外の活動も、目的になっています。3条2項は、個人向けの小口融資を目的として明示しています。

筆者は、独立行政法人になる前の時点での目的を取りあげたかったのかもしれません。そこで、社会福祉・医療事業団法を見てみましょう。1条は、ふつうですとその法律の目的をかかげるところですが、この法律では、法律で設置する対象の目的が1条にあります。それによると、「社会福祉事業施設の設置等に必要な資金の融通その他社会福祉事業に関する必要な助成、社会福祉施設職員退職手当共済制度の運営、心身障害者扶養保険事業の実施、病院、診療所等の設置等に必要な資金の融通並びに社会福祉事業施設及び病院、診療所等に関する経営指導を行い、もつて社会福祉の増進並びに医療の普及及び向上を図ること」が目的だということになります。やはり、社会福祉法人への融資もありますが、それ以外への融資や、融資以外の活動も、目的となっていました。ちなみに、社会福祉・医療事業団法への全面改正のためになくなったこの法律は、法庫でも見ることはできますが、誤字があります。

さらにさかのぼって、合併前の設置目的を見てみましょう。社会福祉事業振興会については、社会福祉事業振興会法1条によれば、「社会福祉法人に対し社会福祉事業施設の経営に必要な資金を融通し、その他社会福祉事業に関し必要な助成を行い、もつて社会福祉事業の振興を図ること」が目的だということです。これですと、融資対象は社会福祉法人ということになり、筆者の表現との対応がよくなります。ですが、実際には、23条2号にあるように、それ以外への融資も法定化されています。また、昭和33年度版厚生白書の、第二部第三章第一節六の(三)では、「(1)社会福祉法人に対して、社会福祉事業施設の修理、改造、拡張、整備、災害復旧等に要する資金または施設経営に必要な資金の貸付と、(2)社会福祉事業の振興を目的とする事業を行う者に対して資金を貸付けまたは助成を行うこと」が目的だとあります。

社会福祉振興会は、社会福祉・医療事業団の前身のひとつではあるのですが、ほかに医療金融公庫も事業団の前身であって、振興会と公庫とが合併してできたのが、社会福祉・医療事業団です。医療金融公庫は、医療金融公庫法1条によれば、「国民の健康な生活を確保するに足りる医療の適正な普及向上に資するため、私立の病院、診療所等の設置及びその機能の向上に必要な長期かつ低利の資金であつて一般の金融機関が融通することを困難とするものを融通すること」が目的だということになります。こちらには、社会福祉法人ということばは、ひと言もでてきていません。

障害基礎年金受給権者は法定免除です

シリーズ第17弾です。

ワークブック290ページに、国民年金の保険料についての説明があります。その中に、「国民年金の第1号被保険者には、保険料免除制度があり、生活扶助受給者、障害年金基礎受給権者などには法定免除、所得がない者などには申請免除(4区分ある)がある。」とあります。この表現は、適切ではありません。

障害年金を受ける権利については、基礎受給権というものが定められているわけではありません。応用や発展もありません。障害年金自体には、障害基礎年金、障害厚生年金、障害共済年金の3種類があります。ここでは、「障害基礎年金受給権者」と表現するのでしたら、意味が通ります。

ちなみに、ワークブックでは「など」に含めてある、やや毛色の異なる法定免除として、国民年金法施行規則74条2号や、74条の2に基づくものも知ってあってよいかもしれません。このあたりについては、たとえば、鹿児島市のサイトにある国民年金の保険料の法定免除のページも、わかりやすいと思います。ですが、「収容」という表現には、ぎょっとしてしまいます。

『セッツルメントの研究』は大正期の出版です

シリーズ第16弾です。

ワークブック145ページに、大正デモクラシー期を中心としたわが国の福祉史が概観されています。その中に、「1926(昭和元)年には、大林宗嗣によって『セツルメントの研究』が著された。」とあります。これは、正しくありません。

まず、書名です。正しくは、セッツルメントの研究です。当時の原書だけでなく、復刻版(日本図書センター)や、新訂版(慧文社)も、まったく同じで「ッ」が入ります。原書は、奥付には「セツツルメントの研究」とありますし、扉には、当時の横書きですので今とは逆向きで、「究研のトンメルツッセ」とありますが、「セツルメントの研究」と書かれたところはありません。このワークブックも含めて、福祉系資格の受験関連のものには、「セツルメントの研究」という表記が意外にあるようで、ウェブ上でも見かけます。また、ウェブ検索からは、出版社を「同人者書店」と書いたり、刊行年を1927年としたりといったまちがいも、ちらほらと見つかります。正しい出版社名は同人社書店で、扉には「社 人 同・京 東」とあります。

また、刊行年は、1926年ではあるのですが、昭和元年ではありません。昭和への改元は、この年の12月25日のことでした。この本は、奥付を見ると、大正十五年二月十日印刷、大正十五年二月十八日発行とありますので、昭和になってからのものではありません。刊行年ではなく、著述した時期だとしても、それより後ということはありえません。ちなみに、この本は、大正10年の「ソーシアル・セッツルメント事業の研究」を改稿したものということでもあるのですが、本人は序で、「全然それとは別個のものとして執筆したものであると云つてよい」と言いきっています。

なお、このワークブックは、わが国で初のセツルメントについて、2説をさらりと併記する配慮を見せています。岡山・花畑の日曜学校(岡山博愛会)と、有名なキングスレー館とです。ですが、かつては他の考え方もありました。日本セッツルメント研究序説(西内潔著、宗高書房)は、相愛夜学校と南部日曜学校を端緒とみています。『セッツルメントの研究』はというと、「我國のセッツルメント事業で最も早く設立されたものは東京府豊多摩郡淀橋町柏木にある有隣園」と書いていて、これは1911年の創設です。