生駒 忍

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グループ適用制度には特例子会社が必要です

シリーズ第5弾です。

ワークブック516ページに、障害者雇用率制度に関する諸制度の説明があります。そこの側注に、「2009(平成21)年4月から、特例子会社がない場合であっても、企業グループ全体で雇用率を算定するグループ適用制度が創設された。」とあります。これは、適切ではありません。

実雇用率を複数の事業主で通算できる制度のうち、最初につくられたのは、障害者雇用促進法44条に基づく特例子会社制度です。その後、2002年には45条によるグループ適用制度が、2009年には45条の2による企業グループ算定特例と、45条の3による事業協同組合等算定特例とが始まり、現在のかたちになりました。グループ適用制度については、厚労省のウェブサイトの、「特例子会社」制度の概要にある図が、わかりやすいと思います。いっぽう、企業グループ算定特例については、「企業グループ算定特例」(関係子会社特例)の概要に説明があります。そして、見ればすぐわかるように、ワークブックの記述で説明されていたのは、グループ適用制度ではなく、企業グループ算定特例のほうです。特例子会社がなければ、グループ適用制度を適用することはできません。

呼び方が似ているために、混同しやすいのでしょう。労働実務事例研究 平成22年版(労働新聞社)にも、当時まだ始まって間もない企業グループ算定特例について、「グループ会社のグループ適用制度」という、とてもまぎわらしい表現で問うところがありました。精神保健福祉士受験暗記ブック2013(飯塚慶子著、中央法規出版)には、「雇用率算定の特例」という表があり、このまぎらわしい2制度に対して、「違いに注意!」と付記して注意をうながしています。なお、この表では、45条の3に基づくと思われる制度には、「事業協同組合等算定特例等」という呼び方がされています。

育児休業法の育児休業は1年6か月までです

シリーズ第4弾です。

ワークブック293ページに、厚生年金保険の保険料に関する説明があります。そこに、「育児休業法による育児休業を取得期間中の者は、育児休業中の被用者年金の保険料が免除される(事業主負担も免除)。同様に、健康保険など被用者医療保険も保険料が免除される。」とあります。ここまでは、まちがいではないでしょう。育児・介護休業法という、より一般的な略称を使っていないことが、やや気になるくらいです。ですが、続いて「免除期間は3年である。」とあって、たしかに最大3年までの免除が可能になっているとはいっても、このように並べてしまうと、誤解をまねくように思います。

育児休業がどれだけ認められるかは、常勤の公務員なら子どもが3歳になるまでですし、民間企業であれば、法定外で自由に長く定めることもできます。ですが、文中には、育児休業法による育児休業とあります。育児休業法2条1号の定義からは、9条の3を除くこの法律でいう育児休業は、原則1歳まで、5条3項の適用で1歳6か月までが、この法律で認められる育児休業です。これを超す、3歳までの範囲は、引きつづき保険料の免除ができても、24条にある努力義務のほうにあたり、育児休業の制度に準ずる措置という位置づけがされます。厚労省が4年前の改正に応じてつくった、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律の概要の5ページの図では、「育児休業」と「育児休業に準ずる措置」と呼びわけています。健康保険法43条の2は、「育児休業等」という用語で、両者をくくっています。

ちなみに、産前・産後休業は、労働実務事例研究 平成24年版(労働新聞社)にも出た話題ですが、「育児休業等」には含まれません。ですが、近いうちに保険料免除の対象になることは決まっていますので、気をつけてください。

中央社会事業協会への改称は1924年です

シリーズ第3弾です。

ワークブック144ページに、今日の全国社会福祉協議会の源流となった、中央慈善協会に関する記述があります。先に「1908(明治41)年には渋沢栄一が中央慈善協会の初代会長となり」という話題を出してから、少し後で「1908(明治41)年10月に慈善事業の活動を組織的、計画的に行う必要性から、調査・連絡機関として中央慈善協会が設立された。」と説明されるのは、読みにくい構成ですが、内容はまちがいではありません。ですが、これに続いて、「その後、社会事業という名称の一般化に伴って、1922(大正11)年に中央社会事業協会と改称された。」とあります。これは、正しくありません。

この団体の歴史についての情報がととのっている、全国社会福祉協議会の100周年のページというコーナーを見てみましょう。大正期のページによれば、中央慈善協会は、まず1921年3月に、社会事業協会に改称しています。そして、1924年3月に財団法人となり、中央社会事業協会へと、ふたたび改称しています。ワークブックにある1922年という年ですが、この団体については、少なくとも年表に載せるようなできごとは、改称も含めて特に何もなかったようです。

社会福祉辞典(誠信書房)では、中央社会事業協会への改称が、1921年であったように書かれています。これはおそらく、社会事業協会への改称と混同したのだと思います。なお、この団体が1922年に何かしたというようなことは、この辞典でも見あたりませんでした。

EITCが定率なのは一部区間だけです

シリーズ第2弾です。

ワークブック176ページに、「アメリカの稼得所得が一定額未満である場合に定率(率は稼得所得区間ごとに異なる)給付を行う稼得所得税額控除(EITC)が注目されている」とあります。1975年に創設されたEITCは、何度も改正されて今では、The Oxford Handbook of the Economics of Poverty(P.N. Jefferson編、Oxford University Press)によれば反貧困プログラムとして最大のもののひとつ、The Political Junkie Handbook(M. Crane編、Spi Books)によればメディケイドの次に大きい低所得者支援プログラムとなっています。近年のわが国において、低所得者支援のあり方への関心が高まる中で、運用実績のあるこの制度が注目を浴びているのは、たしかにそうでしょう。ですが、EITCについてのこの説明は、わかりにくい上に、まちがいを含んでいます。

この制度のイメージは、Tax Policy Centerのサイトの"The Tax Policy Briefing Book: A Citizens’ Guide for the 2012 Election, and Beyond"から、Taxation and the Family: What is the Earned Income Tax Credit?を見れば、親切なグラフですぐ理解できます。横軸が稼得所得、つまり平たく言えばお給料で、縦軸が控除額です。どの台形でも、0からしばらくは切片0、傾きが正の直線で、臨界水準に達すると平らになり、そしてしばらくすると直線的に下がっていきます。どの台形が当てはまるかは、結婚しているかどうかと、子どもの数とで決まります。なお、ここに出ているグラフは、昨年のものですが、数値がやや変わるだけで、今年もパターンは同じです。今年の数値は、内国歳入庁のサイトから、Preview of 2013 EITC Income Limits, Maximum Credit Amounts and Tax Law Updatesを見てください。

これをふまえて、ワークブックの表現を、頭から順に見ていきましょう。まず、「アメリカの」、これは問題ありません。いくつかの州、およびワシントン特別区では、連邦政府のEITCに独自のものを上乗せしていますが、この表現と矛盾することにはなりません。次に、「稼得所得が一定額未満である場合に」、これは誤解をまねく表現です。EITCの適用開始の基準は、一定額で誰でも同じになっているのではありません。台形の一番右の角の位置は、家族構成によって大きく異なります。そして、「定率(率は稼得所得区間ごとに異なる)給付を行う」、これは適切ではありません。台形の左側の辺にあたる、フェイズインの間だけは、たしかに定率ですが、上辺の範囲ではずっと決まった額ですので、定率ではなく定額ですし、その後のフェイズアウトはどちらでもありません。定率の範囲でも、その率を決めるのは稼得所得ではなく、家族構成です。

女性のデュシェンヌ型筋ジストロフィー

シリーズ第1弾です。

ワークブック37ページに、デュシェンヌ型進行性筋ジストロフィーが、2回登場します。一つ目は、表10で、遺伝による先天性障害の中に、「(男性のみ)デュシェンヌ型進行性筋ジストロフィー」とあります。一方、二つ目は、表からみて右下にある側注で、「X染色体劣性遺伝で重症型のデュシェンヌ型進行性筋ジストロフィーが最も頻度が高く、男児に多く発症する」というものです。男性のみというはっきりとした限定と、少ないけれど男児以外にもみられることを言外に示す書き方との、どちらもがあるのです。ここで困惑した方も、多いのではないでしょうか。

矛盾をさけるなら、デュシェンヌ型は男性にだけ起こり、そのうち多くが子どものうちに発症すると解釈することができるでしょう。「男児」とは呼べない年代になってからの発症もあるととらえれば、二つは両立します。ですが、直観的には信じがたいところです。思いつくかぎりの症例からも、発症メカニズムから考えても、おとなになってからの発症は、想像しにくいです。正式な診断がおとなになってからということならば、発展途上国などの医療環境の整っていない地域では、あるかもしれません。それでも、デュシェンヌ型の症例が、そういう環境でおとなになっても生き続けることは、むずかしいようにも思います。MedlinePlusのデュシェンヌ型筋ジストロフィーの記事では、通常20歳までには呼吸が困難になり、25歳までに死亡するとあります。

私は、筆者、少なくとも側注の筆者の意図は、そうではないと考えています。デュシェンヌ型が伴性遺伝によることは、よく知られているとおりですが、女性の発症例もあります。もっとも理解しやすいのは、X染色体を1本しか持たないターナー症候群で、母親が保因者だった場合に、発症することがあるのです。また、神経難病情報サービスには、その他のパターンによる女性発症例も示されています。さらに、「女性」の定義によりますが、原理上は、アンドロゲン不応症やMtF-GIDでの症例も、可能性としては考えられそうです。

二十歳もっと生きたい(草思社)の福嶋あき江も、デュシェンヌ型の女性症例だったのでしょうか。身体的にも、性自認も女性だったことは、確実でしょう。そして、筋ジストロフィーを生きる(梅崎利通著、朱鳥社)では、デュシェンヌ型であったことを示唆する書き方がされています。21ページから22ページにかけて、福嶋のこの著書を紹介した上で、すぐ次の段落を「一方、デュシェンヌ型以外の筋ジス者の文献はようやく1988年になって、安達哲男『心は生きている』(思想の科学社)に始まる。」と書き出しています。

精神保健福祉士国家試験過去問解説集2013(中央法規出版)の475ページには、「伴性遺伝のため,患者はほとんどが男性で,女性はX染色体を2本もっているために発症することは大変まれである。」とあります。これなら、ずっと適切な書き方であるといえるでしょう。なお、標準社会福祉用語事典[第2版](秀和システム)にも、ワークブックに似た混乱があります。262ページに、本文では「男児のみに発症するデュシェンヌ型」とあり、ページ下部にある「進行性筋ジストロフィー症の代表的な3病型」という表では、デュシェンヌ型は「通常男性のみ」とされています。ただし、こちらは、おとなの男性を持ちだす解釈にはいたらないところが異なります。