生駒 忍

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女性のデュシェンヌ型筋ジストロフィー

シリーズ第1弾です。

ワークブック37ページに、デュシェンヌ型進行性筋ジストロフィーが、2回登場します。一つ目は、表10で、遺伝による先天性障害の中に、「(男性のみ)デュシェンヌ型進行性筋ジストロフィー」とあります。一方、二つ目は、表からみて右下にある側注で、「X染色体劣性遺伝で重症型のデュシェンヌ型進行性筋ジストロフィーが最も頻度が高く、男児に多く発症する」というものです。男性のみというはっきりとした限定と、少ないけれど男児以外にもみられることを言外に示す書き方との、どちらもがあるのです。ここで困惑した方も、多いのではないでしょうか。

矛盾をさけるなら、デュシェンヌ型は男性にだけ起こり、そのうち多くが子どものうちに発症すると解釈することができるでしょう。「男児」とは呼べない年代になってからの発症もあるととらえれば、二つは両立します。ですが、直観的には信じがたいところです。思いつくかぎりの症例からも、発症メカニズムから考えても、おとなになってからの発症は、想像しにくいです。正式な診断がおとなになってからということならば、発展途上国などの医療環境の整っていない地域では、あるかもしれません。それでも、デュシェンヌ型の症例が、そういう環境でおとなになっても生き続けることは、むずかしいようにも思います。MedlinePlusのデュシェンヌ型筋ジストロフィーの記事では、通常20歳までには呼吸が困難になり、25歳までに死亡するとあります。

私は、筆者、少なくとも側注の筆者の意図は、そうではないと考えています。デュシェンヌ型が伴性遺伝によることは、よく知られているとおりですが、女性の発症例もあります。もっとも理解しやすいのは、X染色体を1本しか持たないターナー症候群で、母親が保因者だった場合に、発症することがあるのです。また、神経難病情報サービスには、その他のパターンによる女性発症例も示されています。さらに、「女性」の定義によりますが、原理上は、アンドロゲン不応症やMtF-GIDでの症例も、可能性としては考えられそうです。

二十歳もっと生きたい(草思社)の福嶋あき江も、デュシェンヌ型の女性症例だったのでしょうか。身体的にも、性自認も女性だったことは、確実でしょう。そして、筋ジストロフィーを生きる(梅崎利通著、朱鳥社)では、デュシェンヌ型であったことを示唆する書き方がされています。21ページから22ページにかけて、福嶋のこの著書を紹介した上で、すぐ次の段落を「一方、デュシェンヌ型以外の筋ジス者の文献はようやく1988年になって、安達哲男『心は生きている』(思想の科学社)に始まる。」と書き出しています。

精神保健福祉士国家試験過去問解説集2013(中央法規出版)の475ページには、「伴性遺伝のため,患者はほとんどが男性で,女性はX染色体を2本もっているために発症することは大変まれである。」とあります。これなら、ずっと適切な書き方であるといえるでしょう。なお、標準社会福祉用語事典[第2版](秀和システム)にも、ワークブックに似た混乱があります。262ページに、本文では「男児のみに発症するデュシェンヌ型」とあり、ページ下部にある「進行性筋ジストロフィー症の代表的な3病型」という表では、デュシェンヌ型は「通常男性のみ」とされています。ただし、こちらは、おとなの男性を持ちだす解釈にはいたらないところが異なります。