生駒 忍

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EITCが定率なのは一部区間だけです

シリーズ第2弾です。

ワークブック176ページに、「アメリカの稼得所得が一定額未満である場合に定率(率は稼得所得区間ごとに異なる)給付を行う稼得所得税額控除(EITC)が注目されている」とあります。1975年に創設されたEITCは、何度も改正されて今では、The Oxford Handbook of the Economics of Poverty(P.N. Jefferson編、Oxford University Press)によれば反貧困プログラムとして最大のもののひとつ、The Political Junkie Handbook(M. Crane編、Spi Books)によればメディケイドの次に大きい低所得者支援プログラムとなっています。近年のわが国において、低所得者支援のあり方への関心が高まる中で、運用実績のあるこの制度が注目を浴びているのは、たしかにそうでしょう。ですが、EITCについてのこの説明は、わかりにくい上に、まちがいを含んでいます。

この制度のイメージは、Tax Policy Centerのサイトの"The Tax Policy Briefing Book: A Citizens’ Guide for the 2012 Election, and Beyond"から、Taxation and the Family: What is the Earned Income Tax Credit?を見れば、親切なグラフですぐ理解できます。横軸が稼得所得、つまり平たく言えばお給料で、縦軸が控除額です。どの台形でも、0からしばらくは切片0、傾きが正の直線で、臨界水準に達すると平らになり、そしてしばらくすると直線的に下がっていきます。どの台形が当てはまるかは、結婚しているかどうかと、子どもの数とで決まります。なお、ここに出ているグラフは、昨年のものですが、数値がやや変わるだけで、今年もパターンは同じです。今年の数値は、内国歳入庁のサイトから、Preview of 2013 EITC Income Limits, Maximum Credit Amounts and Tax Law Updatesを見てください。

これをふまえて、ワークブックの表現を、頭から順に見ていきましょう。まず、「アメリカの」、これは問題ありません。いくつかの州、およびワシントン特別区では、連邦政府のEITCに独自のものを上乗せしていますが、この表現と矛盾することにはなりません。次に、「稼得所得が一定額未満である場合に」、これは誤解をまねく表現です。EITCの適用開始の基準は、一定額で誰でも同じになっているのではありません。台形の一番右の角の位置は、家族構成によって大きく異なります。そして、「定率(率は稼得所得区間ごとに異なる)給付を行う」、これは適切ではありません。台形の左側の辺にあたる、フェイズインの間だけは、たしかに定率ですが、上辺の範囲ではずっと決まった額ですので、定率ではなく定額ですし、その後のフェイズアウトはどちらでもありません。定率の範囲でも、その率を決めるのは稼得所得ではなく、家族構成です。