生駒 忍

記事一覧

起立性調節障害の患者の保護者グループの結成

きょう、北日本新聞社のサイトであるwebunに、不登校の一因、理解深めて 起立性調節障害、保護者がグループ結成という記事が出ました。なお、webunにまだ登録していない場合には、リンク先の記事を読むことができないようになっていますので、ご理解ください。

これは、起立性調節障害の患者の保護者のグループができたというニュースです。治療研究への公費投入や学校での特別あつかいをはたらきかける運動団体ではなく、学習グループや自助グループという色あいの集まりのようです。

この活動は意義があると思いますが、では何という団体なのでしょうか。第2回の会合がきょうになっていますので、すでに活動実体はあるのですが、何と名のっているのでしょうか。記事内では、グループという呼び方で、最後にある連絡先までずっと通されています。まさか、「グループ」という名前の団体なのでしょうか。「シーア派」も「ソヴィエト」もあるのだから、「グループ」だっていいではないかと言われたとしても、私には受けいれにくい命名です。

団体結成の記事なのに、立ちあげた人の名前も、まったく出てきません。「グループを立ち上げたのは、ODに悩む中学2年の長女を持つ県西部の女性。」とあって、この発起人はそのあとも「女性」とだけ呼ばれて、一度も氏名が出てきません。事務局も電話番号だけです。記事中に出てくる個人名は、土居悠平と田中英高との2名だけで、後者は、起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応(中央法規出版)などの著書がある、ODの取材ならあたって当然という有名な方です。それでも、心理学の世界から見ると、さらにその父親のほうが、自転車事故から命を落としてしまいましたが、今でももっと有名だと思います。

さて、このように地方紙のローカル記事に紹介された「グループ」ですが、対象範囲は、富山ローカルなのでしょうか、それとも全国を広く意識しているのでしょうか。記事の1文目で、「県内の保護者が、互いの悩みを共有し、支え合うためのグループ」と読んでしまうと、富山限定だと理解することになりますが、主述の関係からは「県内の保護者が」「グループを結成した」と読むのが適切ですから、対象範囲まではわかりません。拠点が富山にあるとはいっても、研究会時代から富山に事務局をおいている日本情動学会の例もあります。また、よく見ると、発起人の住所が県西部、第2回の会合は県民会館で開催されることはわかりますが、では拠点が富山かというと、記事からはよくわからないのです。「連絡先はグループの事務局」とあって、電話番号が出ているところの、市外局番を見てください。

からだの疲れ、脳の疲れ、授業中の疲れ

きょう、ライフハッカー日本版に、脳が疲れているとエクササイズにも悪影響を及ぼすことが判明という記事が出ました。10日ほど前にNew York Timesのサイトに載った、How Intense Study May Harm Our Workoutsという記事を整理したような記事で、だいじな部分はそのまま訳して転載しています。

出所の論文をきちんと読んでいないのですが、興味深い研究であるように思われます。この論文を見つけた記者が、紹介したくなるのもわかります。一方で、この孫引きのような日本語記事には、気になるところがいくつかあります。

まず、研究者の位置づけです。「イギリスのケント大学とフランスの国立保健医学研究所は合同で」と書かれると、両機関の研究課題として取りくまれたようで、とても仰々しい印象を受けてしまいます。NYTの表現では、"scientists from the University of Kent in England and the French Institute of Health and Medical Research"となっていて、こちらが妥当でしょう。

次に、研究対象者です。一貫して「被験者」と書かれていますが、これは今日の心理学では、一般には好ましいと考えられていないものです。もしかするとと思い、NYTの記事をひととおりながめてみましたが、subjectsはどこにも登場していませんでした。訳に対応するところを見ると、NYTではthe men、they、volunteersといったぐあいで、それをまとめて「被験者」に読みかえたようなのです。ですが、訳したほうとしては、「被験者」という日本語はよく知られた、なじみのある自然な日本語だと判断したのだと思います。大げさかもしれませんが、研究倫理ともかかわるところですので、心理学の研究に「被験者」はなじまないというイメージが、早く定着してほしいものです。

そして、タイトルです。「脳が疲れている」は、引っかかってしまう表現です。海馬 脳は疲れない(池谷裕二・糸井重里著、新潮社)が頭にうかんだ方も多いでしょう。今度は、先ほどのものと異なり、NYTのほうでもbrainのこととして書かれていて、頭から"Tire your brain and your body may follow"と書きだすほどです。ライフハッカーでは、タイトルと訳して転載した部分とのほかには「脳」が登場しませんので、NYTよりもひかえめに思えます。日本語では「頭が疲れる」と言えることの影響も考えられて、ここの訳でもbrainを「脳」と「頭」とに訳し分けています。では、頭が疲れるのは、科学的な厳密さを求めてはいけない、ふつうの慣用句とみるべきでしょうか。さらに、目が疲れるのはほんとうに「目」の疲れなのか、肝臓の疲れもよく耳にする、膣が疲れるという表現もまれにあるが、などと考えていくと、いろいろとむずかしく、頭をひねるこちらの脳が疲れてしまいそうです。

一般に、からだに疲れがたまったときは、眠くなりがちですし、早く睡眠をとるのが健康のためでしょう。すると、お子様上司の時代(榎本博明著、日本経済新聞出版社)にある、授業中に寝るなと注意すると「ここで寝たいんです」と返されるお話は、今回の知見を考えると、もっともらしく思えてきます。むずかしい、あるいは盛りだくさんな学びに満ちた授業では、「脳」が疲れてしまい、もうノートをとるだけでへとへとに感じるのかもしれません。そうなれば、「頭」に入れることは二の次で、とにかく睡眠をとろうと動機づけられるのでしょう。

SNSへの不適切投稿をする人の心理と心理学

きょう、msn産経ニュースに、アルバイトの不適切投稿防止へ SNSに特化した教育機関オープンへという記事が出ました。タイトルを見て、SNS上で教育を行うのかと思ってしまいましたが、実際は、主催者のところへ出向かせての講習というかたちのようです。

記事の中ほどに、「法律やITの専門家ら複数の講師が担当し、これまでのSNSへの不適切な投稿例を紹介し、気の緩みなどから非常識な画像を投稿する心理を解説。」とあります。「3時間程度の1回完結型」に、講師を複数用意するのは、力が入っているとも、非効率ともいえそうですが、そこに心理の専門家は挙げられていません。「心理を解説」する内容なのにと、少し引っかかってしまう方もいるでしょう。ですが、少なくともアカデミックな心理学者には、こういう切りとり方は、あまり得意ではないことが多いと思います。こういうというのは、「~する(人の)心理」というものです。どうみても心理のお話なのですが、心理学はこういう切りとり方を、あまりしませんし、一方で、外では相当な需要があります。たとえば、教えて!gooの無理やり酒を飲ませる人の心理を見ると、この問い自体だけではなく、画面右にある「このQ&Aを見た人がよく見るQ&A」にも、このタイプのものがびっしりとならびます。発言小町にも、毎日ランチ画像を送ってくる新人など、いくらでもあるパターンです。

逆に、心理学がきちんと取りあげてきたものが、ほかの学問の人に横どりされているようなことも、よく見かけます。れっきとした認知心理学の知見が、行動経済学や「脳科学」のもののようにされていることは、めずらしくありません。また、ホリデーオート 2013年10月号(モーターマガジン社)には、いわゆる「若者のクルマ離れ」を、認知的不協和で解釈する記事がありましたが、これが社会学の概念ということにされていました。もちろん、心理学ではもう古い考えなのは、前にも取りあげたRessurectionというブログの、To doという記事にもうかがえますし、あなたへの社会構成主義(ナカニシヤ出版)などの著作で知られるK.J. ガーゲンが、40年も前に認知的不協和理論を突き、そして社会心理学全体を突いたことも有名でしょう。

楽器練習の認知コントロールへの影響の報道

セント・アンドルーズ大学の研究グループによる、楽器練習が認知コントロールに影響する可能性を示す研究が、報道に乗りつつあります。その論文は、ScienceDirectで全文公開がはじまっています。

 Jentzsch, I., Mkrtchian, A., & N. Kansal (in press).
Improved effectiveness of performance monitoring in amateur instrumental musicians. Neuropsychologia.

時差の関係もありますが、きのうあたりから、各地の報道機関が次々に取りあげています。主なものを挙げてみましょう。

 BBC News: Playing musical instrument 'sharpens mind' says St Andrews study

 Mail Online (Daily Mail): Forget brain training: Playing a musical instrument can sharpen your thoughts - and help ward off depression and dementia

 University Herald: Playing musical instruments helps avoid mental illness, study

マスコミ関係で、もっと早くから取りあげていたのは、Pacific Standardです。隔月刊の紙媒体ではなく、トム・ジェイコブスという記者によるブログ記事で、研究がていねいに紹介されました。アメリカン・ジョークもついています。

 Want quick, accurate thinking? Ask a musician

一方、わが国ではまだ、取りあげたところが見あたりません。これからでしょうか。以前に書いた、「情けは人のためならず」調査の報道のぶれでの読売のようなこともありますので、まだ可能性はあります。

大紀元には、きょう掲載されました。BBCからというかたちをとっています。

 研究:音乐家的大脑“更敏锐”

「延奇」とあるのはもちろん、清朝王族ではなく、Jentzschの音写です。カタカナがなければ、何ごとも漢字なのです。そういえば、PHP 2013年8月号(PHP研究所)で金田一秀穂が、カメレオンを漢字で書くのがわからないと書いていました。

高齢者の社会的孤立は何の原因でしょうか

きょう、ヨミドクターに、高齢者万引き、10代上回るという記事が出ました。心理学者への取材も含まれています。

気になったのは、「高齢者の社会的孤立」が原因のひとつだというのが、何の原因をさしているのかがはっきりしない書き方にされていることです。高齢者の万引きの原因でしょうか、それともその増加、ないしは未成年との順位逆転の原因でしょうか。万引きの一因に社会的孤立があることは、とてもうなずけるところで、これは高齢者にかぎったことではないでしょう。一方、今回の万引き件数の変化は、社会的要因を考えなくても、単に高齢者の数が増えたことで説明できそうにも見えます。神奈川県年齢別人口統計調査平成25年統計表の表1をご覧ください。