生駒 忍

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ヨミドクター記事「カウンセラーになるには」

きょう、ヨミドクターで、木曜日恒例となっているからだコラムの更新がありました。「遺伝のはなし」シリーズの最終回として、カウンセラーになるにはと題したコラムが公開されました。

このタイトルだけでは、誤解をまねきそうですが、内容はすべて、認定遺伝カウンセラーという民間資格についてです。「認定遺伝カウンセラーになる方法を尋ねる方がいらっしゃいますので」という理由で、今回はコラム全体が、その紹介文になっています。

最後の段落で、「認定遺伝カウンセラーは全国にまだ138人しかいません。」とあって、おどろいた方もいるかもしれません。認定遺伝カウンセラー制度委員会ウェブサイトには、「2013年2月現在」「わが国で」「活躍をしてい」る人数としてなら、ちょうどこの数が示されています。一方、認定遺伝カウンセラー資格取得者(2012年12月現在)としては、140人の氏名が明らかにされています。

その15人目にいるこれの筆者は、コラムの最後にはいつも、「昭和大病院認定遺伝カウンセラー」という肩書きを使っています。昭和大学病院が認定しているようにも見えてしまい、誤解をまねきそうなところがやや心配です。「昭和大病院遺伝カウンセラー」と書けば、その問題はなくせますが、いかがでしょうか。

また、気になる用法は、「遺伝のはなし」シリーズの初回、「多様性」 環境適応に大切の時にもありました。「私は、遺伝や遺伝子に関わる認定遺伝カウンセラーという仕事をしています。」と自己紹介しているのですが、この書き方は、認定の2文字までをふくめて、仕事の名前だという位置づけをしています。遺伝カウンセラーという職種があって、それに民間団体が対応づけた資格が認定遺伝カウンセラーだというかたちで、カウンセリング実践ハンドブック(丸善)でもあつかわれていますし、私の理解もそうだったのですが、ここではそうではないようです。

年金アドバイザー4級テキストの要注意部分

明解 年金の知識 2012年度版(山崎泰彦・小野隆璽著、経済法令研究会)という本があります。はしがきに、「思い切って枝葉を刈り込み,コンパクトな解説を心掛けた」、「入門的な基礎知識としては,この程度で十分」などとあるように、年金制度の大まかな骨組みを述べた一冊です。見ひらきごとに話題をまとめ、図表をふんだんに加えて、わかりやすく書かれています。

本文中にはどこにも書かれていませんが、銀行業務検定の年金アドバイザー4級を受けるのでしたら、実はこれが、実質的なテキストになります。200ページもない分量ですが、これ一冊を頭に入れれば、すべて正答できるはずです。労災保険関係の年金や議員年金はまったく取りあげられていませんが、このあたりは出題されません。一方、退職金の課税方式のような、年金そのものとは別の話題も載っていますが、試験には退職金控除に関する計算問題が出ています。福祉領域のテキスト等ではあまり学べない確定拠出年金も、この本にはもちろん載っていて、出題もされます。私は、退職金控除も確定拠出年金も解けましたが、満点でなかったということは、はずかしながらこの本の分量も入りきっていなかったということになります。

さて、この本は、コンパクトによくまとまっていて、年金アドバイザー4級を受けない人にもすすめられるよい本だと思うのですが、適切とはいえない記述もあります。いずれも、試験で直接問われることはなさそうなところですが、いくつか挙げておきたいと思います。

・66ページに、福祉施設規定の見なおしについて述べられています。そこに、「年金福祉施設の設置等の根拠であった,被保険者等の福祉を増進するために「必要な施設をすることができる」旨の規定を廃止する」とあります。規定がなくなったのは、その通りです。ですが、旨と書かれていますが、かぎかっこ内はこの本の筆者が主旨をまとめたものではなく、当時の法規にあった表現そのままです。日本語としておかしいのですが、筆者の問題ではなく、かつての厚生年金保険法79条、「政府は、被保険者、被保険者であつた者及び受給権者の福祉を増進するため、必要な施設をすることができる。」からそのまま引きうつしたものです。

・96ページに、国民年金の学生納付特例について述べられています。そこに、「在学する大学が学生納付特例事務法人の指定を受けていれば,平成20年4月より,在学する大学等の窓口での申請が可能」とあります。「在学する大学」と「在学する大学等」との両方が出てきますが、これは前のほうを修正して、そちらも「在学する大学等」とするべきでしょう。なお、国民年金法109条の2にあるように、厳密には教育施設ごとではなく法人単位で指定を受けるのが学特事務法人制度です。

・136ページに、障害年金の障害認定日について述べられています。そこに、「心臓ペースメーカーおよび人口弁については装着したとき」とあります。正しくは、人工弁です。見るまでもないとは思いますが、国民年金・厚生年金保険障害認定基準 平成24年9月1日改正の「第3 障害認定に当たっての基準」の、1章11節2(10)に規定されています。

・161ページに、「退職金制度の形態」と題した表があります。一連のデータの出典が下に示されていますが、平成9年以前は労働省、平成20年については厚労省の調査で、では平成15年はというと、書かれていません。この年ですので、もう厚労省のはずです。探すまでもないと思いますが、就労条件総合調査 平成15年版(厚生労働省大臣官房統計情報部編、労務行政)に同じ数値がありますので、出典はこれだと判断できます。

資格を続けてとりました

ことしは資格をとってみようと思い、せっかくですので、対象分野はばらばらな4件を、いきおいをつけてまとめて受験してみました。1月26日・27日に精神保健福祉士、2月17日にビジネス・キャリア検定試験 労務管理3級、2月24日に日本やきもの検定3級、3月3日に銀行業務検定試験 年金アドバイザー4級、というぐあいです。カレンダーの上では3か月にまたがりましたが、4件で36日間ですので、期間は1か月強ということになります。ホブズボームをまねて、「長い2月」とでもいうところでしょうか。なお、この期間のすぐ後、3月5日には、これは試験はないのですが、衛生推進者養成講習を修了しました。

結果は、4件とも合格でした。精神保健福祉士は、厚労省の登録簿への登録もすませました。それぞれについて、私の正答数/問題数、正答率、合格最低ライン正答数・同正答率、合格率を示しておきます。

精神保健福祉士
 正答数/問題数 117/163
 (正答率) 72.8%
 合格最低ライン正答数 72
 (同正答率) 44.2%
 合格率 56.9%

労務管理3級
 正答数/問題数 72/80
 (正答率) 90.0%
 合格最低ライン正答数 44
 (同正答率) 55%
 合格率 62%

日本やきもの検定3級
 正答数/問題数 77/80
 (正答率) 96.3%
 合格最低ライン正答数 60
 (同正答率) 75%
 合格率 [未公表]

年金アドバイザー4級
 正答数/問題数 47/50
 (正答率) 94.0%
 合格最低ライン正答数 30
 (同正答率) 60%
 合格率 61.77%

後のもののほうが、高い得点が得られています。どれも大して勉強しなかったのですが、これではまるで、だんだん頭がなれていっているようで、ふだんまったく勉強していないのがばれているようにも見えます。ですが、受けた印象としては、難易度のちがいも大きいように思います。労務管理3級は、この得点でも偏差値が70以上となったそうで、優秀者表彰をいただきました。一方、年金アドバイザー4級は、これでも受験者2388名での89位ということで、正規分布だとしたら偏差値70に届かないことになります。なお、日本やきもの検定3級は、合格率が未公表で、公式サイトが昨年末から更新されていませんので、公表される見こみもうすいのですが、意外にむずかしかったのかもしれません。鈴木秀明という有名な資格マニアが、今回もまた受けて、また不合格だったそうです。

ピグマリオン効果が正解です

第15回精神保健福祉士国家試験について、例年どおり、いろいろなところが模範解答を発表しています。その中で、やまだ塾というところが、共通の問題9は正答なしだという判断を出しています。

問題9は、心理的効果に関する正しい記述をひとつ選ばせるという設問でした。「心理的効果」というくくり方には違和感がありますが、取りあげられたのは、ピグマリオン効果、スリーパー効果、ハロー効果、アナウンスメント効果、ブーメラン効果という、古典的なものばかりです。「ピグマリオン効果とは,自分が相手に対してある期待を持つと,自分自身が意識しないうちに当該期待に沿った行動を,自らがとってしまうという行動傾向をいう。」とある選択肢1が正解だろうということは、やや表現に気になるところはあるにしても、心理学者ならまずまちがいませんし、他の選択肢も見れば一目瞭然です。私も職業上、正答できるのはあたりまえなのですが、これは混乱をまねく出題ではないかと、解きながら心配していました。

やまだ塾の判断はというと、ピグマリオン効果を「人間は期待された通りの成果を出す傾向」と定義して、そのため誤りとしました。そして、他の選択肢も誤りなので、問題9は正答なしと結論したのです。私はこれを見て、やはりという思いでした。たしかに、特に通俗書や入門書などで、ピグマリオン効果の定義は、そのような意味あいのものになりがちです。ですので、そういったものでしか学んでいなければ、この設問での表現では、誤っているのではと感じてしまうのも、無理のないことです。しかし、他者へのある期待が、その他者に実現されるという関係の間には、期待をもった人がそれに影響された行動をこの他者に対してとるようになるという過程があり、この中核的な部分を指して、ピグマリオン効果という用語をあてることもあります。むしろ、こちらのほうが本来の、あるいは本質的なピグマリオン効果だという見方もあるでしょう。そういったことを考えれば、やまだ塾の主張は、挙げた定義がうそだというわけではありませんが、そうでない場合を見おとしていて、正解なしという判断を下してしまったのだということになります。

もちろん、私としては、やまだ塾を非難したいわけではありません。このような設問では、悪問とは断じませんが、混乱があるだろうと思っていたところ、やはりそうだったということで、立場上言いにくいのですが、出題者のほうに責めがあるように感じてしまいます。ですが、基礎的な用語ばかりを問いながら、心理学を深く学んだ人だけが解けると考えると、良問という解釈もできるかもしれません。ちなみに、今回の一番の悪問は、問題77だと思っています。

受験者が使っている参考書でも、やまだ塾が示したものと同じような書かれ方がされていたでしょうか。そこで、定評のある中央法規のものから、手もとにある社会福祉士・精神保健福祉士受験ワークブック2013(共通科目編)精神保健福祉士受験暗記ブック2013とを確認したところ、ワークブックのほうでは「他者に対する期待が成就されるように機能すること」(p. 68)とあり、今回の問題でも迷いにくい定義になっていて、少し安心しました。暗記ブックには、載っていませんでした。

さて、問題の問題9に関して、やまだ塾の解説に指摘を足しておきましょう。スリーパー効果の説明は、誤りとは言いませんが、信憑性の低いほうの変化を挙げるほうがよかったと思います。また、アナウンスメント効果にある「減少」は「現象」と、ブーメラン効果にある「山椒」は「最初」と書きたかったのだと見てよいでしょう。

第15回精神保健福祉士国家試験

おとといからきのうにかけて、第15回精神保健福祉士国家試験が実施されました。

今回は、いわゆる「新カリキュラム」での初めての試験でしたので、いままでとはいろいろと変わるのではないかと心配していた方も、多かったのではないかと思います。結果的には、精神保健福祉士国家試験のあり方に関する検討会の精神保健福祉士国家試験の今後のあり方についてに目を通しておけば、それほどおどろくことはなかったように感じます。「精神保健福祉士国家試験の出題の難易度は標準的であるべき」という基本的な考え方が守られたかどうかは、議論が分かれる気がしますが、「単に記憶を問う出題ではなく、実際の現場に必要となる考え方を問う出題形式の出題を増やしていくべき」とあることをすなおに反映して、事例問題の割合が増えました。一部に導入された「五者択二」形式も、資源を選ぶときに一つだけに厳選する必要はないというような、より実際的な判断場面を作りたかったためではないでしょうか。新しくカリキュラムに加わった更生保護制度も、さっそく出題されました。

難問奇問も交ざってくるのは、以前からあったことですが、おもしろかった設問としては、2問を挙げたいと思います。一つは、専門の問題17です。固有名詞をうまく使って、ひっかけをたくさん組みこんであります。「いのちの電話」はとても有名で、さすがにまちがわないと思いますが、「チャイルドライン」を子育て支援につなげてみたり、「日本生産性本部」という、まるでティトマスの産業的業績達成モデルのような、福祉は二の次のように読めてしまうものが正解だったりというアイデアは、よく考えついたものだと思います。「ナルコティクスアノニマス」は、問題48に「ナラノン」という表記でまた出してしまったのはうっかりかもしれませんが、語源のναρκόωが思いうかんだり、睡眠発作をおこすナルコレプシーを連想したりすると、ひっかかります。そして、秀逸なのは「波の会」です。双極性障害の波にひっかけるとは、周期があまりに長すぎますが、それらしく思えてしまうのがみごとです。

もう一つは、共通の問題82です。認知症高齢者の事例で、それなりにありそうなネガティブな展開についていきながら読み進めると、最後は第三者後見人の同意で開頭手術が行われるという記述で終わっていて、一気についていけなくなります。しかし、実はそこがまさに出題意図で、ついていけなくなった人はもう解けていて、ついていけてしまった人はつまずいてしまいやすい設問でした。内容としては、ぜひきちんと解けてほしい題材の問題でしたが、今回は問題数が増えて、この設問までついていけなかった人もいたかもしれないのが、残念なところです。