生駒 忍

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年金アドバイザー4級テキストの要注意部分

明解 年金の知識 2012年度版(山崎泰彦・小野隆璽著、経済法令研究会)という本があります。はしがきに、「思い切って枝葉を刈り込み,コンパクトな解説を心掛けた」、「入門的な基礎知識としては,この程度で十分」などとあるように、年金制度の大まかな骨組みを述べた一冊です。見ひらきごとに話題をまとめ、図表をふんだんに加えて、わかりやすく書かれています。

本文中にはどこにも書かれていませんが、銀行業務検定の年金アドバイザー4級を受けるのでしたら、実はこれが、実質的なテキストになります。200ページもない分量ですが、これ一冊を頭に入れれば、すべて正答できるはずです。労災保険関係の年金や議員年金はまったく取りあげられていませんが、このあたりは出題されません。一方、退職金の課税方式のような、年金そのものとは別の話題も載っていますが、試験には退職金控除に関する計算問題が出ています。福祉領域のテキスト等ではあまり学べない確定拠出年金も、この本にはもちろん載っていて、出題もされます。私は、退職金控除も確定拠出年金も解けましたが、満点でなかったということは、はずかしながらこの本の分量も入りきっていなかったということになります。

さて、この本は、コンパクトによくまとまっていて、年金アドバイザー4級を受けない人にもすすめられるよい本だと思うのですが、適切とはいえない記述もあります。いずれも、試験で直接問われることはなさそうなところですが、いくつか挙げておきたいと思います。

・66ページに、福祉施設規定の見なおしについて述べられています。そこに、「年金福祉施設の設置等の根拠であった,被保険者等の福祉を増進するために「必要な施設をすることができる」旨の規定を廃止する」とあります。規定がなくなったのは、その通りです。ですが、旨と書かれていますが、かぎかっこ内はこの本の筆者が主旨をまとめたものではなく、当時の法規にあった表現そのままです。日本語としておかしいのですが、筆者の問題ではなく、かつての厚生年金保険法79条、「政府は、被保険者、被保険者であつた者及び受給権者の福祉を増進するため、必要な施設をすることができる。」からそのまま引きうつしたものです。

・96ページに、国民年金の学生納付特例について述べられています。そこに、「在学する大学が学生納付特例事務法人の指定を受けていれば,平成20年4月より,在学する大学等の窓口での申請が可能」とあります。「在学する大学」と「在学する大学等」との両方が出てきますが、これは前のほうを修正して、そちらも「在学する大学等」とするべきでしょう。なお、国民年金法109条の2にあるように、厳密には教育施設ごとではなく法人単位で指定を受けるのが学特事務法人制度です。

・136ページに、障害年金の障害認定日について述べられています。そこに、「心臓ペースメーカーおよび人口弁については装着したとき」とあります。正しくは、人工弁です。見るまでもないとは思いますが、国民年金・厚生年金保険障害認定基準 平成24年9月1日改正の「第3 障害認定に当たっての基準」の、1章11節2(10)に規定されています。

・161ページに、「退職金制度の形態」と題した表があります。一連のデータの出典が下に示されていますが、平成9年以前は労働省、平成20年については厚労省の調査で、では平成15年はというと、書かれていません。この年ですので、もう厚労省のはずです。探すまでもないと思いますが、就労条件総合調査 平成15年版(厚生労働省大臣官房統計情報部編、労務行政)に同じ数値がありますので、出典はこれだと判断できます。