生駒 忍

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ピグマリオン効果が正解です

第15回精神保健福祉士国家試験について、例年どおり、いろいろなところが模範解答を発表しています。その中で、やまだ塾というところが、共通の問題9は正答なしだという判断を出しています。

問題9は、心理的効果に関する正しい記述をひとつ選ばせるという設問でした。「心理的効果」というくくり方には違和感がありますが、取りあげられたのは、ピグマリオン効果、スリーパー効果、ハロー効果、アナウンスメント効果、ブーメラン効果という、古典的なものばかりです。「ピグマリオン効果とは,自分が相手に対してある期待を持つと,自分自身が意識しないうちに当該期待に沿った行動を,自らがとってしまうという行動傾向をいう。」とある選択肢1が正解だろうということは、やや表現に気になるところはあるにしても、心理学者ならまずまちがいませんし、他の選択肢も見れば一目瞭然です。私も職業上、正答できるのはあたりまえなのですが、これは混乱をまねく出題ではないかと、解きながら心配していました。

やまだ塾の判断はというと、ピグマリオン効果を「人間は期待された通りの成果を出す傾向」と定義して、そのため誤りとしました。そして、他の選択肢も誤りなので、問題9は正答なしと結論したのです。私はこれを見て、やはりという思いでした。たしかに、特に通俗書や入門書などで、ピグマリオン効果の定義は、そのような意味あいのものになりがちです。ですので、そういったものでしか学んでいなければ、この設問での表現では、誤っているのではと感じてしまうのも、無理のないことです。しかし、他者へのある期待が、その他者に実現されるという関係の間には、期待をもった人がそれに影響された行動をこの他者に対してとるようになるという過程があり、この中核的な部分を指して、ピグマリオン効果という用語をあてることもあります。むしろ、こちらのほうが本来の、あるいは本質的なピグマリオン効果だという見方もあるでしょう。そういったことを考えれば、やまだ塾の主張は、挙げた定義がうそだというわけではありませんが、そうでない場合を見おとしていて、正解なしという判断を下してしまったのだということになります。

もちろん、私としては、やまだ塾を非難したいわけではありません。このような設問では、悪問とは断じませんが、混乱があるだろうと思っていたところ、やはりそうだったということで、立場上言いにくいのですが、出題者のほうに責めがあるように感じてしまいます。ですが、基礎的な用語ばかりを問いながら、心理学を深く学んだ人だけが解けると考えると、良問という解釈もできるかもしれません。ちなみに、今回の一番の悪問は、問題77だと思っています。

受験者が使っている参考書でも、やまだ塾が示したものと同じような書かれ方がされていたでしょうか。そこで、定評のある中央法規のものから、手もとにある社会福祉士・精神保健福祉士受験ワークブック2013(共通科目編)精神保健福祉士受験暗記ブック2013とを確認したところ、ワークブックのほうでは「他者に対する期待が成就されるように機能すること」(p. 68)とあり、今回の問題でも迷いにくい定義になっていて、少し安心しました。暗記ブックには、載っていませんでした。

さて、問題の問題9に関して、やまだ塾の解説に指摘を足しておきましょう。スリーパー効果の説明は、誤りとは言いませんが、信憑性の低いほうの変化を挙げるほうがよかったと思います。また、アナウンスメント効果にある「減少」は「現象」と、ブーメラン効果にある「山椒」は「最初」と書きたかったのだと見てよいでしょう。