生駒 忍

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体罰反対やいじめ論を軽妙につづる自費出版物

きょう、YOMIURI ONLINEに、「いじめ」「体罰」「命」 校長室つうしんが本にという記事が出ました。本よみうり堂の記事にはめずらしい、自費出版物の紹介です。

20年ほど前、そのころは校長だった著者が、5日に1本ほどのペースで書いていた原稿から、厳選してテーマごとにまとめた本だということです。ですが、「「生きるということ」「こころの贈り物」「教育とは何か」「子どもの幸せを考える」「読むこと書くこと」「いのちの教育」の7章に分け」とあって、7章からなるはずが、ひとつ足りないようです。内陸都市はなぜ暑いか 日本一高温の熊谷から(福岡義隆・中川清隆編、成山堂書店)の第7章のような異質な章をはずして、本題の6章を挙げたのでしょうか。

「体罰反対に至る自身の教育経験」「いじめへの考察」など、重そうな話題も多いようですが、そこを「軽妙な筆致でつづっている」というのは、ずっと現場のまん中にいた方だけによけい異色で、興味深いところです。また、本のタイトルがとても概括的で、書店で目だたなそうですが、自分で考えた自費出版らしいタイトルだと思います。似たタイトルの九十歳。生きる喜び学ぶ楽しみ(清川妙著、海竜社)は、こちらも元教員の著作ですが、年齢の訴求力が利いていて、商業出版慣れが感じられます。

ゴルトベルク変奏曲の数理性がわかりますか

日経おとなのOFF 2013年11月号(日経BP社)の特集は、大きいほうが「おとなのための珈琲案内」、小さいほうが「おとなのクラシック入門ピアノ編」です。後者がより私の関心を引きました。それでも、この雑誌らしいといえばそれまでですが、これは初学者むけのようで、それでいて本格的なにおいをちらつかせながら、そう深くはないという印象でした。ピアノといいつつも、その前史を含めて取りあげられているため、避けては通れない名曲として、ゴルトベルク変奏曲が登場します。この曲に関して、「誰もが直感できる厳格な数理性と美の規則性」という表現がされているのが、少し引っかかりました。数理性、規則性は、そのとおりだと思いますが、「誰もが」とまで言ってよいのでしょうか。モーツァルトの脳(B. ルシュヴァリエ著、作品社)に登場する、音の高低という次元からもうわからない人ほどでなくても、あれを聴いてよい曲だとは感じる一方で、「厳格な数理性」を感じはしない人も、少なくないように思うのです。田中吉史・金沢工業大学准教授が、都立大時代に、反行や逆行に原メロディとの類似を見る人は多くないことを示していたと思いますが、楽譜のような聴き方をできる人でないと「見え」ないものもあるのではないでしょうか。教養のツボが線でつながる クラシック音楽と西洋美術(中川右介著、青春出版社)に、「楽譜の誕生は、音楽における規則性、法則性が整備されることを意味していた。」とあるのを思い出します。かつて広く読まれた大著かつ奇書、ゲーデル,エッシャー,バッハ あるいは不思議の環(D. ホフスタッター著、白揚社)も一応そうですが、作曲家の池辺晋一郎によるバッハの音符たち 池辺晋一郎の「新バッハ考」(音楽之友社)くらいになると、楽譜鑑賞の世界になっています。

音楽を専門としない人に、楽譜鑑賞的な「聴き」方を説明して、うまく理解してもらうことはできるでしょうか。その点で関心があるのは、NHKが放送しているオックスフォード白熱教室です。先週の第2回では、ゴルトベルク変奏曲が登場して、シンメトリーとの関連に言及されましたので、音楽家でない学生に「厳格な数理性」をどの程度説明できるだろうかと注目したのですが、まん中に序曲をはさむことなど、ごく簡単なことだけで流されていて、たしかにこれが無難だと思わされました。ですが、あすの第3回は、隠れた数学者たちと題して、芸術と数学とのかかわりを論じるようですので、もう少し踏みこんだ議論があるかもしれません。

なお、シンメトリーによる音楽美への言及は、最近出たバッハを知る バロックに出会う 「ゴルトベルク変奏曲」を聴こう!(塚谷水無子著、音楽之友社)にもあります。具象的なイメージをふくらませながらゴルトベルク変奏曲を読みとく本でも、すぐれて抽象的なシンメトリーの話題を入れたくなるというのは、興味深いところです。

楽譜でないもので、規則性を視覚的に鑑賞することはできるでしょうか。伝統的な楽譜ではない視覚表現では、やはりWIRED VOL.4(コンデナスト・ジャパン)の「ゴルトベルクを視覚化する」が忘れられません。まずは目がくらむほどの色とりどりに圧倒されますが、このやり方から作品の「軸」が浮かびあがるという有用性に、さらに目を引かれます。

さて、ゴルトベルク変奏曲というと、疑問の声も多いですが、作曲依頼の経緯も有名です。ですが、実際にそのような効果を期待してよいのでしょうか。寝るだけダイエット(古谷暢基著、マガジンハウス)によれば、「クラシックが苦手な人にとっては安眠に役立つ保証はありません」とのことです。一方、たとえば頭をスッキリさせる頭脳管理術(樺亘純著、PHP研究所)は、「ブルックナーの「交響曲第一~九番」、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」は不眠に効果がある」と断言します。それにしても、ブルックナーが並べられるのも、しかも交響曲がひとまとめなのも、しかし00番と0番とははずされているようなのも、独特です。そういえば、信時潔は、信時潔音楽随想集 バッハに非ず(信時裕子編、アルテスパブリッシング)に収録された随筆「音楽の退屈」で、「ブルックナーの交響曲も緩い四拍子がしつこく続くので、豊かな音の波にゆられながらまいってしまう。」として、「ワルキューレ」第2幕や「ザ・グレイト」と共に退屈しがちな作品に位置づけていました。異論もありそうですが、少なくとも、昨年に一部で話題になった、集中力を高めるにはマーラーがおすすめと脳科学者・澤口氏よりはもっともらしいように思います。

Rコマンダーを取りあげた最近の書籍

Rコマンダーが、着実に知名度を上げています。フリーの統計ソフトのRの、若い方にはしきいが高いCUI環境を、GUI状にするもので、こちらもフリーです。

そのRコマンダーを取りあげた書籍も、今年になっていくつも出てきました。まず、あまりに想定外だったのは、第11版 現代社会福祉用語の基礎知識(学文社)です。用語の取捨選択にくせがあって、そこがおもしろいところでもありますが、ここにRコマンダーが立項されました。これをきっかけに、福祉分野でも利用者が増えるでしょうか。また、改訂をきっかけに、読む統計学 使う統計学[第2版](広田すみれ著、慶應義塾大学出版会)がRコマンダーへ対応しました。

そして、Rコマンダーをタイトルに打ちだした、事例による認知科学の研究法入門 Rコマンダーの活用法と論文の書き方(東京大学出版会)です。論争をよぶ書ではまったくないはずですが、Amazon.co.jpでの評価は両極にわかれました。ですので、私からは、表紙についてふれておきます。近所の本屋でこれを見かけて、とても注意をひいた表紙デザインです。「感性」の2文字の入り方を頂点として、独特のセンスなのです。しろうとのデザインでないことは明らかでしょう。もちろん、最近ではVOLT 2013年10月号(徳間書店)でドロンジョーヌ恩田も書いている、おしゃれが過ぎるのも逆にかっこ悪いというパターンでもありません。林修の仕事がうまくいく「話し方」講座(宝島社)での言いかえ表現としての「独特のセンス」ではなく、文字どおりにそう感じたのです。

『質的心理学ハンドブック』発売の情報

新曜社から、質的心理学ハンドブック(やまだようこ・麻生武・サトウタツヤ・能智正博・秋田喜代美・矢守克也編)が発売されます。メール版新刊案内132号では、来月発売予定となっていましたし、まだ新曜社通信に取りあげられていないように、ほんとうの発売日はもう少し先ですが、すでに学会先で手に入れた方もいると思います。あすまで開催されている日本心理臨床学会第32回秋季大会で、販売が始まっていますので、私は基本的に参加を認められることはありませんが、そうでない方でしたら、そこで手に入れることができます。

このハンドブックを取りあげたブログもあらわれています。きょうは、東京成徳大学の海保博之学長が、質的心理学ハンドブック」(新曜社)が発売という記事を書いて、画期的と評したほか、神奈川県立保健福祉大学の生田倫子講師による[家族心理.com]管理人ブログの、心理臨床学会2013という記事が、このハンドブックが販売されているところを公開しました。後者は、ブログ管理人が火種をつくった心理療法の交差点(岡昌之・生田倫子・妙木浩之編、新曜社)が売れているというお話ですが、その本のとなりの、角でとても目だつ位置に平積みにされたことがわかる写真が出ています。

私のところにはきょうでしたが、ちらしも届きました。Amazon.co.jpではペーパーバックとされていますが、ちらしでは上製となっていて、先ほどの生田ブログの写真を見ると、ちらしのほうが正しいはずです。なお、その生田ブログ記事が対象とした本も、Amazon.co.jpでは編著者の書き方がおかしなことになっています。

ちらしは、表面の右半分が、ほとんど目次で埋まっていて、その充実ぶりに圧倒されます。4節から5節が入った章が6本と、序章とからなっています。どの章のタイトルも、やや横長のゴシック体で書かれていますが、よく見ると、序章のタイトルだけは、そうでないようです。

『新世紀うつ病治療・支援論』の連名と読点

少し前に、うつ病と感情調整との関連の論者の主な著書という記事を書きました。そこで取りあげた、お茶の水女子大学の岩壁茂准教授の著書に関して、少し補足をしておきたいと思います。

単著は、そこで挙げたとおりだと思います。ですが、共著については、臨床心理学入門 多様なアプローチを越境する(岩壁茂・福島哲夫・伊藤絵美著、有斐閣)があるだけでなく、共著ということばの定義にもよりますが、新世紀うつ病治療・支援論 うつに対する統合的アプローチ(平木典子・岩壁茂・福島哲夫編、金剛出版)を含めることもできます。3名での編集で、Amazon.co.jpでは編集者の3番目のようになっていますが、実際には2番目です。分担執筆者として、連名での章も含めて、あの中で一番の分量を書いています。さらに、この本の「はじめに」は、3名の編集者の連名ではなく、2番目のこの方ひとりでの著作になっています。先ほど挙げた有斐閣のテキストでも、目次にはない「はじめに」をひとりで書いていますが、筆頭著者ですのでそれで不自然はありません。ですが、金剛出版のものは、「はじめに」はこの2番目の方の単著で、「結語にかえて」は3番目ひとりで、編集後記は編者の3名の連名です。

金剛出版のウェブサイトで、そのはじめに結語にかえて編集後記が公開されています。気づいている方もいるかと思いますが、読点が「,」で統一されているように見えて、例外があります。「はじめに」では、「第18章で全体のまとめを示し,編者の一人である福島による「結語にかえて」を配し、最後に編者の「編集後記」を加えた。」というところにあります。そして、そこで取りあげられた編集後記を見ると、一番最後の、「数多くの著者の専門用語と語彙の統一を図る細やかな作業,全体を読みやすいものにするためのご尽力、そして編者への暖かいお心遣いにより本書が完成したことを思い,心から感謝いたします。」に入っています。細かい統一作業への感謝のことばの中に、あえて不統一をしのばせているのです。なお、これらの読点は、IME「ぎれ」のような、ウェブ版だけにある、盗用発見のためのものかと思いましたが、そうではなさそうです。現物でも、どちらも「、」になっています。