生駒 忍

記事一覧

後期ラカンの正確な入門書はなかったそうです

きょう、誠信プレビュー120号が届きました。誠信書房のサイトにある誠信プレビューのコーナーでは、以前の記事で触れた119号もまだですので、この号も出ていません。読みたい方は、営業部に問いあわせてください。

今号のReviewコーナーは、「精神分析(ラカン派)に関する本」です。ラカン派精神分析やパリ・フロイト派ではなく「精神分析(ラカン派)」となっているところに、日本共産党(行動派)を連想しました。先月に出たはじめてのラカン精神分析 初心者と臨床家のために(A. ヴァニエ著、誠信書房)を受けての企画と思われ、今号の13ページに、この本が登場します。そこには、「日本語で読めるラカンに関する著作には,ラカンの没後30年を経た今日でも,ラカンの後期の概念・思想までを正確かつ端的に記述した入門書がこれまでなかった。」とあって、きびしい指摘だと思っていると、そう書いたすぐ先のReviewで、ラカン関係の既刊書を紹介されることになります。週刊文春 12月12日号(文藝春秋)に出てくる、自分の売りを否定するような宮藤官九郎の夢を思い出しました。

先ほどのはじめてのラカン精神分析のページでは、「ラカンの概念・思想を平易に理解できる入門書」とも書かれています。ラカンの名前を出すと、むずかしいと返ってくる、そういう合い言葉なのかと思うほどだったりもしますが、それを変える一冊になるなら、ありがたいと思います。半年前にYahoo!知恵袋に立った、あすなろラボで東進予備校現代文講師の林修先生が未だに分かんない本として挙げた...という質問もありました。

そういえば、その林の「今でしょ!」は、今年のユーキャン新語・流行語大賞の年間大賞のひとつとなりました。このことばに対して、楽天womanにきょう出た記事、「逮捕の予感はあった」“喪服の死神“に指名された雑誌「創」篠田博之編集長がコメントのような、後だしと思われてもしかたのないかたちではなく、堂々と早々と受賞を予言していた人に、道浦俊彦がいます。流行語大賞のおひざ元、現代用語の基礎知識 2014年版(自由国民社)で、はっきりと書いています。また、そこには、「今でしょ!」があれほどまでにヒットした背景も考察されています。それは、「知識の「外付け」現象」だといいます。そう言われて、これがどんな現象なのか、さっそく検索してもわからず困惑した人もいると思いますが、手に入れて読んでもらえれば、まさにそこにあったのだとわかります。こういう書き方をとると、ジョジョの奇妙な冒険 27(荒木飛呂彦作、集英社)の「ポルナレフ状態」の有名なせりふが聞こえてきそうになります。

「虐待加害親の心理と●」とは何でしょうか

きょう、ナカニシヤ書店から、心理学教科書目録2014と、心理学新刊図書案内2013春が届きました。いつもお世話になっています。ながめるとほしいものが増えるとわかっていて、しかも何かと物いりになるこの時期でも、これは目を通さずにはいられません。

教科書目録は、表紙に桃色が使われて、やわらかい印象です。領域ごとに整理され、新刊書には「新」とついていて、見やすくて助かります。ですが、常にページの右半分におかれている目次に、細かい表記の不統一があって、やや気になりました。今回が初めてというわけではなく、毎年あるものなのですが、いくつか挙げてみます。

ページ右半分の情報は、内部用の管理コードと思われる部分を除き、ゴシック体になっているのですが、そうでない場合のある文字があります。ローマ数字です。ゴシック体にあわせてあるところと、そうでないところとがあります。新刊書の場合はあわせないようで、社会的養護内容(曻地勝人・進藤啓子・田中麻里編)、働くひとの心理学(岡田昌毅著)と、キャリアカウンセリング再考 実践に役立つQ&A(渡辺三枝子編)とで、そうでない書き方をされています。

ダッシュと思われるところは、常にゴシック体のようですが、ダッシュではない記号のように見えるものも含め、書き方がまちまちです。基本的には、1文字分のダッシュのようですが、いわゆる「二倍ダーシ」になっているものもあり、新刊書では障害臨床学ハンドブック[第2版](中村義行・大石史博編)と、ファシリテーター行動指南書(三田地真実著)とがそうです。対照的に、enダッシュと思われる短い記号を使っているものもあり、新刊書では“いのち”と向き合うこと・“こころ”を感じること 臨床心理の原点をとらえなおす(永田雅子・堀美和子編)がそうですが、認知と感情(北村英哉著)などと異なり、この本に関してはスペース短縮がねらいだとわかります。そして、ダッシュのように見えますがよく見ると少しだけ短い、別の記号に置きかえられているものが、あちこちにあります。見つけにくいのですが、たとえば大学生の自己分析 いまだ見えぬアイデンティティに突然気づくために(宮下一博・杉浦和美著)について、同じページですぐ上の大学生の友人関係論 友だちづくりのヒント(吉岡和子・髙橋紀子編)と見くらべると、わかりやすいと思います。また、逆に、ダッシュを使うとは考えにくいところがダッシュになっていることもあり、教育実践心理学(塩見邦雄編)で混在を見ることができます。

目次の中での太字の使用は、階層的な構成のときに一番上の区分を示すためのようですが、徹底されてはいません。また、明らかに横ならびの章立ての中に、太字とそうでないものとが混ざることもあります。新刊書では、スタートアップ「心理学」 高校生と専門的に学ぶ前のあなたへ(小川一美・斎藤和志・坂田陽子・吉崎一人著)がそうで、「1. 心理学とは」「3. 認知心理学」「5. 臨床心理学」が太字で、それ以外は太字にならない表記です。

入れる必要がよくわからない文字が入っているところもあります。臨床生徒指導 理論編(八並光俊・宇田光・山口豊一編)では、13章に実際にはない百分率記号がついています。また、心の物語と現代の課題 心理臨床における対象理解(後藤秀爾著)では、終章に実際にはないアスタリスクがつくほか、2章が「現代の思春期課題―『千と千尋の神隠し』における大●」、4章が「親になるという物語の喪失―児童虐待加害親の心理と●」という、ふしぎな切れ方になっています。1億人のための心のオシャレ人生設計 心理学からのアドバイス(渡辺利夫著)では、最後に「味」がついています。

電子化された『「心理テスト」はウソでした。』

きょう、nikkei BPnetに、「心理テスト」はウソでした。ってホント?という記事が出ました。2005年に出た「心理テスト」はウソでした。 受けたみんなが馬鹿を見た(村上宣寛著、日経BP社)が、先月にKindle版で出たことによる紹介です。文庫版は講談社からでしたが、日経BP社に帰ってきました。

原書は、発売直後に出たDOHC 18巻7号で、著者の人物評とともに賞賛されていました。あのころ、少なくとも私のまわりでは、その少し後に出たロールシャッハテストはまちがっている 科学からの異議(J.M. ウッド・S.O. リリエンフェルド・M.T. ネゾースキ・H.N. ガーブ著、北大路書房)は話題にのぼらず、こちらはあちこちで話題になっていたおぼえがあります。この本で問題点を突かれている性格検査は、教員採用試験対策などでは正しいものとして教えないと混乱しやすいので、以前に触れたマズローの欲求階層説の疑問などと同様に、教育者としてあたまを悩ませるところです。このような著作を通して、より適切な知識が世の中に広まることを望んでいます。

牧原純『二人のオリガ・クニッペル』の評判

二人のオリガ・クニッペル チェーホフと「嵐」の時代(牧原純著、未知谷)という本があります。9月に出たのですが、私はちょうど1か月前、10月20日付の毎日新聞の書評欄にあったことで、ようやく知りました。それより前に、書店で見かけてはいたとしても、あのようにコンパクトで、おだやかな表紙なので、目にとまらなかったのかもしれません。

評判はどうなのでしょうか。毎日のほか、先ほど検索してみたところ、読売の書評もありましたので、かなりの人に知られる機会があったはずです。なお、読売の記事は、最後に「2013年10月28日 読売新聞」と書かれていますが、記事のURLからみても、実際にはその一週間ほど前に掲載されたものの可能性が高いです。ちなみに、オフタイムから独立した「食べB」の第154回 茨城県ご当地グルメ(その4、最終回)は、最後に「2013年10月25日」とありますが、こちらは逆に、実際にはその一週間後に出た記事です。

そのように、存在はかなり知られていておかしくない本なのに、少なくともネット上では、よいとも悪いとも、ほとんど評判をみることができません。Amazon.co.jpでも、何のレビューもついていません。『音の惑星』 on the web...という、稚内のコミュニティラジオ局のブログの、先月23日付の記事が、例外的な存在でしょうか。ここは好意的ですが、ブログの立ち位置からして、きびしいことは書きにくいような気もします。内容紹介がほとんどで、評価といえるのは、導入時の「“爽快感”と共に一気に読了した」という表現、「2人目のオリガ・クニッペル」のナチスやソ連とのかかわりには「大変に興味深い!!」、そして最後の、「本作は、永い間に亘ってチェーホフの研究を続けて来た著者による、大変に興味深い話題をコンパクトに纏めた秀作だ!!」という礼賛です。これ以外で、個人ブログなどでの評価は、さっぱり見あたりません。若者が文学を読まなくなったというお話は、それ自体がもう古典のようになりましたが、ネット世代には、チェーホフに興味のある人など、もういないのでしょうか。

そういう私も、チェーホフを論じるような関心はありません。ですので、この本についても、本題についてはアナログ世界にまだまだご健在と思われるそういう人に期待することにして、最後におまけのようについた関連年表について、少し指摘するにとどめます。理解を深める上で有用な年表なのですが、義務教育レベルのものも含めて、まちがいや奇妙な理解が混ざっていて、困惑させられます。フランス革命が1793年に終わったとしているのは、歴史解釈の範囲内かもしれませんが、第二次世界大戦が1938年に始まったというのは、無理があります。また、この両者には開始年と終了年との両方を書いていますが、「スターリン粛清」は1934年からとだけあって、終わりがないのは不気味です。1938年に「ドイツ・ハプスブルグ帝国の併合。」というのは、カール1世退位やサン・ジェルマン条約、復位運動の失敗を無視しているようですし、「ハプスブルク」ではないのも気になります。表記では、1859年のダーウィンの主著はさんずいがつくほうで、1971年の「パリ コンミューン」は今日あまりされない書き方です。そして、プラハの春が1958年ということになっています。

ミネルヴァ書房が児童書への取りくみにも力

きょう、京都新聞のウェブサイトに、京の学術版元、児童書に力 図鑑や絵本78点刊行という記事が出ました。心理学書販売研究会のメンバーでもあるミネルヴァ書房の、児童書への取りくみを紹介しています。

児童書には「2011年2月から本格的に取り組むようになった」とあって、こういうことに月まではっきり書かれることはあまりないように思い、ユニークであると感じました。ですが、実際の刊行状況をさかのぼってみると、この月を境に出るようになったというわけではなく、この月に社内でのターニングポイントがあったという内部事情を記事にしたものと思われます。

「これまでの2年8カ月で78点を刊行。」とありますが、ミネルヴァ書房のウェブサイトで児童書カテゴリに入っているのは、錯視と科学(新井仁之著)など近刊のものまで含めても74件です。しかも、2011年2月より前に出たものもかなりあります。記事中に明記されたシリーズのうち、地獄・極楽なんでも図鑑はこの夏から秋にかけて出ましたが、日本の妖怪大図鑑は2010年3月に一挙刊行、日本歴史人物伝は2010年9月から順次刊行されています。「発達と障害を考える」シリーズは、記事に「全12巻」とある当初のシリーズは2006年から2008年にかけてで、ことしになって新シリーズ4巻が加わっています。