生駒 忍

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加藤敏幸議員が提示する障害者関連の統計数値

きょう、加藤敏幸参議院議員の公式サイトに、障害者の一般就労の拡大に向けてという記事が出ました。8月末から更新が止まっていた政策レポートのコーナーの、ひさびさの新記事です。

内容はとても堅実で、就労移行事業への高評価やさらなる充実の方向性には、総論として同意できます。ですが、教科書的な「障害者雇用政策の歴史」のセクションの分量が大きく、その後の議論も総花的で、とげもそつもない正論をつづっているという印象でもあります。斬新な提言も、きびしい政府・与党批判も、自身の取りくみの紹介も、障害者福祉への情熱のアピールもありません。利休にたずねよ(山本兼一作、PHP研究所)のような、枯れて見えても中は熱いというようにも感じません。私は職業上、そういう平板に文字数を埋めた「レポート」にはよく慣れていて、見たところ主張に大きな穴はないようですので、ふつうに読めてしまいましたが、つまらなくて途中で読む気がなくなってしまった人もいるかもしれません。このレポートは、BLOGOS記事にもなっていますが、まだ支持も0、意見も0とさびしく、ここは電機連合の力で、などとおかしなことをつい考えてしまいました。

細かいところで気になったのは、論拠に使われている統計データにやや古いものがが混ざることです。民主党が政権の座についていたころのものを使いたかったのでしょうか。たとえば、「2010年時点における法定雇用率達成企業の割合が47%程度に止まっている」とあるのは、結果的にはほぼ同じですが、やや古い数値です。達成割合は「障害者雇用状況」として毎年把握されていて、そろそろまた新しいものが発表されると思いますが、現状での最新版は平成24年 障害者雇用状況の集計結果で、昨年6月1日現在で46.8%です。民主党政権だったその1年前の45.3%から、やや改善しています。

「現在、5人以上の事業所で働いている障害者は、身体障害者が約34万6000人、知的障害者が約7万3000人、精神障害者が約2万9000人、総計で約44万8000人」とあるのも、「平成20年事業所調査」からの数値ということです。これに関しては、2011年12月1日現在での抽出調査結果が、第5回 障害者雇用促進制度における障害者の範囲等の在り方に関する研究会 (資料)の資料4にあります。ここから総数を推定すればよいのですが、事業所の規模ごとに回収率が異なり、「規模不明」もわずかながら生じていますので、正確な推定には少し手間がかかります。なお、先ほど示した平成24年 障害者雇用状況の集計結果には、雇用障害者数がはっきり出ていて、これを使うほうが早いと思いますが、こちらは調査時点で雇用義務が生じている規模のところを対象とした調査ですので、ずっと少なくなっています。また、加藤のレポートには「精神障害者については、これまで雇用が義務づけされてこなかったこともあって近年、就労が伸びておらす」とありますが、この集計結果には、「精神障害者は16,607.0人(同27.5%増)と、いずれも前年より増加し、特に精神障害者が大きく増加」とあります。

「現在、我が国の障害者の総数は約744万人とされています。」とありますが、平成25年障害者白書の数値で算出すると、3障害を合わせて741.1万人となります。加えて、「精神障害者については、身体障害者や知的障害者のような実態調査が行われていないため、医療機関を利用した精神疾患患者数を精神障害者数としていることから、一過性の精神疾患のために日常生活や社会生活上の相当な制限を継続的には有しない者も含まれている可能性がある。」とあることにも気をつけたいところです。

精神障害者保健福祉手帳の交付主体と申請先

きょう、西日本新聞ウェブサイトのワードBOXというミニコーナーに、精神障害者保健福祉手帳が取りあげられました。こうして、広く理解される機会ができることは、歓迎すべきでしょう。ですが、一部、適切ではない表現があります。

2文目に、「都道府県と政令市が認めれば」とあるのは、政令指定都市以外に住んでいる人が両者に認められようとすることを想像すれば、おかしいことがすぐわかります。「都道府県または政令市が認めれば」、と書くならよさそうです。法律上は、精神保健福祉法45条によれば都道府県知事が、政令指定都市ならば51条の12があるのでその市長が、出すことになります。

なお、2文目には、「市町村などの窓口に医師の診断書などを提出し」とあり、これは初学者がまちがいやすいところですので、取りあげておきます。法律上の申請先は、先ほどの通りなのですが、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令5条のため、必ず居住地の市町村長を通さなければなりません。6条の2は交付、8条は更新、10条は再交付と返還について、それぞれ同様に定めています。もちろん、記事に「市町村などの」とあるのは、特別区の場合には区長を通すことになることを指しています。みんなのメンタルヘルス総合サイトという、厚生労働省による啓発ウェブサイトで、精神障害者保健福祉手帳のページを見ると、単に「申請は、市町村の担当窓口で行ってください。」となっていますが、特別区でも可能です。保健所等で受けつけています。

語句解説の後の関連記事は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行規則26条1号に関するものです。適切に改正されることを、期待しています。

上智大学第二回ダイバーシティ講座の記事

1か月ほど前に、上智大学四谷キャンパスにて、上智大学の創立100周年記念事業でもある、第二回ダイバーシティ講座が開催されました。第二回は、有名な特例子会社であるパソナハートフルの白岩忠道取締役による講演でした。なお、上智大学のFacebookアカウントでは、パソナパーソナルという会社の方だと紹介されました。登記簿などを確認してはいないのではっきりとは言えませんが、そのような会社は実在しないようですので、大学がどこかでまちがってしまったのではないかと思います。

それから2週間もしないうちに、上智大学通信の最新号である378号で、写真つきの記事として取りあげられました。ウェブ上のPDFファイルの場合は、写真が荒くぎざぎざになっていて、顔だけが特にモザイクをかけられたように感じられるのは顔認知の特異性の反映のような気がしますが、私の手もとにある紙の現物では、きちんと表情がうかがえます。会社名もパソナハートフルと書かれていて、講演の内容はやはり、障害者雇用の現状と今後に関してだったようです。

この方の講演ですから、きちんと説明をしていたはずで、聴きに行った方は理解が深まったものと思います。ですが、あの短い記事では、「関わらず」の誤用はともかくとしても、障害者雇用率に関して誤解をするかもしれないところがありますので、補足しておきたいと思います。

法定雇用率は4月に変わるのですが、3区分とも一律に0.2%ずつ上げる変更ですから、2.0%になるというのはそのうち民間企業に関してです。また、企業就労している障害者の76%が身体障害であるとありますが、これも民間企業のみでの数値だと思います。実雇用率として述べている1.69%という数値の出所と考えられる、厚生労働省が発表した平成24年障害者雇用状況の集計結果には、民間企業全体で3障害を分けたデータはありますので、計算してみると76.1%になり、一致します。ですが、特に公営企業について障害の種別ごとに集計したデータは見あたりません。公表されていないそういった部分を何らかの手段で手に入れていたり、国とは別に独自の調査を行って集計していたりという可能性は低いですので、この記事で単に「企業」と書かれているのは、民間企業のことでしょう。そうは言っても、公営企業での3障害の比率が民間と大きく異なるとは考えにくいので、数値自体はだいたい合っているはずと思います。もしかすると、そういう前提をおいての公私こみの推定値として、あの数値を示したのかもしれません。

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