生駒 忍

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名大院・心理発達科学専攻の入試ミス発覚

きょう、YOMIURI ONLINEに、配点ミス、大学院2次試験中に一転「不合格」という記事が出ました。名古屋大学が、先月に合否発表が済んだ試験で事故があったことを、きのう発表したというニュースです。大学院教育発達科学研究科博士課程心理発達科学専攻ということで、かかわっていそうな先生の顔が思いうかんだ方もいるでしょう。

よりくわしい情報を求めて、名古屋大学公式サイトをのぞいてみたのに、トップページにある大学からのお知らせに見つからなくて、発表されたと報道されているのにと、がっかりした方はいませんでしょうか。「受験生向け」のタブをクリックすれば、一番上に、平成26年度名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士課程(前期課程)心理発達科学専攻入学者選抜におけるミスについてとあります。大学側は、研究助成金の不適切な会計経理に関する調査結果及び教員の懲戒処分についてなどとは異なり、一般向けではないと判断したわけです。大学院教育発達科学研究科・教育学部や、心理発達科学専攻のサイトには、まだ何も公表されていないようです。

大学サイトの情報では、ミス発覚の過程が見えませんが、読売のほうには、「この受験生が2次試験の口述試験を受験中にミスが分かり、終了後、受験生に不合格であると伝え、謝罪したという。」とあります。面接での受け答えの中に、採点者のミスに気づかせるようなものが現れたのでしょうか。そして、「終了後」がどのくらい後かはわかりませんが、「不合格であると伝え」たのが1次試験についてであったなら、本人への対応は早かったように思います。公表が翌月に回ったのは、損害賠償などで弁護士を入れてやややり合って、すべて済んでからの発表にしたためかもしれません。学内政治へと発展した中央大学裏口入学問題は、週刊現代 10月5日号(講談社)によればあの大学の独特の運営システムも一因のようですが、あのようにならないようにきちんと片づいたのでしたら、ひと安心です。

この事件では、受験の最中に発覚というタイミングでしたが、おかしいとわかったとしても、自分でそれを認めるのは、すぐにはできないことも多いものです。医療におけるヒューマンエラー なぜ間違えるどう防ぐ(河野龍太郎著、医学書院)でいう「たぶん,あれのせいだよ」が起こったら、そこでいったんおしまいです。そうならなくても、他の人から指摘されると、しばらく抵抗することもあるでしょう。考える人 2012年夏号(新潮社)には、三浦しをんの母が「ボッキの勉強」発言を認めるまでの押し問答のお話があり、できるかなゴーゴー!(西原理恵子著、扶桑社)の4コマ作品「中出し」のような即決にはなっていません。AERA with Kids 2013秋号(朝日新聞出版)で、夜店のシールをめぐるうそを2時間追及して認めさせた「小3男児、小5男児の母」はご苦労さまと思いますが、警察の取りしらべなら、けた違いの強者がいくらでもいます。みのもんたの次男も、再逮捕までしばらくしらばっくれていました。そういえば、FLASH 10月15日号(光文社)では、犯行現場あたりでのほかの盗みや、マリファナや薬物がらみの可能性まで、日テレ局員の話の中に出てきていますが、どうなりますでしょうか。

その場ですぐにはできなかったこととして、もう少し高尚な方向としては、音楽プロデューサー皆川弘至が、プレヴィンの録音では後悔し反省したエピソードを挙げておきましょう。後になって、自身でわが音楽巡礼(一藝社)に書いています。偉大な音楽家と理解しあい、すぐれた成果にいたったというエピソードが続く中で、プレヴィンの節は異質で、注意をひくものでした。なお、この本のずっと後ろに、教育家の井口秋子の節があるのですが、その最後は、「井口秋子先生の葬儀で、作曲家の三善晃さんの弔辞を聞きながら「ああ、これでまたひとつの時代が終わった」と感慨を深くしたのであった。」と締めくくられています。きょう、その三善の訃報が入りました。ご冥福をいのります。

大学非常勤講師と改正労働契約法の適用

この4月に、労働契約法が改正されました。それと大学非常勤講師の雇用とのかかわりが、ここのところ、あちこちで話題にのぼっています。今月14日の朝日新聞の生活面には、大学、5年でクビ? 非常勤講師、雇い止めの動きという記事が出ました。それから一週間少々して、池田信夫blogに非常勤講師という被差別民という記事が出て、なかなかのアクセスを集めているようです。

もっとも、この業界から見ると、今ごろになぜ、という印象も受けます。公布された昨年の8月に気づいていた人は少ないと思いますが、12月にはReaD & Researchmapで「いま聞きたい」という連載が始まり、その第1回が改正労働契約法は大学にどう影響を与えるか?というものでした。しかも、それから半年以上がたっていますが、今でもトップページからリンクされていますので、この業界の人のかなりの部分は、もう読んでいるはずです。トップページに出たままなのは、第2回以降がいつまでも出ないからで、前夜(幻冬舎)のようになってしまうのではと、心配なところです。

その第1回記事のQ10にあるように、大学の非常勤講師は、そもそも労働契約法の適用対象外になるという考え方もあるようです。その場合は、これまでと変わらないということになるでしょうか。もちろん、たいていは1年契約ですから、労働契約法でのしきい値になる5年は5回分ということで、従来からあるやや似たお話として、日立メディコ事件の判例を思い出します。最高裁での原告敗訴の判決文には、「その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、Xとの間においても5回にわたり契約が更新されているのであるから、このような労働者を契約期間満了によって雇止めするに当たっては、解雇に関する法理が類推され」、とあります。

朝日の記事については、いつもながらわかりやすく書けていると思います。記事の左側には、朝日が得意としている図解があって、これも親切です。気になるのは、早稲田大学のあつかいで、記事の中では2回出てきますが、4月の刑事告発のことには、ひと言も触れられていません。なお、そのうち最初のほうは、「朝日新聞の取材で、国立の大阪大や神戸大、私立の早稲田大が規則を改めるなどして非常勤講師が働ける期間を最長で5年にしている。」という文ですが、朝日の取材が規則改定をさせたというわけではありません。

また、年収500万円台で「生活はぎりぎり。1校でもクビになれば生活が成り立たない」という非常勤講師が登場しますが、週に15コマも入れることができるのは、専業非常勤でもあまりないことです。語学を担当しているということが、これだけそろえられる理由でしょう。語学はどこでも必修で、しかもLL教室の規模の制約や習熟度別のクラス分けなどがあって、開講されるコマ数が大変に多いです。そのため、同じ大学で同じ日に、何コマも続けてまかせてもらいやすい科目です。語学以外では、なかなかこうはいきません。ですので、これは特別な例と考えたほうがよいと思います。なお、この方はO先生ではないかというお話も入っていますが、私はお会いしたことがなく、わかりません。少なくとも、吉田拓史、牧内昇平の両記者とも、長岡宏大先輩のようなことは絶対にないはずです。

池田信夫blogのほうは、いつもながらきつい口ぶりですが、おおむね正論であると思います。ですが、「准教授になれば無条件にテニュア(終身在職権)が与えられ、年収は1000万円以上」と書かれたところは、正しくありません。最近では、任期つきの准教授もありますし、テニュアトラック制でまずは任期つきということも、めずらしくありません。

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