生駒 忍

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大学非常勤講師と改正労働契約法の適用

この4月に、労働契約法が改正されました。それと大学非常勤講師の雇用とのかかわりが、ここのところ、あちこちで話題にのぼっています。今月14日の朝日新聞の生活面には、大学、5年でクビ? 非常勤講師、雇い止めの動きという記事が出ました。それから一週間少々して、池田信夫blogに非常勤講師という被差別民という記事が出て、なかなかのアクセスを集めているようです。

もっとも、この業界から見ると、今ごろになぜ、という印象も受けます。公布された昨年の8月に気づいていた人は少ないと思いますが、12月にはReaD & Researchmapで「いま聞きたい」という連載が始まり、その第1回が改正労働契約法は大学にどう影響を与えるか?というものでした。しかも、それから半年以上がたっていますが、今でもトップページからリンクされていますので、この業界の人のかなりの部分は、もう読んでいるはずです。トップページに出たままなのは、第2回以降がいつまでも出ないからで、前夜(幻冬舎)のようになってしまうのではと、心配なところです。

その第1回記事のQ10にあるように、大学の非常勤講師は、そもそも労働契約法の適用対象外になるという考え方もあるようです。その場合は、これまでと変わらないということになるでしょうか。もちろん、たいていは1年契約ですから、労働契約法でのしきい値になる5年は5回分ということで、従来からあるやや似たお話として、日立メディコ事件の判例を思い出します。最高裁での原告敗訴の判決文には、「その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、Xとの間においても5回にわたり契約が更新されているのであるから、このような労働者を契約期間満了によって雇止めするに当たっては、解雇に関する法理が類推され」、とあります。

朝日の記事については、いつもながらわかりやすく書けていると思います。記事の左側には、朝日が得意としている図解があって、これも親切です。気になるのは、早稲田大学のあつかいで、記事の中では2回出てきますが、4月の刑事告発のことには、ひと言も触れられていません。なお、そのうち最初のほうは、「朝日新聞の取材で、国立の大阪大や神戸大、私立の早稲田大が規則を改めるなどして非常勤講師が働ける期間を最長で5年にしている。」という文ですが、朝日の取材が規則改定をさせたというわけではありません。

また、年収500万円台で「生活はぎりぎり。1校でもクビになれば生活が成り立たない」という非常勤講師が登場しますが、週に15コマも入れることができるのは、専業非常勤でもあまりないことです。語学を担当しているということが、これだけそろえられる理由でしょう。語学はどこでも必修で、しかもLL教室の規模の制約や習熟度別のクラス分けなどがあって、開講されるコマ数が大変に多いです。そのため、同じ大学で同じ日に、何コマも続けてまかせてもらいやすい科目です。語学以外では、なかなかこうはいきません。ですので、これは特別な例と考えたほうがよいと思います。なお、この方はO先生ではないかというお話も入っていますが、私はお会いしたことがなく、わかりません。少なくとも、吉田拓史、牧内昇平の両記者とも、長岡宏大先輩のようなことは絶対にないはずです。

池田信夫blogのほうは、いつもながらきつい口ぶりですが、おおむね正論であると思います。ですが、「准教授になれば無条件にテニュア(終身在職権)が与えられ、年収は1000万円以上」と書かれたところは、正しくありません。最近では、任期つきの准教授もありますし、テニュアトラック制でまずは任期つきということも、めずらしくありません。