生駒 忍

記事一覧

「バイスティック」の7原則の恋愛への応用

きょう、LAURIERに、恋にも使える“バイスティックの7原則”。相手があなたに望むことはたった7つだけという記事が出ました。

本文にもさっそく、「バイスティックさんという社会福祉学者」とあるように、これを書いた鈴木ナナという人は、ほんとうに「バイスティック」だと思っているようです。ことしで没後10年になるF.P. Biestek、つづりだけ見ても「バイスティック」ではなさそうだと、すぐわかるはずです。テキストや参考書でも、福祉教科書 精神保健福祉士 出る! 出る! 一問一答 専門科目(翔泳社)が「バイスティックの示した7原則」「バイスティックの7原則」としたような例外が多少ありますが、たいていはバイステックです。私も、「バイスティック」ではないと、授業内で注意をうながしています。小さなことだといえばそれまでですが、その小さなことがおぼえられないようすも、たくさん見てきました。英語風にしたくなるのでしょうか。逆に、福祉士試験最終チェック本の気になった点の記事で、つづりを英語風にされたヴォルフェンスベルガーについて触れましたし、わが国の英語中心の外国語教育の副作用という見方もできそうです。また、私の世代ではまだ、キッツとよぶのは抵抗があるのですが、「セントクリストファー・ネイビス」というカタカナ表記を使う人があとを絶たないのは、メールをメイルと書くタイプの人をまねて、英語の感覚がわかるようにアピールしたいのだろうかと思うこともあります。

内容の方向は、タイトルのとおりなのですが、新しくはありません。バイステックの思想が時代おくれかどうかではなく、それを恋愛テクニックに関連づける視点がです。ことし5月には、Yahoo!ニュースに、生活に使える優しい社会福祉理論~モテたい男女のためのバイスティック7原則~という記事が出ました。これと、方向性がよく似ています。バイステックとは書かないところも同じです。7原則のならび順は、本や研究者によって変化があり、それでも個別化が冒頭にくることはどこでも共通しがちで、「個別化」らしくないのが皮肉ですが、今回の記事にある範囲での順序も、Yahoo!ニュースのものと同一です。それでも、文章はそれほど参考にしなかったようで、以前に割れ窓理論の記事の記事で紹介した記事のようにはなっていないのは、ほめるべきところでしょうか、それとも、ライターとして当然のことにすぎないでしょうか。毎日新聞のウェブサイトにきょう出た記事、早大・小保方氏報告書:指導教授が博士論文の個別指導せずによれば、早稲田大学が学位を出した「下書き」博士論文には、イラストにまでコピペがあったそうです。以前に「酒鬼薔薇」世代の記事で触れた、早稲田のコピペ文化だと斬りすてるのはかんたんですが、研究者の世界にもこういう人がいるじゃないかと言われると、困惑をかくせません。それはともかくとしても、今回の記事は、「2位じゃだめなんでしょうか」ではありませんが、一番乗りの新しさというよりは、適切なタイミングで世に出すことを重視したのかもしれません。ゴールデンウィーク明けではなく、連休や夏休みのはじまりにこそと考えたとも考えられます。成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?(上坂徹著、あさ出版)にあった、スカモルツァの事例を思い出しました。なぜかscamorzaを「スカルモッツァ」と表記していましたが、新しいトレンドを読んだつもりが、「ちょっと早すぎて」失敗したそうです。そういえば、きょうお昼ごろに見かけたトレインチャンネルのニュースでは、「米大統領「新ロシア派が撃墜の可能性高い」原因究明に向けた国際的な調査必要と強調」とあって、まさかアメリカがНоворо́ссияを認めたとは、とあせってしまいました。

最後の段落に、「ここまで7つのうち4つ、法則を見てきましたがどうでしょうか?」とあるように、この記事は実は、前編です。はじめからそう書いておくべきだというのが正論かもしれませんが、途中までだとわかってしまうと、アクセスが集まりにくいという事情もありそうです。いつごろからでしょうか、テレビバラエティで、冒頭で流れるその日の内容のダイジェストのような映像や、新聞ラテ欄での紹介文で誤解させて引っぱるやり方は、めずらしくなくなりました。中には、ある回の冒頭でちらりと出されたものが、次週にさえまだ登場しないようなこともあります。これも、早さよりもタイミング、ということなのかもしれませんが、期待よりも遅らされると、よい気分はしないものです。そういえば、人生を最高に楽しむために20代で使ってはいけない100の言葉(千田琢哉著、かんき出版)は、「早ければ早いほど。」も「ちょっと遅れます。」も批判していました。