きょう、NEWSポストセブンに、凶悪犯が酒鬼薔薇聖斗に憧れ宅間守や加藤智大に憧れない理由という記事が出ました。
これは、「柏「通り魔」だけじゃない!「酒鬼薔薇に憧れるネット男」が増えている」という中づりの見だしで気になった方も多いと思いますが、女性セブン 3月27日号(小学館)の、柏の通り魔殺人だけでなく、1月の狭山、先月の東京と、相つぐ「酒鬼薔薇」の影響を受けた事件に注目した記事からの抜粋です。「格差社会とネット文化」が背景にあるという、和田秀樹の主張が紹介されます。
「世間の注目を集めて自分を認めてもらおう」とあるのはそのとおりだと思いますが、気になるところもあります。まず、格差社会との結びつけです。酒鬼薔薇は、世間をにぎわした凶悪犯の中では、むしろ格差との関連がうすい人物です。宅間(吉岡)守や加藤智大のほうが、本人の真意はともかくとしても、くらし向きも、社会的反響も、格差と強く結びついたものでした。あるいは、もう起こした事件は忘れた人も多く、今では宗教を立ちあげ、岡山に礼拝地をおくなどの主張で一部の話題になった死刑囚、造田博でもいいはずです。そうならないのは、格差社会にもまれる人には、現実を意識させない存在のほうが、あこがれの対象になりやすいためでしょうか。そういえば、「働かずに稼ぐ方法ベスト25」を載せたSPA! 12月17日号(扶桑社)で鴻上尚史が、労働問題をテーマにした「ダンダリン」の視聴率がふるわなかったのは、みんなそういう企業ではたらいているのにドラマでまた見たいとは思わないためだろうと論じていました。
「酒鬼薔薇を崇拝する人々は、皆、小さい頃にあの事件をテレビで見て、日本中が騒然となった様子を肌で感じた世代」とあります。幼いころに、テレビ報道の洪水で水路づけされたと考えるのでしょうか。ですが、さかのぼってみて、オウム真理教事件の松本智津夫、幼女連続誘拐殺人の宮﨑勤、グリコ・森永事件の「かい人21面相」、「ロス疑惑」の三浦和義、ロッキード事件の田中角栄、連合赤軍の面々などが、それぞれその当時に子どもだった世代のあこがれを集めて、それぞれに対応する犯罪へみちびいたかというと、考えにくいところです。酒鬼薔薇の影響の大きさは、子どものころに接した世代というよりは、子どもにとっての同世代が犯人だったことによると思います。この、いわゆる酒鬼薔薇世代は、アスペルガー症候群を有名にした「人を殺してみたかった」の豊川夫婦殺傷、2ちゃんねるを有名にした「ネオむぎ茶」のバスジャックで、あの年にはまだ、17歳のこころの闇、キレる17歳などと誤解されたのですが、このコホートはその後も、注目を一手に集める通り魔殺人犯などを輩出するのでした。加藤智大も、その少し前の土浦通り魔事件の金川真大もそうです。加藤は金川の事件に、ネオむぎ茶は豊川事件に刺激を受けるなど、酒鬼薔薇からの影響が、同期の中をさらに回ることもあります。山口母親殺害・大阪姉妹殺害の山地悠紀夫や西尾ストーカー殺人・蒲郡通り魔のように、社会復帰後にまた事件を起こす例もあります。最近ですと、東スポWebに1か月前に出た記事、アイドル脅迫容疑で「第二の酒鬼薔薇」逮捕の、「自分の存在を認めてほしかった」という自称「第二の酒鬼薔薇聖斗」も、同世代です。
酒鬼薔薇の存在感の強さは、一般社会のどこかにいることにもよります。あの世代では、金川や山地はもう刑死しましたし、心神喪失で無罪となった者も思いあたりませんが、医療少年院に入ったネオむぎ茶を除けば、死刑どころか何の刑事罰も受けることなく、社会復帰となった例外的な存在なのです。週刊新潮2005年1月20日号によれば、復帰前にはカウンセリングを行った女医と「医者と患者を超えた信頼関係」となったそうです。ユングは複数の女性患者と関係をもち、心理学対決! フロイトvsユング(山中康裕編、ナツメ社)によれば、それは「創造の場としての「神聖」で「超越的」な関係」なのだというお話を思い出します。そして、現在どこでどうしているのかはわからず、特別に改名したともいわれますので、もし何かで亡くなったとしても、それが世の中に知られることはありません。ですので、酒鬼薔薇は誰も見ることができない「透明な存在」となり、永遠に生きつづけるのです。
もちろん、酒鬼薔薇だけが凶悪犯罪者を刺激するわけではありません。今回の記事のタイトルとは異なり、柏の通り魔は尊敬する人物として、宅間も挙げました。週刊文春 3月20日号(文藝春秋)には、本人の誤字と思われるところをそのままで、「XJAPAM」「沖田宗司」も尊敬の対象だとあります。TBS News iも、「宅間元死刑囚と酒鬼薔薇聖斗、尊敬している人だと。」というチャット仲間の発言を報じました。
宅間の影響は、酒鬼薔薇の次に位置するかもしれません。直接に宅間を使った例としては、「大阪から来たんだよ。宅間のお兄ちゃんだよ。」の事件があります。また、まったく性質の異なる事件でしたが、奈良小1女児殺害事件の小林薫は、「早く死刑判決を受け、第二の宮﨑勤か吉岡守として世間に名を残したい」と供述しました。まだ裁判中であった宮﨑は、これを知り、いやがったようです。そういえば、歌と宗教(鎌田東二著、ポプラ社)は、酒鬼薔薇のあの神を「バモイドウキ神」と表記しましたが、本人がこれを知ったらいやがるでしょうか。「おにばら」に抗議したときの気持ちを思い出すでしょうか。
さて、記事には「酒鬼薔薇は“時代の寵児”」「若い世代にとって猟奇殺人の“元祖”」とあります。影響を受けて、自分もと大きな事件を起こして注目を集めても、元祖を乗りこえることは容易ではありません。せっかく注目を集めたところで、元祖の流れをくむ、つまりオリジナルとはいえないものになってしまっては、「承認欲求」を満たしきれるのか、少し心配になります。その意味では、知名度の流用だとはっきり自覚がある「第二の酒鬼薔薇聖斗」や「宅間のお兄ちゃん」は、気負いがなく楽かもしれません。
気負わずに流用といえば、はてなダイアリーにきのう出た記事、早稲田大学の理工系におけるコピペ文化についてが、かなりの反響を集めています。横にならべるととび出して見えそうなレポートの執筆者をならべて事情をきくことのある仕事をしているので、ここまで突きぬけてしまえば、おたがいに楽かもしれないと感じます。ここに書かれた範囲でも、留年にもつながること、教員は採点をしないこと、「附属高校から上がってくるボンクラ学生がいること」、お金がないことなど、いろいろな要因が重なったことで、突きぬけたのだと思います。
あの大きな大学にお金がないとは、実感がわきにくい人もいると思います。ですが、Business Journalにきょう出た記事、早稲田と日大、なぜ学費大幅値上げ?補助金削減に志願者減…有名大学でも試練の時代によれば、早大と日大との学費の値上げが、他大ではない規模のようです。大学の学費には消費税がかかりませんが、両大学とも補助金を大幅に減らされたとあります。知名度や歴史は、お金とイコールではありません。
この2大学の組みあわせは、どこかで見おぼえがあると感じ、すぐに思い出しました。守一雄・東京農工大学教授が示した、大学の論文数と研究者数との相関です。グラフの右下に、まるでアンダー・アチーバーのようにはずれた2点が、その2大学です。筆者も指摘するように、私学に不利な要因もありますが、世間のイメージでは横にならぶ慶応と比較するだけでも、早稲田の苦戦は明らかです。早稲田は慶応の5割増しの研究者数で、論文数は3分の2にもとどかないのです。ここから、早稲田のコピペ文化などといわれるものは、あったとしても学部生まである、もしも上までそういう文化ならば、慶応に大差をつけられることはないはず、という解釈をしてもよいでしょうか。
その稲門閥の希望の星が、実はブラックホールだったかもしれません。あのNature論文だけにはとどまらず、本人の博士号、まわりの研究者の不正へと、問題は広がりつづけます。中日新聞のウェブサイトにきょう出た記事、STAP疑惑底なし メディア戦略あだには、「会見に備え、理研広報チームと笹井氏、小保方氏が1カ月前からピンクや黄色の実験室を準備し、かっぽう着のアイデアも思いついた。」と、研究とは無関係にオリジナリティが見えたところまで、作りものだったと明かしました。上昌弘・東大特任教授のツイート、どうやら、小保方さんは剽窃・改竄の常習犯だった可能性が高いにあるように、どこかで暗黒面におちたのなら、ではどこでという問題も出てきます。早稲田のコピペ文化の発展なのでしょうか。それとも、稲門閥にはほかにこういう人は存在せず、特異な才能が目ざめただけなのでしょうか。
おとといには、「かけがえのないバイオの若い才能」と評価した人が、もうそのツイートを消してしまいました。小保方氏、早稲田応用化学会HPから顔写真が消えた! 「絶賛」「擁護」のブログやツイート、削除する有名人もにあるように、スプツニ子!というアーティストです。はみだす力(スプツニ子!著、宝島社)では、「日本にはあまりにも批判がない。」と言いきったこの人が、日本で批判を受けだした人物をいったんはかばいました。そのツイートを消したのは、自著と矛盾すると思ったためでしょうか、それとも、このままでは自分が批判されそうだと、心配になったためでしょうか。