生駒 忍

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さいころをふる心理実験と「はてな村奇譚」

きょう、Yahoo!知恵袋に、大学で学ぶ心理学はどんなこと、どんな勉強をするんですか? 大学は行きたい学部...という質問記事が出ました。

心理学に興味を持ってもらえるのは、とてもうれしいことです。すでに、心理学に統計が求められそうなことも伝わっているようで、数学をがんばる意識があるのも、ありがたいです。

「私は心理学は名前的に人の感情や性格について研究するのかな、と思ってましたが、調べてたら、なんだかサイコロ?をふって次は何が出るかとか…?えって思いました。」とのことです。「名前的に」サイコロジーなのでさいころ、という連想ではないはずですが、心理学について調べていて、何かの心理実験で、そういうものが登場したのでしょうか。むずかしい学術書はともかくとしても、ことし出たものではたとえば、話のおもしろい人、へたな人の心理法則(内藤誼人著、PHP研究所)に、「ミネソタ大学のジョセフ・レッデン博士は、70人の学生を集めてサイコロゲームをしてもらった。」とあります。私は、確率的に有利な選択肢を選ばない人が4割近く出る、反直観的な確率的判断課題かと思ったのですが、著者はそこの議論はせずに、こまかいことはいいからシンプルにしようと、相対的剥奪の記事の最後に触れたような結論へと進めます。不勉強な私は、この研究を知らず、そこで論文を探してみたのですが、うまく見つけられませんでした。もちろん、一見するとそれらしく見えるものとして、Unpacking unpacking: Greater detail can reduce perceived likelihoodの実験1がありますが、こちらはイェール大学のS. Frederickとの共著で、ゲームをさせた役割が筆頭著者だけにあったのかどうかは、書かれた範囲では不明ですし、61%という割合はあっても3択での選択率ではありませんし、3条件のうち3番目以外は内容が異なり、同じ実験だとしたら中学生レベルの誤訳だと考えなければいけませんので、著者に失礼でしょう。

また、その半年後、つまり最近出たばかりの良い習慣悪い習慣 世界No.1の心理学ブロガーが明かすあなたの行動を変えるための方法(J. ディーン著、東洋経済新報社)には、「ダイスセラピー」が紹介されています。精神科医が、自分の行動を、用意した選択肢からさいころで決めることで、退屈、終わりなき日常どころか、自我からも解放されるほどになったとあります。ですが、このアレアで、コンセプチュアルアートのような生き方は、すぐ後に明言されているように、フィクションです。こちらも不勉強で、私は読んだことがないのですが、The Dice Man(L. Rheinehart作、HarperCollins)の主人公のことなのだそうです。

ただし、さいころの目は、人間の意思と無関係とは限りません。一定の訓練で、ねらった目を出せるようになることが、早稲田大学での研究で判明しています。実は私も発表に立ちあった、確率事象に対する運動制御の検討です。著者の片方は有名な心理学者で、また、謝辞には「本論分の執筆にあたり、ご助言いただいた、早稲田大学人間科学部の井出野尚先生に厚く御礼申し上げます。」とあります。制御幻想だと思われがちなものが幻想ではなくなる可能性を示す知見で、信じられない人は、実験参加者8名で有意差を出したシンプルな実験ですので、ぜひ追試に取りくんでください。

さて、心理学に限らず、外から期待されるイメージが、その学問の中の見方や考え方とずれることは、しばしばあることです。以前に、子ども電話相談室の記事で、心理学よりも文学になじむこころへの関心について書きましたが、大学へ入ってみたけれどどうしてもなじめないままの4年間では、おたがいに不幸ですので、よく見てから選んでください。きちんと見ずに、頭の中でつくったイメージばかりで入ると、興味ゼロどころか、マイナスへ落ちてきらわれかねないので、こちらとしても困惑します。

それで思い出したのが、はてな匿名ダイアリーにきのう出た記事、はてな村奇譚ウザすぎです。興味のなさではなく、嫌悪感の表明で、かなり共感も集めていますが、「5回位で終わるかと思ったらもう19までやっててほんまウザい。」という理解が、やや気になりました。すでに3作目、はてな村奇譚3でもう、「前回、前々回の2回で終わる話ではなく、全50ページくらいになる予定です。 」と公表しているのですが、そこは見ていなかったのでしょうか。あるいは、きちんと見ずに、5ページと誤読したのでしょうか。それとも、自分にはよい作品とは思えないので、スターもページビューもすぐ減って、あの人は5回もすれば投げだすにちがいないと読んでいたのでしょうか。