生駒 忍

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アルコール健康障害対策基本法の両面性

きょう、毎日jpに、アルコール依存症:新薬で広がる断酒治療法という記事が出ました。おとといの記事でも触れたレグテクトと、アルコール健康障害対策基本法案提出のうごきについて取りあげています。同じくきょう、北京新浪網に男子戒酒後出現幻覺稱遭人追殺 欲拉妻子四處跑という記事が出て、ぎょっとしたところですが、アルコール依存による問題を減らし、回復への道がひろがるのはよいことだと思います。

気になったのは、「脳」に関する表現です。「多量飲酒により脳の中枢部の神経が変形」とあるのは、「変形」のとらえ方によりますが、誤ったイメージを持たれそうです。「レグテクトは脳に作用するので、併用しても体への負担が少ない」というところには、以前の記事で「脳」と「私」とを分けることの議論について触れたことを思い出しました。なお、経口投与試験では14.1%に副作用として下痢が認められていますので、「体への負担」がないわけではないことに注意してください。

対策基本法の目ざす方向は、基本的には賛同できるものです。福山哲郎議員が語っている、立法によるよい影響は、期待してよさそうだとは思います。ですが、社会的な「理解」による副作用も生じるでしょう。アルコール依存症の章もある、あの「林先生」によるサイコバブル社会 膨張し融解する心の病(林公一著、技術評論社)を読むと、否認の壁が厚いこの疾患が、うつ病やアスペルガーと同様に「明るい病」になった時の、疾病利得や「自称患者」の問題が心配になります。

記事の末尾には、WHOによるアルコール依存症の診断ガイドライン6項目がありますが、医学用の道具ですので、自己判断などに使うのにはなじみにくいように思います。冒頭の「酒を飲めない状況で強い欲求を感じたことがある」からして、わかっている人向けのわかりづらい表現になっています。先ほどのサイコバブル社会にも載っているCAGEテスト4項目のほうが、一般向けとしては有用性が高いかもしれません。