生駒 忍

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「おまかせ消費」の2パターンと専門家の力量

きょう、NEWSポストセブンに、服や本を目利きが選ぶ「おまかせ消費」が拡大している背景はという記事が出ました。

「ファッション業界のみならず、自分で選べない、あるいは、より良いものを求める消費者による“おまかせ消費”が広がっている。」、興味深いです。これに近い従来のやり方は、百貨店の外商です。店舗に出むく場合とくらべて、実際にくらべて選べる選択肢はずっと少なく、担当者のセンス、ないしは担当者が顧客のニーズを見ぬくセンスが重要ですし、ほんとうにほしいものでなくても、つきあいや抱きあわせで買うのも一興です。新しい「おまかせ消費」は、それをずっと合理的に、クールでクリアなかたちにしたものという理解もできそうです。また、外商はワーカホリックで買い物へ出るひまがない人ではなく、ひまはある、お金はもっとある有閑階級が相手ですが、こちらはむしろ、日々いそがしい人向けのように思えます。

「スタイリストが同行する買い物ツアーに参加した30代女性はこう語る。」として示される「大きく分けて2つのパターン」になるのは、「お洒落に自信がないので、プロの方に服を選んでもらいと思って」と、「もっとファッションを学びたい、プロの方のセンスを吸収できるいいチャンス」とです。しろうとの1事例から、2類型からなるという示唆をみちびくことには、少々不安を感じましたが、これは後で、「船井総合研究所の上席コンサルタント」が示した、「消費者が選ぶのが難しくなって」「専門家に選んでもらえると安心」と、「より良いものを求めて、プロにおススメしてもらいたいと考える消費者もいるんですね」とに、それぞれ対応します。「選択による疲労」の低減の記事で取りあげたようなものは、どちらかといえば前者に近いと思いますが、本質的にはさらに別のものと理解したほうがよいでしょうか。

「KDDI株式会社は2013年より、スマートフォン利用者を対象に、各分野のキュレーターが選んだ商品を定額で毎月届ける「auおまかせショッピング」を開始した。」、これは「目利きが選ぶ」ことには違いないのですが、bemoolやいわた書店の、個々人に合わせているという売りがない点で、質が異なります。こちらは、食品の通販などで昔からある、頒布会商法の延長線上でしょう。なお、もう少し柔軟な手法のものとして、食品ではないので届いてからの「返品」が可能な、The CD Clubがありましたが、3年ほど前に消えたようです。

「もちろん、お客様のニーズを満たすためには、専門家(キュレーター)としての力量が問われるようになります。」、そのとおりだと思います。ここでポイントは、「専門家(キュレーター)」という書き方で、求められるのは、その分野内に圧倒的にくわしい専門家そのものよりも、多数のしろうとを含む、外の人に合うものをより分けることができる「キュレーター」になりそうです。そして、外の流行に合わせて、ないしは先回りして変わっていかないといけませんので、確固たる信念のある専門家では、かえってつとまりません。それでも、専門家は変わらないとはかぎらず、専門分野の中がうごけば、外からどう見られようと、変わるものです。「いつものパン」があなたを殺す(D. パールマター・K. ロバーグ著、三笠書房)は、専門家の助言が、そのうちに反転することがめずらしくないことを、批判的に指摘しています。