生駒 忍

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音楽中心音楽療法と傾聴技法としての感情反映

きょう、マイナビウーマンに、心に傷を持っている人に対して行う、適切な対応は?「人間中心療法」という記事が出ました。

「人間中心療法」という表現は、あまり使われないもので、より一般には、パーソン・センタード・アプローチ、PCAと呼ばれます。「療法」では、病気の治療というイメージが出やすいですし、「人間中心」も、背景を知らないと、心理療法ならあたりまえのことを、わざわざ名前にするのは無意味だと感じる人が出そうです。これに似た名前として、音楽療法の世界には、「音楽中心音楽療法」という考え方が現れていて、音楽療法なのだから音楽が中心であたりまえではないかと思った人も、本来は音楽ではなく、療法である以上は人間が中心になるべきと思った人も、それぞれいると思います。ですが、21世紀の音楽入門 7(教育芸術社)で小沼純一が、「昨今、環境についての考えも広く浸透してきており、人文科学のみならず、「人間中心主義」を批判する立場もさまざまにでてきましたが、芸術、アートにおいて、そうした発想はまだでてきていないようです。」と指摘したのと同様に、音楽療法で、積極的に人間を中心からはずすという立場も、考えにくいでしょう。皆さんは、音楽療法の中心、主人はどちらだと思いますでしょうか。もちろん、音楽中心音楽療法は、そんな単純なところで終始するお話ではありません。音楽中心音楽療法(K. エイゲン著、音楽の友社)を読みましょう。

「そのままではさらに孤立し、対人恐怖を抱えてしまう可能性もある」、一般にはこの逆、対人恐怖から孤立、孤独へという因果関係のほうが、より自然でしょう。うつ病とアルコール依存の関係の記事で触れたような悪循環も、もしあったとしても、そこまでは強くないと思います。

「アメリカ合衆国の臨床心理学者カール・ロジャーズは「非指示的療法」という心理療法を使っていました。」、あまり書かれないような表現がいろいろと入っていますが、「ロジャース」ではなくロジャーズと書いたのは、よいと思います。ちなみに、「ロージァズ」は、今日では一般的ではないでしょう。

その技法は、「繰り返しや感情の反射などを使ったカウンセラー技術であり、相手の悩みを軽減する方法」とされ、これはいろいろと、落ちつきません。「感情の反射」は、まちがいではありませんが、基礎心理学での反射との弁別を意識して、私なら反映と書きたいところです。ロジャーズ派に限局された立場ではないのですが、カウンセリングテクニック入門(大谷彰著、二瓶社)では、傾聴技法の2番目に、「感情反映」があります。「相手の感情を反射する」「相手が言葉にできない感情を言葉にして返してあげる」の区別として、反射と反映とで呼びわけたいという発想もあると思いますが、後者は「できない」ところをあつかう点で、感情反映とは区別され、カウンセリングテクニック入門での「クライアント自身が気づいていない気持ちや考え、触れたくない事柄に対して、いわばメスを入れる技術」、「クライアントの気づいていない感情や思考・行動・言動の矛盾に焦点を当てる技法」、つまり活動技法に近いでしょう。

「無条件の肯定的関心」「共感的理解」「自己一致」、基本的な概念ですし、「普段私たちが日常的に取り入れていくことも可能」と呼びかけるのならなおさら、かんたんにでもよいので、ぜひ説明してほしかったところです。「人がそこにいること」という、第一条件にも届かないものへの、文字どおりの理解はあるようですが、3要件はむずかしかったのでしょうか。