生駒 忍

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「適度のストレス」の定義と広瀬すずの動画

きょう、美レンジャーに、毎日が苦しいあなたへ「ストレスに潰されない」理論的メソッド4つという記事が出ました。

「自律神経バランスの調整を得意とする、パーソナルトレーナーでもある筆者が、ストレス解消を理論的に解説」するとのことです。ですが、セリエ学説やNIOSH職業性ストレスモデルなどをきっちりと説明するわけではありません。「上司の存在、仕事量などの刺激(ストレッサー)に対して、歪みが生じたF状態をストレス状態といいます。」と始まり、いろいろ気になる人も多いと思いますが、ストレッサーをストレスとわけてあるようで、心理学での語法としてはあたりまえですが、一般向けのものですので、そこは歓迎できます。

「ストレスは決して悪いものではなく、「人生のスパイス」といわれるほど、人生において必要なものです。」、この比喩表現は、Stress Without Distress(H. Selye著、Lippincott Williams & Wilkins)にある、「Stress is the spice of life.」のことでしょう。「適度なストレスであれば、充実した人生を送れますが、過剰のストレスであれば、辛い人生となります。」、表現はともかくとしても、これもうなずけるところです。ニッカン動画にきょう出た記事、広瀬すず 「『セブンティーン』の表紙飾れた」を見ると、すずがアリスにいじり倒されるのはストレスになってはいても、楽しそうに見えます。ですが、「適度のストレスというのは、例えば(1)ストレッサー(2)適応力(キャパシティ)の天秤があった場合、(2)の適応力が重い状態を指します。」、「適度のストレス状態を作るには、(1)ストレッサーを極力小さくすることと、(2)適応力を大きくすることが必要」とします。ストレッサーを減らしすぎると、「人生において必要なもの」まで失われ、「適度」を通りこしてしまいそうですが、ここでの「適度のストレス」の定義から考えると、これでよいのです。

「具体的な対策方を2つずつご紹介」、ここからが本題のようです。2カテゴリがそれぞれ、先ほどの2種のりくつに対応するので、「理論的メソッド」と呼べるということでしょうか。ストレスコーピングの分類はさまざまですが、これは問題焦点型-情動焦点型の二分法に相当すると考えられます。

まずは、「問題解決」です。「ストレスを抱える方の多くは、問題が今後どのように続いていくのか、うまくいかなかったらどうしよう、などと未来を”悩む”ことがとても多いです。」とします。書きだしでは、ストレスはうつ病と関連づけられていましたが、時間と自己(木村敏著、中央公論新社)によれば、うつ病患者の時間世界はむしろ、ポスト・フェストゥムだとされますので、それとの関係をどう考えればよいのか、興味深いところです。

次は、「回避行動」です。一般に、うつ病の時に退職や離婚の決断は避けるべきとされますが、この環境調整の例はどうでしょうか。休職や別居は手前で止めてあるといえますが、転職はたいてい、退職が前提になるはずです。「環境を変えることで、ストレッサーが小さくなるのであれば、これは適切な回避行動といえます。」、そこで「小さくなるのであれば」という前提が確証された転職ならよいと考えてよいでしょうか。

情動焦点型にあたるほうは、まず「運動、アロマ、入浴、音楽など手軽な方法で発散」です。ソフトで「手軽な方法」であることがポイントでしょう。思考のトラップ 脳があなたをダマす48のやり方(D. マクレイニー著、二見書房)にある、「ガス抜きをくりかえすと、攻撃的な行動が強化される。」ことには、注意が必要です。

最後は、「日記に書く」です。「適応力を大きくするには、まずは、自分を知る(精神分析)必要があります。」、精神分析を受けることが自己理解にどのくらい有効かはともかくとしても、その精神分析ではありません。

さまざまなくふうを提案しながらも、最後は「自分にそぐわない考え方だと辛くなります。自然体であなたのそのままで対応していきましょう。」と、下がってみせます。「ありのままを見てほしい」恋愛心理の記事で触れたような「ありのまま」メッセージで、がっかりしたでしょうか、それとも、ほっとしたでしょうか。