生駒 忍

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招待客の人数に連動する幸福感とダンバー数

きょう、Menjoy!に、どういうこと?幸せな結婚生活には「招待客150名以上」大学研究という記事が出ました。DSM-5訳語ガイドラインの記事で触れた、タイの大学教員が書いたものです。

「いったいどういうことか、詳しく紹介します。」とあるのに、それほどくわしくはないように、私には思えました。「招待客と結婚生活」と題して、4段落にわたって紹介されましたが、「その割合は、全体の47%。」以外は、一文ごとに段落を切りましたので、全部合わせても5文です。National Marriage Projectのレポートに、招待者数の分析は、それほどくわしくあつかわれてはいませんでしたので、くわしくは書けなかったのでしょう。どこの誰による研究なのかはわかっていますので、取材すればよかったのにと思う人も多いと思いますが、取材をことわられたか、取材のひと手間をかける気にならない原稿料だったかで、こうなったのかもしれません。

その紹介内容にも、適切ではないところがあります。「なんと招待客が150人を超える結婚式を挙げたカップルが、もっとも幸せな結婚生活を送っているということがあきらかに」、これはタイトルと、人数の境目が異なります。正しいのはタイトルのほうで、レポートには「To illustrate this association, we divided the sample into those who had weddings with 50 or fewer attendees, 51 to 149 attendees, or 150 or more attendees.」とあります。また、従属変数も、登場順に47%、31%、37%とありますが、どれも実際の割合そのものではありませんので、誤解をまねきそうです。これは、収入や教育年数などを統制した後の修正値で、たくさん招待できるお金持ちほどしあわせなのはあたりまえだというような、誰でも思いつく批判はかわせるようになっています。

それでも、「結婚式の規模が結婚生活に与える影響」という、因果関係だと決めての表現は、好ましくないでしょう。筆者自身が、「ほかにも招待客が多いということは、それだけ人間関係が豊かだということ。友人の多さが、その後の結婚生活で生じる問題で相談祈ってくれたり解決に役に立っているのかもしれません。」と、偽相関のような解釈を提案することともなじみません。

「いかがですか、結婚式はなにかと費用がかかるものですが、一生に一度ですから150名以上の招待客をよぶ結婚式を挙げてみてはどうででしょうか。」と締めます。「一生に一度」とは限らないことはともかくとしても、最後は「150名以上」と書いて、研究知見への対応性は回復されます。ひょっとすると、この群の結果を引っぱったのはけた違いに招待客の多かった人々で、150人かもう少しという程度では、その下の群とほぼ同じかもしれません。多ければ多いほどという単調増加で、たまたまここに線が引かれただけという見方もできます。続編も近々出るという、お任せ! 数学屋さん(向井湘吾作、ポプラ社)のストーリーにかかわった、継続しているが連続していないグラフのようなイメージではまずいパターンです。ですが、進化心理学的には、150人という人数は意味のある上限値とされることがありますので、それを意識した可能性もあります。友達の数は何人? ダンバー数とつながりの進化心理学(R. ダンバー著、インターシフト)でおなじみの、ダンバー数です。