生駒 忍

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訳語「自閉スペクトラム症」と平松隆円の所属

きょう、msn産経ニュースに、「障害」を「症」に 精神疾患の新名称公表という記事が出ました。日本精神神経学会による、DSM-5病名・用語翻訳ガイドラインを取りあげたものです。

記事には「旧版の「DSM-4」」とありますが、5の前は「DSM-Ⅳ」です。アラビア数字になったことも、重要かどうかはともかくとしても、5が出るにあたって話題になったところです。そこまでの話題にはなりませんでしたが、似たものとして、ハイドライドⅡはあってもⅢはなく、かわりにハイドライド3になった例があります。

大きなものの訳語がかなりうごいていて、賛否があるところだと思います。私としては特に、「症」のつかい方が気になります。ある単語に「症」を組みあわせる場合、一般には病因か、あらわれる問題につけて病名をつくります。たとえば、花粉症や酸素欠乏症、ハエ症は前者、健忘症や単眼症、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症は後者です。そして、今回の記事の例示にはありませんが、記事タイトルの「「障害」を「症」に」がそのままあてはまる、LDの新訳語だという「学習症」は、どちらからも逸脱します。まるで、学習の副作用だったり、不当に学習が起こってしまったりする病気のようです。「認知症」に反対するのが、医学界では日野原重明など一部にすぎないことや、はるかに古い「神経症」の前例から、問題なしと考えたのでしょうか。

「「アスペルガー症候群」は単独の疾患としての区分はなくなり、「自閉スペクトラム症」に統合された。」とあるのは、誤解をまねくように思います。TRもふくめて、旧版に「アスペルガー症候群」という名前の区分はありません。「自閉スペクトラム症」も、前からあって統合先にされたのではなく、今回つくられた訳語です。うまく定着するでしょうか。また、日本自閉症スペクトラム学会は、これにあわせて「症」の位置をうごかすでしょうか。それとも、日本特殊教育学会のように、そのままの学会名を維持するでしょうか。

とりあえず、訳語が固まったところですので、DSM-5全訳の公刊は、まだ先のようです。それでも、すでにあちこちで、部分的な訳が出てきましたので、その部分をかき集めれば、主要部がだいたいそろうかもしれません。先日は、看護の共通ケア(山勢博彰監修、照林社)に、DSM-5のせん妄の診断基準が訳されていることに気づきました。ですが、訳語の調整や誤訳への注意も必要ですし、そうあわてなくてもよいでしょう。

あわてなくてもで思い出しましたが、心理学専攻に関するずれた回答の記事で名前を出した、平松隆円という大学教員が、1週間ほど前に、researchmapの個人ページを更新しました。所属を、スアンスナンタ・ラチャパット大学に書きかえたようです。ですが、経歴のところを見ると、その所属は「2014年6月 - 現在」とあります。クーデターで暦が変わったとは聞きませんが、現在すでに籍をおいてあるのか、それとも来月からの予定なのかが、よくわかりません。もし後者だとすると、厳密には詐称になりそうですが、とてもいそがしそうな方ですので、悪意はまったくなく、単にあわててしまっただけだと考えたいところです。