きょう、ハフィントンポスト日本版に、私たちの「もの」の捉え方という記事が出ました。
京都で本を衝動的に買ったことから書き出されますが、何を買ったのかははっきりしません。続く話題から、Thinking, Fast and Slow(D. Kahneman著、Penguin)であるように読むのがふつうでしょうし、「大型書店」なら英書も取りそろえてあっておかしくないのですが、明示はありません。「ご興味のある方は、ぜひ本を読んでみてはいかがでしょうか。」とすすめるなら、和訳のファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 上・下(D. カーネマン著、早川書房)のほうのようにも思います。ひと昔前に、児童書の「ハリー・ポッター」シリーズを原書で読んだとアピールする人をよく見かけたものですが、筆者は3月まで大学院生だったので、そういう考えはないと考えたいところです。
「普段の仕事でも決まったルーティーンがある場合、ほとんど意識しなくても、勝手に体を動かすことができる。」、一般論としてはこれでよいと思います。ですが、たくさんくり返してルーティン化されたもののほうが、かえってあぶないというお話もあります。リーダーに必要なことはすべて「オーケストラ」で学んだ プロ指揮者の“最強チームマネジメント"(桜井優徳著、日本実業出版社)によれば、途中で演奏が止まるというおそろしい失敗は、ルーティンワーク化したおなじみの曲のほうで起こりやすいそうです。
原書か和訳かはわかりませんが、その本からの改変と思われる問題が、2問あります。問題2のほうは、図A・図Bがそれぞれどちらなのかが図からはわかりませんが、上が図Aで下が図Bであることは確実です。そして、問題1と2とは、単に例を2件示しただけのような書き方ですが、私はむしろ、両者の性質のちがいにも注目してほしかったと思います。問題1のほうは、いったん種がわかれば、すっきりと納得できて、前のまちがいとは縁が切れます。各種のかくし絵や、チェンジブラインドネス、4枚カード問題などは、このタイプです。ダイヤモンドオンラインにきょう出た記事、「ウチの子はいい子なのになぜ就職できないの!?」我が子を過大評価するクレーマー親が招く不採用の嵐にある提案、「あなた(親)ご自身が勤めている会社で仮に自分の子どもを雇うと考えてみてください。」の効果も、ややこちら寄りでしょうか。一方で、問題2のほうは、正しい答えがわかっても、それを境に「正しい」見方に切りかわるかというと、そう単純ではありません。心理学では、エイムズの部屋、カタストロフィバイアスなどはこちらです。以前に大阪ガス版の記事で紹介したMHDも、こちらに近いところがありそうです。そして、血液型性格論も、正しい知識を入れてもなお、関連があるように見え続ける、とても手ごわい存在です。
「ポーランド出身の著名な社会心理学者ロバート・ザイアンツ博士 (1923-2008)」、これはめずらしいカタカナ表記です。この後で、「偉大な社会心理学者 Robert Zajonc です。」として、カタカナをやめるものの、すぐこのカタカナ表記に戻ります。英語的ではないつづりですので、何と読むのか迷いやすいようで、「ザイアンス」が多数派ですが、ほかに「ザイオンス」「ザイエンス」「ザイオン」、中には原形をとどめない「ライアンズ」まで、さまざまなバリエーションがあります。「ザイアンツ」も、大変めずらしいように思います。以前に、戸部ルーマニア語本の記事で、私はルーマニア語の知識がまったくないと書きましたが、ポーランド語も同様です。それでも、末尾のcから「ザイアンツ」になったほうが、ポーランド風のような気がします。
この人の研究活動の紹介が、記事後半の主題で、その中で「後者 "Social facilitation" とはその言葉の通り、は他者との接触により動作の能率が変化する現象のことです。」とあります。ですが、頭文字が大文字にされたことなどはともかくとしても、社会的促進というと、ふつうは「変化する」という何でもありの現象ではなく、よい方向への変化のみを指すと思います。社会的抑制や社会的手ぬきは、社会的促進の中には入れないはずです。放射線カウンセリング・ステップONE(日本放射線カウンセリング学会編、日本放射線技師会出版会)にある、フロイド・オルポートによる用法でも、社会的促進と社会的抑制とは相いれないものとなっています。また、「動作」に限った現象ではありませんし、「接触」の定義も気になります。