きょう、メンズサイゾーに、音楽業界では珍しくない? 佐村河内守のゴーストライター問題で波紋という記事が出ました。
佐村河内については、以前の記事で触れて、あの売り方を「邪道」と表現しましたが、実は他人に書かせた曲でくらして、売り物のほうは邪道どころではなかったのでした。売り物だったのは、聴覚を失った作曲家、被爆2世、病苦と大量服薬、くり返す自殺未遂といった、買ったゴーストライターの作品に結びつけて商品価値をつくる苦難の物語のほうだったわけです。不正な業績をはがしていくと、まるで玉ねぎのように中身がなくなった藤村新一に続くでしょうか。指を切りおとしたり、解離を起こして不正の記憶をなくしたことになったりするのでしょうか。ほんとうの作曲者による、週刊文春 2月13日号(文藝春秋)での告発は、会話はふつうにできて楽譜は読めず、少年時代の体験談までゴーストライターの体験談を転用、自殺はおどしの手段という、すさまじいものです。売りだった聴覚障害は偽装で、障害者手帳は詐取だとすると、とうてい許しがたい行いです。
過去には、佐村河内が芥川作曲賞に近づいたこともあったようです。あやうくミリ・ヴァニリ事件のようになるところでした。お金で買った他人の曲だとは見ぬけず、三枝成彰は冷や汗をかいたのではと思いましたが、本人のブログ、三枝成彰のイチ押し!は、更新が止まったままで、何も書かれることはなさそうです。ですが、あそこで賞が出たら、ゴーストライターがいたたまれずに名のり出るきっかけになって、NHKも乗せられてのここまでの事態にはならなかったかもしれません。
NHKも、インパクトのある素材なのでうたがう気がなかったのか、障害者をうたがうのは気乗りしなかったのかわかりませんが、佐村河内の言うことをそのまま電波に乗せてしまったのでした。「奇跡の詩人」事件を思い出します。そのNHKのおかげで、「詩人」と同様に、クラシックとしては異例の大ヒットになりました。ですが、異例の活躍、記録、成果として飛びぬけたものに限って、ぼろが出て信じた人がばかを見るのも、世の常です。先の「詩人」やミリ・ヴァニリもそうですし、9秒79のベン・ジョンソン、430万票の猪瀬直樹、上には上がいます。
さて、今回のメンズサイゾーの記事は、とばっちりというべき方向へ、話題を広げます。クラシックではなくJ-POPでの、ゴーストライターの横行をやり玉にあげます。しかも、一応はイニシャルにおさえてありますが、誰を指すのかが誰でも見当がつく書き方です。ここで私が気になったのは、出身地のかたよりです。「人気アイドルグループのプロデューサーを務めるA・Y」は山の手育ちの方だと思いますが、ほかは沖縄や金沢も含めて、すべて西日本の人を指すように見えますが、いかがでしょうか。
出身地としては、佐村河内も西日本、広島で、例の交響曲のように、出身地もセールスポイントでした。被害額を決めることはむずかしいですが、同じ広島出身の有名人でも、保険金詐欺の丸山富洋とはけたが違うでしょうし、サントリー音楽財団とは異なり広島市民賞を出してしまった広島市の、負の歴史として残りそうです。広島出身で音楽関係では、童謡「こいのぼり」「チューリップ」などの真の作詞者として勝訴した近藤宮子がいるだけに、対照的な佐村河内の愚行がよけいに際だちます。
記事でゴーストライターだのみの有名人を列挙した音楽関係者の発言で、私がより関心があるのは後のほうで、「佐村河内さんの場合も周囲の関係者が全く知らなかったとは考えにくく、お涙頂戴の感動ストーリーを作り上げるために目をつぶっていた可能性がある」とあります。スポニチアネックスにきょう出た記事、佐村河内氏のゴースト疑惑 NHKは知っていた?高橋への影響は…も、この問題に触れました。旧石器遺跡ねつ造の藤村新一の事件については、旧石器捏造事件の研究(角張淳一著、鳥影社)が、周囲は目をつぶるどころか、考古学界内に共犯までいると指弾しました。法の華三法行の巨額詐欺事件では、教祖だけでなく教団幹部もいんちきだと知った上で霊感商法を展開したことが、裁判で明らかになりました。佐村河内の場合は、どうでしょうか。たとえば、妻は気づかずだまされていたのでしょうか、それとも「共犯」でしょうか。